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トップ > シゴトの哲学 [Vol.18] スポーツキャスター 小椋久美子さん
北京2008オリンピック出場などで、"オグシオ"旋風を巻き起こしたバドミントン女子ダブルスペア。その颯爽(さっそう)とした美しさは、今なお健在だ。
小学2年生の時に姉や兄の影響でバドミントンを始めた後は、実業団時代まで全国大会の上位常連。華々しい競技人生を歩んできたように見える。だが、本人は「挫折の連続だった」と振り返る。
「その一つが、アテネ2004オリンピック前のケガです。手術を伴うもので、オリンピック出場が絶望的になって、自暴自棄になりかけていたんです。そんな時にコーチが掛けてくれたのが、『ケガには理由がある』という言葉。あらためて考えると、過信があり、オリンピックへの覚悟が足りなかった。そして何より純粋にバドミントンを楽しめていなかった。このケガは、そんな自分への注意だったのだと気付きました」
それから4年、覚悟を決めてオリンピックと向き合い、潮田玲子選手と共に北京2008大会の出場権をつかんだ。ところが、ホッとしたのも束の間、開幕目前にメダル獲得の重圧に飲み込まれてしまう。
「不安を払拭しようと練習しすぎて、3カ月で3度もぎっくり腰を発症してしまいました。コンディションが整わずに迎えた本番は、あっという間に終わってしまい、試合内容も全く覚えていません。大会後も試合のビデオは見られないほど、ずっとオリンピックから目を背けていました」
前向きな気持ちに変換できたのは、引退後のロンドン2012オリンピックの時だった。取材で訪れたマラソンコースの素晴らしい環境を目にして、オリンピックの特別な舞台に立てたことが幸せだったのだと、初めて思えたという。
「北京を目標に必死で4年間努力し続けたのに、直前でメダルに気を取られ自信を失った自分を誇ることができなかった。それが一番の後悔だったと気付いたんです。自分が積み重ねた努力を信じられなければ、本番では力を発揮できない。当時はそのことが分からなかったんですね。この教訓から、今では自分を信じて何事にも力を尽くせるようになりました」
引退後は解説や講演、バドミントン教室などを通じて、スポーツの魅力を伝えている。例えば解説する際は、選手からはもちろん、そのコーチや家族から得た情報も書き込んだ取材ノートを作成。しっかりとした事前の準備と自分の力を信じて、一生懸命伝える姿勢を大切にしているという。
「陰の努力やパーソナルな部分など、選手がヒーローになれる情報を発信したいんです。その先に、人々に勇気を与えたり、寄り添ったりできるスポーツの魅力を伝えるのが、今の私の使命だと思います」