カテゴリーを選択
トップ > シゴトの哲学 [Vol.12] 女優 杏さん
しなやかさがありながらも、堂々とした姿で真っすぐにカメラを見つめる。1カットごとに表情を変え、時に見せる笑みは無機質な空間を色鮮やかに変化させてしまうほどだ。
15歳でモデルを始めてから、多彩な表現者として歩んできた。単身海外に渡り、パリやニューヨークなどでコレクションに出演。21歳からは女優としても活動をスタートし、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』のヒロインをはじめ、幅広い役柄に挑戦し続けている。さらに、執筆やラジオのパーソナリティーなど、その才能はとどまることを知らない。
順風満帆にキャリアを積んできたようにも見えるが、もちろん迷いを感じたこともあったという。
「モデルも女優も、自分から足を踏み入れた世界ではなかったので、このまま続けていいのか悩んだこともありました。でもさまざまな仕事を経験する中で、みんなで一つのものを作り上げ、発信していくことが好きだと気付いたんです」
職業柄、人前に立つことが多く、華やかなイメージがあるが、"自分もスタッフの一員だという気持ちが強い"という。
「モデルの仕事でいえば、表現の世界ではありますが、ロジカルに構築する部分も多いんです。光や風の状況を瞬時に判断したり、クライアントの意図を形にするために何ができるかをスタッフ全員で考えたり。これまでの経験から得た知識を論理的に組み立てていくプロセスは、とてもやりがいを感じます」
また、下準備も大切にしていることの一つだ。
「新しい役を演じるときは、自分なりの方法で事前に役と"親しく"なっておきます。歴史上の人物ならゆかりの地を訪ねたり、資料を読み込んでその人物を掘り下げてみたり、できるだけ調べて役をインプットしておくことが安心材料になる気がします」
自分が求められていることを客観視し、真摯(しんし)に仕事に向かう姿勢は、昨年10月からナレーターを務めているTBS系『世界遺産』にも生かされている。
「ナレーターとして大切なのは、世界遺産の魅力を視聴者の方々にきちんと伝えること。番組では世界遺産の名称など、普段はあまり馴染みのない言葉がよく出てくるので、一つひとつのイントネーションの確認を含め、初めて聞く方にも分かりやすく伝わる表現を意識しています」
昨年第三子を出産。現在は、育児とのバランスを取りながら仕事を続けている。
「今はお芝居の仕事はお休みしていますが、この時間が今後の演技にどう影響してくるのか。これからが楽しみでもあります」