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トップ > シゴトの哲学 [Vol.13] 俳優 勝地 涼さん
強い意思を感じさせる眼差しの奥に、一瞬にして人の心に入り込む人懐っこさが同居する。シャッターを切るたびに、雄弁に心情を語り掛ける高い表現力は、20年近くの役者人生で磨かれたものだ。
「10代、20代でたくさん悩んで、最近ようやく吹っ切れた心境なんです」と、快活に語る。
母が営む生花店で行われていたドラマ撮影の現場でスカウトされ、デビューしたのは13歳の時。5年後には、映画『亡国のイージス』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、一気に注目を集めた。
ところが20代になると、壁にぶつかる。「子役に求められる演技ではもう通用しない。自分の役者としての核は何なのか」。悩む日々が続く中、先輩俳優の「お前のバカそうなところが素敵だし、全力なところもいい」という言葉が心に響いたという。
「昔から父に、『媚びるな、かわいがられろ』とよく言われていたんです。当時は、うるさいなぁと思っていましたが、良い先輩に恵まれた今、『出会った人を大切にしろ』という意味だったんだと気付きました」
2013年にNHK連続テレビ小説『あまちゃん』で演じた個性的なキャラクターが、世間に強烈な印象を与え、以降は特にコメディーでの評価が高まった。そんな彼には、役者として大切にしている信念がある。
「一つは嘘がないように演じること。そもそも芝居は嘘の世界。だからこそ、現実の世界にも『こういう人、いる!』と、リアルに共感してもらえるキャラクターづくりを心掛けています。コメディーなら、小手先で笑わせるのではなく、自然な会話の中でいかにおかしさを表現するか。そこが難しいんですけど」
そしてもう一つは、"楽しむ心"だ。
「例えば、舞台の仕事は毎日同じ場所で同じ役を演じる。けれど、体調やテンションは日々違う。共演者から昨日とは違う熱量を感じて、刺激されることもある。その一瞬一瞬を面白いと思うか、毎日同じで退屈だと思うか。どんな仕事でも同じですが、自分の気持ち次第で現場に臨む姿勢も変わるはず。だから僕は、いつも楽しむ心を忘れないようにしています」
ただ、常に前向きに、真剣に向き合っているからこそ、共演者や演出家とぶつかることもある。
「蜷川幸雄さんに、舞台上では年齢もキャリアも関係ないと教わって以来、筋が通らなければ、相手が誰であっても自分の想いを伝えてきました。でもこの先は、熱くて面白いだけでもいけない。これからは、世代を超えて全員が同じ熱量で仕事に打ち込める。そんな風通しの良い現場づくりも意識したいです」
役者として、自らが目指すべき未来を語る姿からも、"楽しむ心"が垣間見えた。