クローズドループを支える先進のリサイクル技術

「リサイクル」と一口にいっても、キヤノンのトナーカートリッジのように同じ製品にリサイクルされている製品は非常に少ない。クローズドループリサイクルは、先進のリサイクル技術と現場に関わる人々の地道な努力によって成り立っている。

写真:生井氏、佐藤氏、田中氏

写真:生井氏

生井義宏(なまい・よしひろ)キヤノンエコロジーインダストリー株式会社 生産統括センター

主にリサイクルの製造技術を担当。仕分け、部品リユース、材料再生と幅広い経験を工程設計に活かしている。所属組織と役職は、2010年6月当時。

写真:佐藤氏

佐藤学(さとう・まなぶ)キヤノン株式会社 カートリッジ量産技術統括センター

主に「材料再生」を担当。キヤノンエコロジーインダストリーを含む、世界のリサイクル4拠点の部品リユースと材料再生の技術統括を行っている。所属組織と役職は、2010年6月当時。

写真:田中氏

田中勝彦(たなか・かつひこ)キヤノン株式会社 化成品事業環境企画部 部長

カートリッジの回収・リサイクルの責任部門長として、グローバルな視点で回収の効率化やリサイクルの質の向上に努めている。所属組織と役職は、2010年6月当時。

つねに業界をリードしてきたキヤノンのリサイクル。先進的な取り組みのその裏側には、どんな想いがあるのだろうか。トナーカートリッジのリサイクル事業を統括する田中氏、リサイクル技術をとりまとめる佐藤氏、リサイクルの製造技術を担当する生井氏の3人が、それぞれの立場から「クローズドループリサイクル」について語った。

品質にバラつきのある使用済み製品

クローズドループリサイクルでは、使用済みのトナーカートリッジが原料になる。新品の材料から製品を作る場合と、使用済み製品を使う場合では何が違うのだろう。

田中:
新しい製品を生産する場合は、材料も部品も新しいものを使いますが、リサイクルの場合は、回収された製品から新しい製品をつくるので、元となる回収量の予測が難しいですね。たとえば、樹脂材料を月間10トン作ってほしいといっても、それだけ回収されるかどうか分からない。量のコントロールが非常に難しいですね。また、お客さまの利用状況や管理状況などによっても、材料の品質にバラつきが出てきます
生井:
そうなんです、クローズドループリサイクルは、最初から品質にバラつきのあるものを製品にする難しさがありますね。お客さまの使い方や保管状況によって部品に傷があったり、リサイクル拠点に回される段階でプラスチックが傷んでしまっていることもあります。

クローズドループリサイクルとは?

新品同様の品質基準をクリアしたリサイクル材料を再びトナーカートリッジに使用すること。

写真:生井氏、佐藤氏、田中氏対談

キヤノンのトナーカートリッジは、リユース部品やリサイクル材を使っていても新品と同じ品質を保っている
佐藤:
回収された使用済み製品から取り出す部品は、バラツキがあります。キヤノンではこれらのバラツキを上手に取り除くために工夫をして、新品の部品に近づけて再利用しています。
プラスチックについては、トナーカートリッジはさまざまな材料からできているので、分別精度を高めるさまざまな工夫により高純度のプラスチックを分離しています。
キヤノンは、リユース部品やリサイクル材を使っていても新品と同じ品質をうたっています。品質に一切の妥協はありません

新品同様の品質を満たすために

リユース部品やリサイクル材を使用したトナーカートリッジも新品として販売されている。では、キヤノンは、どのように品質を確保しているのだろうか。

写真:佐藤氏
佐藤:
高い品質を確保するために、リユース部品やリサイクル材を利用する場合も新品と同じ品質を満たしているかどうか見極めて再利用しています。リユース部品やリサイクル材の検査の方式や基準は私たちが作り、リサイクル拠点に指示します。
生井:
リサイクル拠点でも、品質管理には細心の注意を払っていますね。佐藤さんたちが作った基準に従って厳しい検査を実施しています。たとえば、プリント品質に関わる帯電ローラーは、内製で作成した計測装置と熟練のスタッフによる目視で全数検査しています。一つひとつ丁寧に確認し、どんな小さな傷や不良品も見逃さないように気を配っています。
 

仕分けしやすいようにプラスチックを色分けしている

プラスチックは、異なる種類が混ざってしまうと品質が落ちてしまうので、厳密にプラスチックの種類を仕分けし再生しています。これも品質を満たすための工夫の1つです。

業界初の材料リサイクルプラントの導入

リサイクルをするには回収や材料の再生などに手間がかかるため、コストがかかるという課題がある。新品と同じ品質、同じ価格で製品を世の中に送り出すために、先進のリサイクル技術が随所に取り入れられている。

写真:田中氏
田中:
回収や仕分け、再生と生産工程が増えてしまうため、リサイクルの方が新品をつくるよりコストが高くなりかねません。しかし、コストが上がってしまえば、お客さまに製品を使っていただくことはできません。そのためには、効率化をどう図るかがとても重要です。
 
たとえば、開発部門には、部品を取り出しやすい設計にしてくださいとお願いしたり、リサイクル拠点にはリサイクルの効率を上げてくださいというお願いをしたり。そういう意味では、材料リサイクルプラントの導入も効率化を図るための取り組みの1つです。それによりコストの高い先進国でもリサイクルを定着させたいと考えました。生井さん、1日どのくらいの量のトナーカートリッジが回収されてくるんでしたっけ?
生井:
日本国内だけで1日にトラック何台分ものトナーカートリッジがリサイクル拠点に返ってきます。これを手で解体してリサイクルするとなると膨大な時間がかかります。トナーカートリッジの回収量の増加に伴い、キヤノンエコロジーインダストリーでは業界で初めての材料リサイクルプラントを導入しています。
カートリッジをそのまま投入するだけで、破砕、分別して、プラスチックのペレット化まで自動化しています。こうした先進技術の導入によって、品質を保ちながら低コスト化を実現しています。メーカー独自でこのようなリサイクルプラントをもっている企業はあまりないのではないでしょうか
カートリッジを投入するだけで自動でペレット化

クローズドループリサイクルを推進するための工夫

リサイクル率が高いと言われているペットボトルでも、ペットボトルに再生されるのは、わずか数%。あとは、フリースなどの他の製品にリサイクルされていると言われている。では、なぜキヤノンがクローズドループリサイクルを実現できたのだろうか。そこには、それぞれの現場のたゆまぬ努力があった。

キヤノンの再生プラスチック
写真:佐藤氏
佐藤:
リサイクルの効率化という意味では、プラスチック材料の種類を極力少なくしたり、種類の違うものは仕分けしやすいよう色分けしたり、設計の段階からリサイクルを考えたものづくりを行っています。
 
プラスチックは、鉄やアルミのような金属と違い、同じ製品へのリサイクルが難しいと言われているんです。それはプラスチック材を低コストで再生する為の技術(量産化)が一般に普及しておらず、高品質のリサイクル材はどうしてもコストが高くなってしまうからなんです。そのため、品質レベルを下げた他用途への再利用が一般的になっています。こうした品質レベルを下げた再利用を行っていけば、いずれ廃棄されてしまうことになります。
 
そこで、キヤノンでは、材料毎の色分け等が施された自社製品の特徴を最大限活用した、独自の装置を開発しました。そして、その装置に対応できる製品設計の標準化を行い、効率的なリサイクルシステムの構築に取り組んでいます。こうすることでクローズドループリサイクルを実現しています。
田中:
トナーカートリッジは、家電と異なりリサイクルに関する法規制がありません。それは、なぜかと言えば、キヤノンが率先してリサイクルに取り組んできた経緯があり、これが業界の標準になっているからではないでしょうか。現在、私たちが進めており、メーカーが自分の責任で資源を循環させる「クローズドループリサイクル」も業界に広げていけたら、と考えています。キヤノンだけでなく、より広く地球の環境対策に貢献していきたいですね。

リサイクル世界会議を開催

写真:リサイクル世界会議

開発部門、生産部門、世界のリサイクル4拠点などの関連部門が集まり、リサイクル世界会議を開いています。リサイクル課題や最新技術を共有し、各部門の連携の強化を図っています。

製品の開発から生産、回収、さらに再生までリサイクルの輪をつなぐクローズドループリサイクル。リユース部品やリサイクル材を利用しながら、お客さまに新品と同じ品質を提供するために、きめ細かな仕分けや傷一つも見逃さない厳しい検査が実施されていた。お客さまと地球環境のために、それぞれの現場ではこれからもたゆまぬ努力が続けられていく。