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トップ > シゴトの哲学 [Vol.9] 俳優 市原 隼人さん
一度は未来への希望を失った若者たちが、再び甲子園出場という夢に向かって奮闘する。ひたむきな姿で話題をさらった青春ドラマ『ROOKIES』に出演し、一躍人気者に。常に、俳優道を突き進んできた。そんな市原さんがスカウトされたのは12歳の時。
何も分からずに飛び込んだ世界だったが、デビュー作となった映画撮影の現場で、物を作り上げていく「総合芸術の世界に魅せられていった」と話す。
「監督、撮影部、照明部……プロの働く集団の姿が格好良くて! まさに夢の世界だなと。僕もそこで俳優部の一員として参加してチームで作品を作っていけることが楽しくて、夢中になりました」
それから17年。変わらず大切にしているのは、現場で求められていることをとことん考え抜く姿勢だ。
「自分がどう見えるかなんて、どうでもいい。現場では役者としての"居方"を大事にしたいんです」
その現場のために何ができるか――。例えば、役を体の中に取り込もうと、何日間も飴玉一つで1日を過ごしたり、過呼吸症状の文献を読みあさったり……。役作りのストイックさに定評があるが、本人は「ストイックではなく、当たり前のこと」だと言い切る。
「役者である以上、代わりのない存在でいたい。演じたい人が大勢いる中で、僕を選んでくださる人がいる。やると決めたからには、現場に居られる幸せを感じ、全力を出し切らないと失礼だと思うんです。どんなに過酷な現場でも、角度を変えれば必ず楽しさを見出せるもの。だから現場が辛いと思ったことはないです」
だが、心から現場や芝居を愛していても、正解がない芝居の難しさも常に付きまとう。
「自分が演じる一人の人間を100%理解するのは不可能だから、経験を積んでも自信って持てないですね。でも、お客さんに楽しんでいただけるように、1%ずつ積み上げていくしかないと思っています」
昨年、30歳を迎えた。20代の頃は、肩に力が入り過ぎて、新しい作品に入るたびに眠れなくなるほどの恐怖を味わう日々だった。しかし最近は、仕事を俯瞰できるようになり、役者として成長も感じている。
「年を重ねることで経験や情報が入り過ぎて、丸くなりたくはないんですけどね。ただ、ご縁があっても同じパターンの役からは目を背けるなどかたくなだった20代を過ぎて、今は求められれば、どんな役でも貪欲に挑みたいという気持ちが強くなっています」
目を輝かせながら語る表情から、10代で魅せられた夢の世界に、今なおのめり込んでいる様子が伝わる。
「台本を読みながら、自分も本気で泣いて、笑って、悔しがって。役の根源を突き詰めることで、人に夢を与えられる役者でいるのが僕の変わらない目標です」