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トップ > ITのチカラ [Vol.17] 広域自然災害による被災者支援の迅速化にITはどう貢献するのか > P2
日本は自然災害が多く、1985~2018年までの自然災害被害額合計のうち、アジアでは約3分の1、全世界でも15%弱が日本で発生したものによるという調査結果もある。防災・減災や自然災害発生後の被災者支援への取り組みに関する課題と、その解消のためにITが果たす役割について、関西大学の永松伸吾さんに聞いた。
今回のポイント
ソリューションレポート
――地震や風水災に備える民間保険の加入状況をどう見ていますか。
地震のリスクをカバーするものには、火災保険に付帯する地震保険のほか、JA共済の建物更生共済、全労済の火災共済・自然災害共済があります。地震保険だけを見ると加入率は4割程度といわれています。少なく見えるかもしれませんが加入割合は増加傾向で、JA共済や全労済も合わせれば地震リスクに備えている割合はもっと高くなります。これは評価すべき傾向だと思います。
風水災のリスクは火災保険でカバーされ、水害補償を外して保険料を抑えることもできる仕組みになっています。このため、集合住宅の上層階の方など風水災のリスクが少ない世帯は、保険に水害補償を付帯しないケースもあり、水害補償の付帯率は低下傾向にあります。こうした理由から、水害補償に関しては高リスク層のみが加入するため、保険会社としては風水災による負担が重くなりますし、温暖化の影響などにより水害補償の保険料は上昇傾向にあります。家計の負担も増えることになり、国が政策的に関与する必要性が出てくるかもしれません。
――被災者支援の拡充や支援迅速化に向けた現在の課題や取り組みの方向性について教えてください。
例えばアメリカでは、被災者の収入状況や持病といった個人情報を含めて「被災者台帳」に集約し、個人に合った被災者支援を行っています。「被災者台帳」は、医療におけるカルテのようなものだと考えることができます。
わが国でも、2015年の災害対策基本法の改正で、ようやく市町村が「被災者台帳」をつくることができると定められましたが、今後一人ひとりの状況に応じて使える支援制度を組み合わせていくには、より多くの市町村に「被災者台帳」が普及する必要があります。整備が進むことで、最適な復興支援政策を考える際の基礎的な情報としても活用できるでしょう。これはIT導入による高い効果が望める分野です。
「被災者台帳」を普及させる際の課題としては、日本の被災者支援が「市町村主義」、つまり国から市町村に委託されていることが挙げられます。支援方法が市町村に任されるため、予算や導入効果などが課題となり自治体によってIT化の進み具合は異なっています。この点については現在、共通の情報システムをつくる取り組みも始まっており、それを促進していくことが必要でしょう。
各自治体が持つ情報システムは、基本的な構造が全国で統一されていることが望ましいと思います。それは被災者支援業務が自治体単独で完結するものではなく、他の自治体からの応援が必要になるからです。応援の人が来たときにシステムが基本的に同じであればスムーズに支援業務に入ることができます。共通の情報システム構築のために、官民やベンダーの利害を超えた議論が行われることを期待しています。