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トップ > 大人のたしなみ [Vol.13] 缶詰を楽しもう
社会人たるもの、たしなみがあってこそデキる大人と感じさせる。ビジネスシーンでも、さまざまな分野の豆知識があればコミュニケーションが深まり、より良い結果につながることもあるだろう。第13回は、缶詰の魅力について、缶詰博士の黒川勇人さんに話を聞いた。
日常の食事シーンや非常時に活躍し、今やグルメ食材としても注目されている缶詰は、食品の優等生といえます。その鍵は、食材を密封し、加熱殺菌するという製造方法にあります。これにより食品を腐敗させる菌類や微生物が死滅するため、保存料不要で長期常温保存できるのです。また、すぐに食べられる手軽さに加え、栄養価の高さも利点です。例えば、サバには"体にいい油"といわれるオメガ3脂肪酸のDHAとEPAが豊富に含まれていますが、家庭で食べる生のサバに比べて、缶詰はその含有量が約2.5倍も多くなります。DHAやEPAは酸化しやすく、水揚げした魚をすぐに加工する缶詰は空気に触れる時間が短いため、酸化を抑えられるのです。
このように優れた食品である缶詰の原理は、1804年にフランスで発明されました。当時、政権を掌握し、ヨーロッパ各国へと戦線を拡大していたナポレオンは、軍隊の食料確保のため食品の保存法を広く募りました。そこで採用されたのが、フランス人のニコラ・アペールが考案した瓶詰めです。方法は、調理した食材を瓶に入れてコルクで蓋をし、湯せんで加熱するというもので、これが缶詰の原理とされています。その後、1810年にイギリスでブリキ缶が発明され、缶詰が誕生しました。この技術はアメリカに渡り、1861年に始まった南北戦争により軍の食料として需要が増え、缶詰産業が発展していきました。
日本においては明治初期、1871年に長崎で語学学校を運営していた松田雅典が、フランス人の指導のもとでつくったイワシの油漬け缶詰が始まりといわれています。やがて全国に缶詰工場ができ、今や缶詰大国といわれるまでになりました。
最近では保存食の域を超え、グルメ食品として注目される日本の缶詰は、種類の豊富さも世界一。例えば、スペインやポルトガルでは海産物、フランスでは肉のパテなど、その国の日常食を缶詰にする場合がほとんどですが、日本では世界の食を再現した缶詰を続々と生産しています。これほど缶詰がグルメ化したのは、2010年に缶詰を販売する国分グループ本社が「K&K 缶つま」を発売したことが契機といえます。それまで業界では300円以上の缶詰はなかなか売れないとされていましたが、同社は缶詰の将来を考え、酒のつまみをコンセプトに、良質な材料と味にこだわった高価格の缶詰を生産。爆発的にヒットし、他社も追随するようになりました。さらに、13年ごろからはサバ缶への健康・美容面での期待が高まり始め、料理界でも食材として活用されるようになり、18年に一大ブームとなりました。こうして、缶詰のグルメ化や高級化が進んでいったのです。
現在も、生産者の情熱が感じられる缶詰やご当地缶詰、パッケージがおしゃれな缶詰などバリエーションは広がっています。缶詰専門店で手に取ったり、インターネットでお取り寄せしたりしながら、蓋を開けるだけで本格料理や世界の味が楽しめる、缶詰の魅力をぜひ味わってください。