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トップ > シゴトの哲学 [Vol.22] 俳優/映画監督 竹中 直人さん

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  • シゴトの哲学
  • 2021.12.01

[Vol.22] 竹中 直人さん(俳優/映画監督)

役づくりはしない、愛をもって作品に向き合うだけです

写真:竹中 直人さん

俳優、映画監督、歌手、絵本作家……と、マルチな才能ぶりを発揮してきた。だが、子どものころからコンプレックスの塊で、「昔から"どうせおれなんか思考"が強い。だからずっと、自分ではない人になれる俳優に憧れがあったのかもしれない。根っからの俳優?なんでしょうね」と照れながら話す。

誰もが認める個性派俳優。そんな形容をほしいままにし、役づくりにも独自の手法があるように見える。しかし意外にも、「役づくりという言葉は好きではない」と言い切る。

「例えばボクサーの役ならボクシングを習得するのは最低限必要です。しかし、その役がどんな人物なのかを決めるのは俳優の役割じゃない。完成した作品を観てくださる皆さんが決めるものだと思うんです。それに、事前に脚本の流れを熟知して演じるよりも、監督の眼差しを見て何を撮ろうとしているのか、その場でくみ取る過程が楽しい。監督を愛せなければ、ただやらされているだけになってしまう…」

現場で最も大事にしているのは、集中力だ。

「集中しているときって余計なことを考えず、芝居の相手と無心で向き合える。俳優は、一人では成り立たない職業。相手との距離感や位置関係を測ってどうやって向き合うかが大切です。相手のエネルギーを受けるとさらに集中力が高まり、化学反応が生まれる。それが作品の力にもつながるのではないでしょうか」

人と人とが対峙することで生まれるエネルギーを何よりも大切にするのは、自身が映画監督を務める撮影現場でも変わらない。

「売れなければ次の作品がつくれないという厳しい面もあります。でも、僕にとって作品づくりの要は、売れる仕掛けよりも現場で出会った人たちのエネルギーを引き出して、どんな作品をつくれるかが全て。作品を愛してくれる人たちと一体になって仕事がしたいという気持ちが強いのだと思います」

監督として「一緒に仕事をしてみたい」と感じた人には、直接オファーをしてきた。相手が有名無名も、肩書きも問わない。作品には、あらかじめ伝えたいメッセージや届けたい世代を設けることもないという。

「子どものころから、誰もが知ってるものより、まだ誰の目にもとまっていないものに惹かれます。『これ面白いんだぜ』って大切な友達にだけそっと教えるのが好きです。そんな思いで作品をつくってきたし、これからもそうありたいですね」

俳優として監督として、愛をもって作品や人と向き合う。その思いが伝播し、彼の周りには作品に愛情を傾ける人が多く集まってくるのだろう。

竹中 直人(たけなか なおと)
1956年、神奈川県生まれ。多摩美術大学美術学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。83年、テレビ朝日系列の演芸番組「ザ・テレビ演芸」でデビュー。96年にNHK大河ドラマ「秀吉」で主演を務める。コメディアン、俳優として活動する一方で映画監督もこなすなど、マルチな才能が高く評価され、3度の日本アカデミー賞最優秀助演男優賞など、多数の受賞歴を持つ。俳優としての代表作に『シコふんじゃった。』『Shall we ダンス?』、監督作品に『無能の人』『東京日和』などがある。2021年には自身8作目となる監督作品『ゾッキ』を公開。

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