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トップ > 大人のたしなみ [Vol.2] 伝統芸能を楽しもう

社会人たるもの、たしなみがあってこそデキる大人と感じさせる。ビジネスシーンでも、さまざまな分野の豆知識があればコミュニケーションが深まり、より良い結果につながることもあるだろう。第2回は、肩肘張らずに日本の伝統芸能に親しむコツを紹介しよう。

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  • 大人のたしなみ
  • 2018.09.01

[Vol.2] 伝統芸能を楽しもう

日本の伝統芸能に関心はあるものの、なんとなく近寄りがたい――。そう感じている人は少なくないでしょう。でも、ひとたび足を踏み入れてみれば、確実に自分の世界が広がるはずです。今回は、伝統芸能の代表格ともいえる「能楽」、「文楽」、「歌舞伎」、「落語」の魅力を紹介しましょう。

600年以上も続く「能楽」は、能と狂言を合わせた舞台芸術です。能は面(おもて)と美しい装束(しょうぞく)(衣装)を着けた役者が、笛や鼓(つづみ)による音楽や、言葉に節をつけた謡(うたい)などに合わせて演じる歌舞劇。一方、狂言はユーモラスなセリフ劇です。能楽の公演ではこの二つが上演されるので、能の優美さと狂言のコミカルさを楽しむことができます。

「文楽」は大人のための人形劇です。登場人物の心情や情景を語る「太夫(たゆう)」、音色で物語を奏でる「三味線弾き」、3人で一体の人形を操る「人形遣い」が作り上げるドラマチックな舞台に引き込まれます。

  • 写真:武家社会で育まれた「能楽」

    武家社会で育まれた「能楽」

    能楽は歌舞劇の「能」とセリフ劇の「狂言」から成り、どちらも能舞台で演じられる。平安・鎌倉時代に演じられていた「猿楽」が起源とされ、室町時代に観阿弥・世阿弥によって大成された。江戸時代までは「猿楽」と呼ばれ、幕府の保護の下、武家社会の芸能として定着した。
  • 写真:人形浄瑠璃の代名詞「文楽」

    人形浄瑠璃の代名詞「文楽」

    人形浄瑠璃は、語りと三味線、人形を操る芸能が結び付いたもの。江戸時代初期に成立後、数々の人形浄瑠璃座が盛衰を繰り返した後に、植村文楽軒が始めた一座「文楽座」が中心的存在となったことから、人形浄瑠璃は文楽と呼ばれるようになった。

そして、「奇抜な身なりや行動をする」という意味の「傾く(かぶく)」をその名の由来とする「歌舞伎」。時代ごとの流行を取り入れ、演劇、舞踊、音楽の要素を備えた総合芸術として今日まで磨かれてきました。その華やかな舞台は見る者を圧倒します。

さらに、滑稽な話や人情話を一人で演じる「落語」は、話の結末に落ちがつくのが特徴です。落語家は噺家(はなしか)ともいわれ、通常扇子と手ぬぐい以外は持たず、身ぶりと話芸で観客の笑いを誘います。

  • 写真:庶民に愛されてきた「歌舞伎」

    庶民に愛されてきた「歌舞伎」

    400年以上前に出雲の阿国(いずものおくに)という女性が踊った「かぶき踊り」が歌舞伎の始まりとされる。その後、遊女による「女歌舞伎」などが人気を得るが、風紀を乱すとして幕府に禁止され、成人男性による歌舞伎が成立。庶民の娯楽として発展してきた。
  • 写真:話術で楽しませる「落語」

    話術で楽しませる「落語」

    武士や貴族に楽しまれた滑稽な説話が庶民の間にも伝わり、江戸時代に盛んとなった落語。演者は座ったまま何役もの登場人物を演じ分け、話の最後には「落ち(サゲ)」をつける。落語という名は、もともと「落とし噺(ばなし)」と呼ばれていたことに由来している。

では、これらの伝統芸能をいかに楽しむか。初心者の場合、鑑賞前にきっちり予習し、全てを理解しなければと思いがちです。しかし、それでは自らハードルを上げるようなもの。大事なのはまず「劇場に足を運ぶ」、これに尽きます。

伝統芸能はライブですから、優先させるべきは雰囲気を体で感じること。劇場に響く歌舞伎役者の声、能楽師による荘厳な舞、舞台を包む一瞬の静寂……。その場でしか味わえない臨場感こそが、伝統芸能の奥へと深く歩を進める磁力です。

「でも、何も分からなかったら楽しめないのでは……」と思う人には、国立劇場や国立能楽堂で開催している「鑑賞教室」がお薦めです。見どころなどの解説付きで人気の演目が鑑賞でき、初心者に最適です。通常のプログラムでも、劇場によってはイヤホンガイドや字幕を備えているので、物語を理解するのに役立ちます。

落語については、国立演芸場以外にも東京では「新宿末廣亭」や「浅草演芸ホール」といった寄席で、思い立ったら気軽に当日券で楽しめます。

伝統芸能はさまざまな角度から鑑賞できるのも魅力。人気漫画を原作とした歌舞伎や能楽、シェークスピアを題材とした文楽など、近頃増えている進化系の作品に親しむのもいいでしょう。また、「人」に注目し、役者、人形遣い、噺家など、お気に入りの演者を追い掛けることで、より深く長くその芸能に親しむこともできます。

まずは気楽に劇場に足を運び、空気を肌で感じてみましょう。音楽でも踊りでも語りでも、心に残る一瞬の鮮烈な体験を味わえることでしょう。

  • 写真:内容を字幕で理解できる

    内容を字幕で理解できる

    国立能楽堂には日本初の座席字幕システムが導入されている。前の座席背面に液晶画面を設置したパーソナルなタイプで、聞くだけでは分かりにくい能の言葉を表示したり、能や狂言の決まり事などを適宜解説したりと、能楽鑑賞をサポートしてくれる。
  • 写真:声と音で人形に命を吹き込む

    声と音で人形に命を吹き込む

    3人が呼吸を合わせて人形を動かす「人形遣い」はもちろん、文楽には他にも重要な演者がいる。セリフから情景描写までを語り分ける「太夫」と、情景や心の動きを音で表す「三味線弾き」だ。これら三業が一体となって、深みのある情緒豊かな舞台を生み出す。
    写真:国立文楽劇場(大阪)平成28年錦秋文楽公演「恋娘昔八丈」
  • 写真:実の親子が共演することも

    実の親子が共演することも

    数ある歌舞伎の演目の中でも、屈指の人気を誇る作品の一つ「連獅子」。勇壮な獅子の舞踊とともに、父と息子の親子の情愛を描いた名作だ。実の親子が演じることも多く、より実感のこもった場面に感動が深まる。親子獅子が豪快に長い毛を振る「毛振り」も見どころ。
    写真:国立劇場平成30年6月歌舞伎鑑賞教室「連獅子」
  • 写真:食べて、飲んで、笑える

    食べて、飲んで、笑える

    寄席によっては飲食しながら楽しめるところもある。例えば、東京・上野の「鈴本演芸場」では売店でお弁当、お菓子、おつまみ、自動販売機で飲み物が購入でき、座席の背もたれに取り付けてある小テーブルに置いてゆっくりと味わいながら落語が聞ける。
写真:文化デジタルライブラリー

文化デジタルライブラリー
伝統芸能について知りたいときにアクセスしたいのが、独立行政法人 日本芸術文化振興会が運営するサイト「文化デジタルライブラリー」。伝統芸能を学ぶ、見る、調べるためのコンテンツが充実。

http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/

取材協力:独立行政法人 日本芸術文化振興会
協力:人形浄瑠璃文楽座

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