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ITのチカラ Vol.18 「ニューノーマル時代」に求められる働き方とテレワークが果たす役割

労働生産性向上に向けて「働き方改革」の必要性がうたわれてきたが、実行できていた企業は多くない。新型コロナウイルス感染症拡大を機にテレワークによる在宅勤務の導入が進む中、本来の目的である生産性向上に焦点を当てた「ニューノーマル時代」の働き方について、慶應義塾大学大学院の鶴 光太郎さんに聞いた。

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  • 2020.12.01

[Vol.18]「ニューノーマル時代」に求められる働き方とテレワークが果たす役割

テレワークには労働生産性を向上させる効果がある

写真:鶴 光太郎 さん 「リモートでできないことはほとんどない。テレワーク導入を進め労働生産性の向上を実現するためには、経営層の意識改革が必要です。」 慶應義塾大学大学院
商学研究科 教授
鶴 光太郎 さん
1984年東京大学卒業。オックスフォード大学大学院経済学博士号(D.Phil.)取得。経済企画庁、OECD経済局エコノミスト、日本銀行金融研究所研究員、経済産業研究所上席研究員を経て、2012年より現職。経済産業研究所プログラムディレクター、日経スマートワーク経営研究会座長を兼務。

――テレワークのメリットについて、労働生産性の観点からお聞かせください。

コロナ禍以前から、労働生産性を高める手段としてテレワークの重要性を説いてきました。実際に海外ではさまざまな分析がなされており、業務に集中できて自律的に取り組みやすいこと、創造性の高い仕事に向いていること、それぞれが自分に合った働き方をすることで生産性が高まるという理解が進んでいます。

日本でも、公益財団法人日本生産性本部が実施した調査で、「自宅での勤務で効率が上がったか」という問いに「効率が上がった」「やや上がった」と回答した人は、今年5月の調査では約3割でしたが、7月には5割に上昇しています。

従来は「できれば職場に来てほしいが、出社しにくい事情がある人もいるので仕方なく導入する」という消極的な姿勢の企業が多かったように思います。しかしテレワークが生産性を高める効果があることを考えれば、より積極的にテレワーク導入に取り組むべきでしょう。

――これまでのテレワークの普及状況をどう分析していますか。

新型コロナウイルス感染症拡大前は、企業間の格差が大きかったという印象があります。総務省の「令和元年 通信利用動向調査報告書」によれば、従業員数2000人以上の企業では60.8%がテレワークを導入している一方、日本企業全体での導入率は20.1%にとどまっており、中小企業では普及が進んでいない状況になっています。

一方、日経「スマートワーク経営」調査からは、テレワーク導入が過去3年ほどで加速していたことが分かっています。働き方改革やダイバーシティの推進などにも積極的に取り組む大手企業では、「生産性向上のためにテレワークを活用すべきだ」という認識の下、コロナ禍の前からテレワーク導入を進めていました。しかしその中でも、介護・育児を行っている従業員のみ対象としている企業と全従業員が利用可能としている企業があるなどの違いがあったほか、中小企業は導入コストの問題などからなかなか動けなかったと分析しています。

コロナ禍により多くの企業が半ば強制的にテレワークを導入せざるを得なくなる中、以前から制度を導入しテレワーク推進に動いていた企業はスムーズに対応できた一方、制度を持っていなかった企業は慌てふためくことになりました。インフラも整わない状況で無理にテレワークを実施した企業からは、「テレワークでは生産性が上がらない」「やはり職場で仕事をした方がいい」という声も聞かれます。コロナ禍以前から見られていた企業間格差の問題が、ここにきて一気に噴き出した格好です。

急速なテレワーク普及で、インフラ整備の遅れやセキュリティへの懸念が顕在化

――コロナ禍で急速にテレワークが普及したことにより、どのような課題が浮き彫りになったのでしょうか。

最も大きな課題は、必要なインフラが整っていなかったことです。テレワークが機能するには、デジタル化されていることが前提条件になります。業務のペーパーレス化が進んでいて、クラウドにアクセスすれば業務に必要なシステムやデータを利用できるという状況になっていれば、テレワークへの移行はスムーズにできるでしょう。ところが実際には、ペーパーレス化が進展しておらず、押印のためにわざわざ職場に行かなければならない企業も少なくなかった。会議をオンライン化するかどうかという以前にすべきことが多かったわけです。

セキュリティも懸念材料です。そもそもリモートで安全に企業のシステムにアクセスできるのか、新たにセキュリティ対策を行うとしてコストはどれくらいかかるのかといった問題は、テレワーク導入のボトルネックになっています。

このほか、従業員の自宅環境の問題もあります。オンライン会議システムを使うには通信環境が整っていることが必要ですし、在宅勤務をするのに仕事のためのスペースが確保できないという声もありました。業務に使うパソコンなどの運用・保守も課題になるでしょう。

しかし、これらはいずれも時間とお金をある程度かければ対処可能です。テレワークには、通勤のための交通費や職場の光熱費などの費用を下げる効果もあり、その分を従業員のテレワーク環境構築のための補助や各種サービスの利用に充てる企業の動きも見られます。

また、緊急事態宣言下では子どもも在宅になり仕事に集中できないという声が聞かれましたが、この課題についてはテレワークの効果とは分けて論じるべきでしょう。本来テレワークは、仕事に集中し生産性を高められる環境を選ぶことが前提です。インフラが整っていない中でテレワークがスタートしたことや子どもも自宅にいたことなど、コロナ禍による特殊な状況を前提に、「やはりテレワークではダメだ」という評価を下すのは問題があるのではないでしょうか。

新型コロナウイルス感染症拡大による日本でのテレワークに関する状況の変化

画像:新型コロナウイルス感染症拡大による日本でのテレワークに関する状況の変化
  • ① テレワーク導入状況の推移

    テレワークを「導入している」企業は2019年には20.1%に達し、徐々に増加しているが、「導入していないし、具体的な導入予定もない」企業も70%を超えている(※1)
  • ② テレワークの実施率

    新型コロナウイルス感染症防止対策が求められた2020年5月の調査では、テレワーク実施率は31.5%あったが、7月には20.2%にまで減少している(※2)
  • ③ 自宅勤務の効果は?

    テレワークによる自宅勤務で「効率が上がった」「やや上がった」という回答は2020年5月には33.8%だったが、7月には50.0%まで上昇した(※2)
  • ④ テレワークの課題

    2020年5月と7月の調査を比較すると課題の多くが改善しているが、「押印の廃止や決済手続きのデジタル化」については課題解消が遅れている(※2)
  • ⑤ 労務管理上の課題

    テレワークの導入によって、約3割の人が仕事の成果に対する適切な評価やその公平性、業務報告の手法について課題を感じている(※2)
  • ⑥ テレワークを継続する上で課題と思うこと(複数回答)

    テレワークに必要な「環境整備」だけでなく、会社トップや上司、同僚などの「意識改革」や「労務管理」もテレワークを継続する上で課題と感じている人は多い(※3)
  • ※1 総務省/「令和元年 通信利用動向調査報告書(企業編)」より作成
  • ※2 公益財団法人日本生産性本部/「第2回 働く人の意識に関する調査」より作成
  • ※3 日本労働組合総連合会/「テレワークに関する調査2020」より作成

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