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トップ > シゴトの哲学 [Vol.5] 俳優 迫田 孝也さん
主役の真田幸村と対面する、迫真の演技に心震えた読者も多いだろう。昨年、人気を博したNHKの大河ドラマ『真田丸』で、真田幸村への忠誠心にあふれる側近を演じ一躍脚光を浴びた。実は役者としてのキャリアは18年、遅咲きの苦労人だ。大学卒業後、役者を目指して上京。芽が出ず、不安を覚えたこともあった。
「でも今まで、どんなに苦しくても一度も役者を辞めたいと思ったことがないんです。役者って、幾通りもある自分とは違った人生を演じる仕事で、正解がない。どんなに追い掛けても到達できないつかみどころのなさが魅力で、そこに取りつかれているんでしょうね」
転機は2006年に訪れた。「この人と仕事がしたい」と学生時代に役者を志すきっかけになった三谷幸喜監督の映画『ザ・マジックアワー』のオーディションで見事、役を射止めたのだ。以来、三谷さんの秘蔵っ子として注目され始める。だが、そこで壁にぶつかった。
「ちょうどその頃、上京後に入団した劇団を出て、独り立ちしたんです。すると芝居が丸くなってしまった。ドラマに出る機会があっても、失敗を恐れて、自分の考えを持たず無難に演じてしまう、そんな自分が嫌になっていました」
そんな時、三谷さん演出の舞台から声が掛かり、目が覚めた。2カ月間毎日同じ役を演じ、自分の表現とは何かをとことん考えた。
「舞台は幕が開くたび、本番の“勝負”なんです。1回1回役に向き合うことで、初心を取り戻せました」
昨年の大河ドラマへの大抜擢もターニングポイントになった。そうそうたるキャストの中に飛び込むプレッシャーはもちろんあったが、自分の立ち位置を探り、自ら現場を盛り上げるムードメーカーも買って出た。
「最初は先輩方への遠慮もありました。でも、せっかくつかんだ役なのに、自分からぶつからなければ、空気のような存在になってしまう。存在意義を高めようと、もう必死でしたね」
次第に共演者の方とも信頼関係が築けるようになり、役の上でも思い切った真っ向勝負ができるようになった。物語が進むにつれて、役の思いと自分の思いを重ね合わせられる「とても幸せな現場」になったと語る。
大役を終えた今、改めて俳優人生を振り返えると、ようやくスタートラインに立ったとあくまでも謙虚だ。
「ここまで続けてきて一つ言えるとしたら、俳優としての成長が、自分の人生の成長と分身のようにリンクしてきたかなと。だからこそ、自分を見失わずに楽しんでこられたのだと思います」
これから先、どんな役に出合うのか楽しみでたまらないと語る表情には、さらなる飛躍を誓う力強さに満ちあふれていた。