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トップ > シゴトの哲学 [Vol.6] 落語家 春風亭 昇太さん
昨年5月に「笑点」の司会者に抜てきされ、あの国民的長寿番組の顔となった。NHK大河ドラマでの今川義元役の「怪演」も大きな話題を呼び、この4月から始まったテレビドラマでは警察署長を好演している。一方、自ら著作するほどの城好きとしても知られ、歴史研究家との対談の仕事などもこなす。多忙な毎日を送るが、「オファーは基本的に断らない」と春風亭昇太さんは話す。
「やったことがない仕事や趣味のお誘いがあったら、まずはやってみる。そのスタンスを崩さないようにしています。僕は落語を聞くまで、落語ってのは絶対につまらないものだと思っていたんですよ。でも実際に聞いたら、ものすごく面白かったわけです。その時に、人間の先入観とはなんとくだらないものかと思いました。つまらないと思い込んでいても、やってみたら実は楽しい、自分に合っている。そういうものが世の中にはたくさんあるはずなんです。だから、いろいろなことを経験したいと思っています」
バラエティー番組に出たり、ドラマで役を演じたりすることは、落語家にとっては本来「余芸」に属するが、高座以外の仕事を余芸と考えたことはないと言う。
「僕に仕事をオファーしてくださる人は、皆さんそれぞれの世界のプロですから、手を抜くことはできません。ドラマのスタッフさんを見ていると、ほんと一生懸命で頭が下がりますよ。どんな仕事だって、いいかげんにやっていい仕事なんてないんです」
入門から今年で35年。普通の職業ならもはや大ベテランの域だが、落語界は事情が異なる。
「上にまだまだ諸先輩方がいて、僕なんかつい最近まで若手のカテゴリーだったくらいです。しかも僕は存在が薄っぺらいですから、ベテランっぽく振る舞うことは、どだい無理なんですよ(笑)」
「落語ではうそをつけない」が持論だ。キャリアを重ねたから、もう少し大人な感じの落語をやりたい。そう思ったとしても、それが自分の芸風でなければお客さんに見透かされてしまう。「自分」のままでやらないと、お客さんに楽しんではもらえない。だから、無理をする必要はないのだ、と。
落語はお金をもらっても、ものを売るわけではない。返品に応じることもできない。だからこそ、お客さんには心から楽しんでもらわなければならない。損は絶対にさせたくない。そう考えながらいつも高座に上がる。
「ストレスがたまることも山ほどありますが、落語のストレスは落語で解消するしかないと思っています。自分の芸でお客さんに心の底から笑っていただく。その充実感や手応えがあれば、ストレスなんか全部吹っ飛んじゃいます」