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トップ > シゴトの哲学 [Vol.19] 歌舞伎役者 市川猿之助さん

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  • シゴトの哲学
  • 2020.12.01

[Vol.19] 市川猿之助さん(歌舞伎役者)

お客さんは意識しない。自分がワクワクすることをやるだけです

写真:市川猿之助さん

今や日本を代表する歌舞伎役者の一人。TBS系ドラマ『半沢直樹』での、鬼気迫る芝居は記憶に新しいところだろう。

歌舞伎の世界では、先代(三代目)市川猿之助から受け継いだ「スーパー歌舞伎」を進化させ、人気漫画『ONE PIECE』を舞台化して成功させるなど、伝統芸能と現代のエンターテインメントの融合にも積極的に取り組んできた。もっとも、本人は「新しいことをしようといった気負いはない」と笑う。

「単に、自分が好きなこと、ワクワクすることをやり続けてきただけ。それが新しいか古いかは、お客さんが決めることですから。自分が"新しい"と思ったことが実は時代遅れだったり、逆に"今さら"と感じることが世の中では新鮮に映ったりする。それなら、見る人がどう思うかを気にするより、好きなことを思い切りやりたいですよね」

観客を意識するにしても、万人ウケを狙うのではなく、誰か一人、本当に信頼できる人を想定して、その人の意見にだけ耳を傾けるという。

「僕の場合、その一人とは"自分"なんですけどね。自分が面白いと思うことと、お客さんが良いと感じるもののギャップを埋めるのは"センス"なんです。ただ、それは一朝一夕では身に付きません。だからこそ、世の中で評価されているさまざまなジャンルの作品を見て、聴いて、自身のセンスを磨いています」

歌舞伎役者が多数出演した『半沢直樹』の影響で、歌舞伎への注目度も高まったが、「話題になったからといって、浮かれてはいられない」ときっぱり。コロナ禍が歌舞伎の興行にも影響を与えている中、わざわざお金を払って芝居を見にきてもらうためには、"付加価値"をどう生み出していくかが重要だと語る。

「歌舞伎の付加価値は、ひと言でいえば"歴史"。だから、何でも新しいものを取り入れればいいわけではない。品の良さや格調という要素を、過去の歌舞伎から掘り起こして組み合わせる。そして期待以上の芝居を見せ、お客さんに『良かった』と思っていただく必要があります。安易に新しい情報を取り込まないことも、情報過多の今は大切な姿勢だと思います」

現状、コロナ禍は予断を許さず、劇場への客足も戻り切ってはいない。だが「なるようになりますよ」という彼の言葉には、不思議な力強さがある。

「冷めていると思われるかもしれませんが、僕は何でも悩むより、まずはやってみた方が面白い結果になると思うんです。現状を打破するには、『これはこうあるべき』といった気負いはせず、自分が面白いと思ったことをやってみる。打開策はいい意味で無責任な"遊び心"から出てくる。僕はそう信じています」

市川 猿之助(いちかわ えんのすけ)
東京都生まれ。父は四代目市川段四郎。伯父は三代目市川猿之助。1983年、二代目市川亀治郎を名乗り初舞台。2007年のNHK大河ドラマ『風林火山』で映像作品に初出演。12年、四代目市川猿之助を襲名。今、最も注目される花形歌舞伎役者の一人。

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