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トップ > シゴトの哲学 [Vol.16] 俳優 石黒 賢さん
これまであまたの作品に彩りを与えてきた演技の名手。役柄によって千差万別の表情を見せてくれる。
デビューは高校三年生の時。プロテニスプレーヤーとして活躍していた父親の後押しもあり、ドラマ『青が散る』の主役に抜てきされた。
「稀有な機会ですから、父は人生経験の一つとして挑戦した方がいいと考えていたようです。学生時代はテニスに集中していて、演技は未知の世界でしたが、幼い頃から何事にもチャンレジする性分で、不思議と戸惑いは感じませんでした」
大学進学後は、テニスの練習と並行して役者の仕事を続けていた。演じることの妙味を感じるきっかけになったのは、緒形 拳氏や仲代達矢氏といった名優との共演だったと振り返る。
「現場での佇(たたず)まいや本番に向けた気持ちの準備など、演技の"いろは"は偉大な先輩たちが背中で語ってくれました。とにかくすてきで、格好いい。ご一緒する中で、役者を極めたい気持ちが強くなりました」
現場でまずはプロフェッショナルたちの仕事を見て、覚える。演技を学んだ経験がなかったからこそ、心を開き、何でも吸収できるように意識したという。
「演技の引き出しを増やそうという想いがあれば、日常生活の中でも、さまざまなことをキャッチできます。本を読んだり映画を観たりして感じることも、全て引き出しの一つになっています」
いまだに満足のいく演技はできていないと謙遜するが、演じる上で大切にしているのは、相手のせりふをしっかりと聞くこと。
「相手役との空間に身を委ね、自然にせりふが出てくるのが理想です。撮影前には、せりふのやり取りをシミュレーションして臨みますが、目指すのは作品全体の成功です。そのためなら、準備してきたことに固執することはありません」
また、たとえ失敗があっても、すぐに気持ちを切り替えて挽回することも大切だと語る。
「人間は失敗したり恥をかいたりしないと覚えない。分からなければ分かる人に聞けばいいし、次はうまくいくように復習すればいい。何事も経験ですから、いろいろと試すことで会得できるのだと思います」
2019年の秋からは、情報番組のキャスターも務めている。
「素の自分が出るキャスターは、僕にとって大きな挑戦ですが、やるからには期待に応えたいですね」
ベテランの域に達した今でも、「同じような演技は絶対にしたくない」という気概を持って現場に入る。その飽くなきチャレンジ精神が、輝きを放ち続ける原動力なのかもしれない。