カテゴリーを選択
トップ > 大人のたしなみ [Vol.7] 城を楽しもう
社会人たるもの、たしなみがあってこそデキる大人と感じさせる。ビジネスシーンでも、さまざまな分野の豆知識があればコミュニケーションが深まり、より良い結果につながることもあるだろう。第7回は、城の魅力について、城郭ライターの萩原さちこさんに話を聞いた。
近年、城を訪れる人が増えています。年齢や性別、知識を問わず、誰もが気軽に楽しめるようになったといえるでしょう。とはいえ、どの城から訪れたらよいのか、どこを見たらよいのか分からない人も多いはず。そこで今回は、城を楽しむコツを紹介します。
まずは、自分なりの「観賞のテーマ」を探すのがポイントです。「壮麗な天守を眺める」「城からの絶景や美しい景観の城を楽しむ」「石垣を観賞する」「軍事的な工夫を探す」など、何でも構いません。例えば「天守」をテーマにするなら、江戸時代から残る12の天守を訪れてみるとよいでしょう。また、「景色」を楽しみたいなら、『天空の城』と呼ばれる雲海に浮かぶ城へ。「石垣」に関心があるなら、石垣の名城とうたわれる城へ行ってみると、満足度がぐんと高まります。
観賞のテーマを決めたら、2~3城を訪れ、見比べてみましょう。例えば現存する12の天守も、よく見ると装飾、色、大きさ、軍事的装置の有無などが全く異なります。テーマを絞って比較すると、一見同じように見える城の個性に気付くはずです。二つとして同じものがないこと、これぞ城の最大の魅力なのです。
その違いには必ず意味があるという点も、奥深いところです。城には、城主の技術力、財力や社会的地位、政治的な役割が如実に反映されます。緊迫した情勢下で築かれた姫路城の天守や彦根城(滋賀県彦根市)の天守には、見る者を圧倒する美しさの裏側に、敵を迎え撃つさまざまな仕掛けが隠されています。反対に、平和な時代に築かれた宇和島城(愛媛県宇和島市)の天守には、戦いへの備えが全くありません。城を通して、その時代の社会情勢を見ることもできるのです。
ただ石を積んだだけに思える石垣にも、個性があります。例えば徳島城(徳島県徳島市)の石垣は、この地域でしか採れない「阿波青石(あわあおいし)」と呼ばれる緑色片岩が積まれているため、独特の美しい青緑色をしています。地域や積む人の技術によって、石材の色や質感、石垣の表情に違いが生じるのです。さまざまな積み方の石垣が楽しめるのが、「石垣の博物館」と呼ばれる金沢城。城主の前田家は石垣の築造技術が高く、センスも抜群だったようで、どの積み方を見ても芸術的です。石垣を通して、城主の美意識に触れるのも一興です。
古くは天守や石垣がない城も存在しました。城の始まりは、弥生時代の「環濠(かんごう)集落」で、7~8世紀には北九州沿岸を中心に「古代山城」が築かれました。南北朝時代から戦国時代にかけての主流は、山全体を城域として要塞化した「山城」。城に天守や石垣が導入されたのは、戦国時代末期のことで、織田信長により私たちが一般的にイメージする姿の城が生み出され、豊臣秀吉や徳川家康に受け継がれました。
全国には北海道の「チャシ」から沖縄県の「グスク」まで、さまざまな城があります。興味のある城から気軽に訪れてみてはいかがでしょうか。