開発者たちが語る

EF400mm F2.8L IS III USM /
EF600mm F4L IS III USM

1. 開発コンセプト すべての超望遠ユーザーに喜んでいただくために
使い勝手を一変させる“軽量化”を目指した

フラッグシップに求められるもの、とは。
リサーチを繰り返すなか、超望遠ユーザー共通の要望は使い勝手を一変させる“軽量化”だと再確認、
劇的な軽量化の実現は、開発チームが一丸となって取り組むべき挑戦だった。

イメージコミュニケーション事業本部
ICB 光学事業部
島田 正太
商品企画

単に軽いというだけに止まらず
全体の重量バランスを根本から見直した

開発スタート時の背景、設計方針、意気込みなどを聞かせてください。

長尾(開発リーダー)

プロの現場では、二度と訪れない一瞬を最高の描写で切り取ることが求められます。私もこれまで撮影に同行させていただき、プロフォトグラファーの皆様が極限の集中状態で被写体に挑んでいる姿を何度も目の当たりにしてきました。緊迫した場面でシャッターチャンスを捉えるには、機材が身体の一部のようになじみ、少しの違和感もなく自在に操れる状態であることがなにより大切だと思いました。そこで、まず「次世代の最高峰レンズはどうあるべきか」をリサーチするところから開発をスタートさせました。シビアな目線を持つ多くの方の意見に耳を傾け、常にそうした皆様を最高の状態でサポートできる機材とは何かを考え、今あるレンズの枠にとらわれない理想を胸に開発にあたりました。

島田(商品企画)

一番の開発コンセプトは軽量化です。それもEF400mm F2.8L IS III USM、EF600mm F4L IS III USMともに、手にしただけで驚いて頂けるような劇的な軽さです。ここまでの軽量化に挑戦した理由は、こうした超望遠レンズをお使いいただくプロフォトグラファーやハイアマチュアの皆様は、それぞれに独自のスタイルや仕様へのこだわりをお持ちですが、軽量化はすべての超望遠ユーザーにとって共通の不変的な願いであるからです。また、ヒアリングを重ねるなかで単に軽くすればいいのではなく、カメラを構えた際の重量バランスもプロの道具として考えるうえで重要なファクターであるとの共通認識を持ち、検討を進めました。もちろん高画質であることも絶対に譲れない前提条件です。いかに高画質を実現したうえで、大幅な軽量化を達成するのか。そこが、本プロジェクトのキーポイントでした。

疲れ知らずで自由に振れる取り回しの良さ
キヤノンのレンズだから撮れたと言っていただきたい

軽量化による機動力と携行性向上

軽量化を最も重要視した背景を、もう少し詳しく教えてください。

長尾

レンズの軽量化が実現し、携行性や機動力が高まることは、描写力やAFと同じように極めて重要なスペックでもあると考えています。プロの方からは、「重量バランスが考慮されていれば、極限までの軽量化を望む」といったご意見も頂戴しました。軽くなることで持ち運びが楽になり、それにバランスの良い重心という要素が加わることで、さらにスムーズにレンズを振れるようになるため、構図を頻繁に変えるなどしても腕の疲労や体力の消耗もこれまで以上に抑えられます。一方で、II型では描写性能、信頼性、操作性に対して高い評価をいただいています。そうした信頼を裏切るわけにはいきません。商品企画、要素技術部門から、光学設計、メカ設計、電気設計、それに品質保証や生産現場まで、チーム一丸となって“EFレンズのフラッグシップ”に向き合いました。

ガラス質量とレンズ構成の変化 (EF400mm)

II型はI型の光学系を基本的に踏襲しているが、III型はII型の光学系とはまったく別の発想によって生み出されたのがわかる。I型と比べると、III型のガラス質量は半分以下。

並の軽量化では“画期的”に変わったとは言えない

具体的には、どれくらい軽量化が実現できたのでしょうか。

早川(メカ設計)

EF400mm F2.8L IS III USMにおいては、II型が約3,850gだったところIII型では約2,840gと、約1,010gもの軽量化を達成しています。比率では約26%減になりますが、1ℓのペットボトル分が減ったとイメージしていただくと、相当に画期的な軽量化である事実を感じていただけるのではないでしょうか。EF600mm F4L IS III USMでは、II型の約3,920gから約3,050gへ、約870gの軽量化を実現しました。内訳で最も軽量化しているのが光学系になります。またメカについても、これまでメスを入れていなかった箇所の隅から隅までテコ入れしたことで、軽量化に大きく貢献できました。

400mmのII型がデビューして7年、600mmのII型においては6年が経過した。キヤノンの技術力を結集し大幅に軽量化を実現したIII型により、新世代を迎える。

イメージコミュニケーション事業本部
ICB 光学開発センター
長尾 裕貴
開発リーダー

EF400mm F2.8L IS III USM

スポーツから鉄道など、さまざまな撮影に向く通称ヨンニッパ。本体質量は約2,840g。

EF600mm F4L IS III USM

被写体に近づけない野鳥や野生動物などをクリアに写せる通称ロクヨン。本体質量は約3,050g。

2. 軽量化 (1) 光学 “軽量化”の実現には光学系の見直しが不可欠
革新的なアイデアは不断の研究テーマから生み出された

目標となる軽量化の実現には根本からの見直しが必要であり、大きな困難が予想された。
そんなとき見えた光は、研究を重ねていた後方集中配置型の新光学系。
光学系一新への不安は、技術者の熱意により乗り越えていった。

イメージコミュニケーション事業本部
ICB 光学開発センター
齋藤 慎一郎
EF400mm F2.8L IS III USM
光学設計

新光学系の提案により、目標値の実現を確信できた

当初、どれくらいの目標値を設定されたのでしょう。また、大幅に軽量化できそうだと確信に至るきっかけなどはあったのでしょうか。

島田(商品企画)

設計スタートの段階では、チームとして3,000g以下に抑えるというミッションを設定しました。

長尾(開発リーダー)

きっかけは光学設計部門から上がってきた新しい光学系の提案に始まったといっていいでしょう。われわれは、将来製品をにらんだ要素技術の開発を絶え間なく続けており、新硝材の探索やその最適な使用法、評価手法に至るまで、さまざまなテーマに取り組んでいます。実際にIII型の設計が始まる前から光学設計部門のメンバーがお互い競うように新しい硝材を使って軽量化した複数の新光学系のアイデアを生み出していました。ハイレベルな競争を経て、軽量化と性能が両立するベストなアイデアに絞り込んで育成したのが、今回の光学系になります。

結集したキヤノンの総合力によって
遠かったゴールテープを切ることができた

齋藤(光学設計)

400mmでは、II型の開発時も前面の保護ガラスを省いたり、蛍石を採用したりするなど、I型に比べてかなりの軽量化を図ったわけですが、今回はレンズ構成図をご覧いただくと一目瞭然、II型とまったく別物の光学系です。III型では、蛍石やスーパーUDレンズおよび新硝材を活用し、第2レンズ以降を後ろ側にレイアウトした「後方集中配置型」の光学系が特徴です。

EF400mm F2.8L IS II USM(II型)

EF400mm F2.8L IS III USM(III型)

II型と大きく異なるレンズ構成
EF400mm F2.8L IS III USM

同じ400mm F2.8とは思えないほどレンズ構成が異なっている。II型とのレンズ枚数の違いは1枚だが、III型(下)は「後方集中配置型」の光学系であることが一目瞭然。

中原(光学設計)

600mm III型も、光学系の考え方は400mm III型と一緒です。レンズ径を小さくすることによる質量低減効果は大きいのですが、第1レンズのレンズ径は光学系全系の焦点距離およびFナンバーによって、一意的に決定されるため、小さくするのは困難です。そこで第2レンズ以降のレンズの軽量化に着目し、第1レンズと第2レンズの間隔をなるべく広げ、第2レンズ以降のレンズ径を小さくすることを目指しました。これまでのレンズ構成をゼロから見直して新しい硝材採用も検討し、II型の高い描写力を維持した上で軽量化に最適なレンズ構成を検討しました。第1レンズにキヤノン初となる新しい硝材を採用しています。これは一般的な低分散ガラスの中では比較的屈折率が高く、比重も小さい(軽い)のが特徴です。この新しい硝材を第1レンズに配置したことで軽量化を図りつつ球面収差や色収差の発生を抑制しています。

齋藤

合わせて異常分散性の高い、別の新しい硝材を採用することで、第2レンズ以降を今までより後方に置いても、II型と同等の色収差補正効果が得られています。後方に配置できるということは、そのぶん径の小さなレンズで済みますから、全体の軽量化を見込めるうえに、重心が後ろ(カメラボディ寄り)に移る一石二鳥の光学系なのです。

EF600mm F4L IS II USM(II型)

EF600mm F4L IS III USM(III型)

II型と大きく異なるレンズ構成
EF600mm F4L IS III USM

600mmも400mm同様、III型は前群のスペースと後方に集中的に配置されたレンズが特徴的。三脚座の位置を見れば、重心がレンズ後方に移っているのもイメージできる。また絞り位置も前に移動したことで、EMD(電磁駆動絞り)ユニットも大型化している。

イメージコミュニケーション事業本部
ICB 光学開発センター
中原 誠
EF600mm F4L IS III USM
光学設計

次々に出てくる新たな課題
光学設計、メカ設計、電気設計と製造部門が
タッグを組んで克服していった

新規開発の光学系となると、新たな課題も出てきたのでは。

齋藤

光学設計が考える理想の軽量化を実現するために解決すべき大きな課題は2点ありました。一つが軽量な光学系実現のために、絞り位置を前に移したことによる、EMD(電磁駆動絞り)ユニットの大型化。もう一つが第3レンズの薄肉化です(第3レンズの薄肉化については「製造技術」に詳細)。

市瀬(電気設計)

絞りをII型よりも前方に配置したことから、EMDユニットの大きさがこれまでのEFレンズの中で最大径になりました。そのため、絞りの駆動量・駆動負荷が大きくなり、従来の機種以上に、絞りを高速・高精度に駆動するのが難しくなりました。そこで、絞り駆動用のステッピングモーターに新たにセンサーを設けてモーターの回転速度をリアルタイムに検出し、モーターの状態に応じた制御を行うようにしました。これによりモーターの能力を最大限まで引き出すことに成功し、EMDが大きくなったにも関わらず、II型以上に速く動かせるようになりました。

ブレイクスルーとなったのは、新硝材を活用した画期的な光学系だった。これまでにないレンズ構成を実現できたことが、劇的な軽量化への道を切り拓いた。

高速・高精度に動く大型EMD

大型化した絞り羽根を高速かつ正確に開閉させるためには、ステッピングモーターをタイミングよく、高速回転させなければならない。

3. 軽量化 (2) メカ 既存の考えの延長線上に限界が見えたとき
鏡筒を一新する方向へ舵を切った

金属鏡筒を軽量化するためには徹底した肉抜きが必要。
ただそれだけでは大幅な軽量化が不可能なのは明らかだった。
自ら掲げた高い目標を実現するため、構造から素材までの刷新を決断する。

イメージコミュニケーション事業本部
ICB 光学開発センター
早川 誠
メカ設計

より高い目標を掲げて
既成概念にとらわれない発想で向かい合った

機構や素材など、メカ関連での軽量化の指針からお聞かせください。

早川(メカ設計)

2011年発売の400mm II型の開発にあたり、当時はそれこそ髪の毛1本分でも軽くしようと極限まで突き詰めたわけですから、さらなる軽量化はそう簡単にはいきません。鏡筒や外装などを、さらに肉抜きしたとしても限界がありますし、場合によっては強度や光学性能に影響を与えかねない。そこでメカ設計としては、信頼性や光学性能を犠牲にしないで、より高い目標を達成するためにはどうするかを第一に考えました。当初から、自分の中では「II型より1,000g減」という、チーム目標よりハードルの高い目標を設定していました。また、そのための検討項目としては、(1) 強度・光学精度は維持したまま従来の基本構造を変更、(2) 各コンポーネントを一新、(3) 最新の光学調整機構を採用する、という3点を重点的に行うことに決めました。結果として、光学性能や信頼性に負担とならない、非常に“素性の良い”軽量化が実現できたと思っています。

部品点数を減らすことが
軽量化と強度アップの両立につながる

フォーカスリングの電子化もプラスに働いたのでしょうか。

早川

はい。フォーカスリングの電子化に伴い、機構の最適化を図っています。詳しく説明しますと、まずII型はフォーカスリングとフォーカスユニットをメカ連結(物理的な連結機構)させるため、主要な鏡筒部分を、固定筒、中間筒、USM本体、1群鏡筒の4部品で構成していました。III型では、フォーカスリングが電子式になっています。これによってフォーカスユニット(USM)を内包させられるため、固定筒と1群鏡筒の2つの部品で構造体が作れるのです。部品数が減らせることは軽量化だけでなく、強度的にも有利に働きます。また、各パーツの接続部が少なく、そのぶん組み立ての精度などの面からもメリットがあり、さらには各レンズの位置決め精度も向上します。

構造の一新や素材の見直し、さらには最先端の加工技術を駆使。
支えたのは、なによりも技術者のチャレンジ精神だ

新しい高強度合金の採用

鏡筒には新しい合金を採用しているようですね。

長尾(開発リーダー)

素材面でのトピックが、新しい高強度合金の採用です。これは新しいカーボン強化マグネシウム合金で、カーボンを含有させたことにより、合金の結晶粒を微細化させて機械特性向上を図った材料です。さらには、この素材の特徴でもある高い流動性により射出成形(チクソモールディング法)で、いっそうの薄肉成形が可能になりました。おかげで400mmの1群鏡筒を例に挙げると、射出成型で鏡筒の最薄部0.8mmを実現し、ベース肉厚を今までより約2割薄くでき、十分な強度を確保しつつも、軽くすることができました。このカーボン強化マグネシウム合金は、ほかに三脚座や後ろ側の外装筒などにも採用しています。

早川

カーボン強化マグネシウム合金以外の外装は鍛造マグネシウム合金、要はマグネシウムの塊を叩いて造形する手法によって作られた素材から形成した部品もあります。これは衝撃に対しての破断に強い素材になります。また、一部アルミニウム合金も使用するなど、機能面を重視し、複数のマグネシウム合金やアルミニウム合金の中から最適な素材を選択して外装部品を形成しています。よりサイズの大きな600mmの1群鏡筒については2分割で作る検討も行ったのですが、各部門と精査し、こちらも1部品でまとめ上げることができました。

基本構造の一新、新しい金属材料や最先端の加工技術によって、目標の軽量化を実現しつつ、プロの使用にも耐えうる強度をクリアしたメカ部門。ただ忘れてはならないのが、より高い目標に向かおうとするチャレンジ精神だ。レンズ外寸を大きく変えられない中で、与えられた目標値をクリアするのは、培ってきた経験値だけではない。軽やかな発想の転換と挑戦することを厭わない技術者の気構えによって、革新の軽量化が生み出されたのだ。

軽量化のポイントとなった1群鏡筒

電子式フォーカスリングとなったことで、II型の鏡筒構造は大きく4つの部品で構成されていたが、III型では2部品に。そのうちの1群鏡筒は、カーボン強化マグネシウム合金製で、軽いといわれるアルミニウム合金よりも軽量。

4. 画質 (1) 光学調整とコーティング技術 無収差に近かったII型の高画質レベル
その性能を超えるべく使命感に駆られていた

フラッグシップとも言える高画質レンズの性能は、もう改善の余地は多くなかった。
一方で軽量化を目指したことによる大幅なレンズ構成の変更は、さまざまなチャレンジを生むきっかけになった。
画質の堅持と軽量化の両立。技術者たちは、高い目標をどうクリアしていったのか?

レンズ構成を大幅に変更しても
高次元の描写性能を維持することが命題だった

軽量化のために光学系に大きな変更を行っていますが、レンズの描写性能に影響はなかったのでしょうか。

齋藤(光学設計)

もともとII型の光学性能は、解像力も逆光耐性も極めて高いレベルに到達しています。ですから、格段の軽量化を実現しつつ、その高次元の光学性能を維持し、少しでも改善することがIII型におけるわれわれ光学設計部門の命題でした。

中原(光学設計)

そのため、ゼロベースで光学系を見直し、光学調整用レンズのレイアウトを変更、最新の光学調整方式を採用し、光学性能のポテンシャルを安定して発揮させられるようにしています。

理想のレンズ実現のため、
日々進化を続ける内製の光学調整機

長尾(開発リーダー)

キヤノンでは、高品質で安定したレンズ生産のため、日々光学調整機や測定機の研究を進めています。今回のIII型においては、超望遠レンズに特化した内製の光学調整機を使用しています。項目ごとにより細分化したデジタル調整をすることで、従来の目視と手作業のみでは困難を極めたベストな収差バランスへの追い込みを、より高精度に行っています。

ゴースト、フレアを抑制できる
ASC(Air Sphere Coating)

蒸着膜層の上に、二酸化ケイ素と空気を含んだ膜を形成することで光の反射を抑制する技術。光学ガラスよりも屈折率の低い空気をコーティング内に一定の割合で含ませることで、超低屈折率膜を形成することで、高い反射防止効果を発揮する。

レンズ構成の変更が有利に働き
逆光時のコントラスト描写は向上した

逆光耐性についてはどうでしょうか。

齋藤

第2レンズが後方(レンズマウント側)になったことで、画角外の光に対してフレアが非常に発生しにくくなり、逆光時のコントラスト描写が向上しています。内面反射の観点からいえば、前玉(第1レンズ)が1枚になったことも有利に働いています。

中原

加えてASC(Air Sphere Coating)によって、画角内外の両方の光源によるゴーストも適切に抑制しています。

齋藤

ASCはレンズの蒸着膜上に二酸化ケイ素と空気を含んだ薄膜を形づくることで光の反射を抑制するキヤノン独自の技術です。考え方としては、光学ガラスよりも屈折率の低い空気をコーティング内に一定の割合で含ませることで超低屈折率膜を形成し、そこに光が通過し、少しずつ屈折していくことで反射をできる限り抑えるというものです。とりわけ垂直に近い角度でレンズに入ってくる光に対し、より高い抑制効果を発揮させられますので、コーティング位置にもよりますが、望遠系レンズに適したコーティングです。

中原

単純にたくさんのレンズにASCを施せばいいというものではありません。多層膜コーティングと合わせて、ここぞという最適なレンズ面に行うのがベストと考えます。

ユーザーが気にするのは軽量化が画質に影響を与えていないかということだ。しかし、定評のあるII型の優れた描写力を継承することが開発チームの誓いだった。蛍石やスーパーUDレンズ、新硝材を活用した後方集中配置型のレンズ構成は、格段の軽量化を実現してくれた。その一方で、製造レベルは一段と難易度を増した。そんなとき、最新の内製光学調整機も強い味方になってくれたのである。

蛍石の特性とほぼ同等の効果を備えたスーパーUDレンズ

UD(Ultra Low Dispersion)レンズは、光学ガラスに比して優れた光学特性を持つ蛍石の効果を得るために開発された特殊光学材料。このUDレンズの性能を大幅に向上させ、蛍石の特性とほぼ同等の効果を備えたのがスーパーUDレンズ。2本の新レンズの軽量化に貢献している。

5. 画質 (2) ISの進化 画質を左右するのは光学性能だけではない
そんな気構えで手ブレ補正機構を進化させてきた

鮮明な写真画質をモノにするには、手ブレ補正機構ISの恩恵も計り知れない。
最重要課題として、前機種を上回る性能向上に対応するためには、
地道な追い込み作業にも耐えうる、技術者の経験値と妥協しない精神が決め手だった。

イメージコミュニケーション事業本部
ICB 光学開発センター
平井 大輔
電気設計

IS性能の向上は最新のジャイロだけでは不十分
さまざまな状況を想定した制御アルゴリズムの構築が必要

IS性能 5段※はどのように実現したのでしょうか。

平井(電気設計)

手ブレ補正機構IS(Image Stabilizer)につきましては開発当初から、いわゆる最重要課題として「5段を達成せよ!」とのミッションを受けていました。そこで両レンズとも振動ジャイロ、マイクロプロセッサーを刷新し、シャッター速度換算5段分のIS効果を達成することができました。レンズ本体の質量もII型よりも大幅に軽量化されたこともあり、実際に超望遠レンズを手持ちで撮影できる幅が広がったと思います。

最新の振動ジャイロに交換すれば、効果が上がるということですか。

平井

単に最新の高性能な振動ジャイロを積めば済むわけではありません。その振動ジャイロの特性をきちんと把握し、最適な制御アルゴリズムを構築しなければなりません。マイクロプロセッサーを刷新したことで、新しい処理も入れられるようになり、ソフトウェアを組んでの検証、制御アルゴリズムに修正を加えていくことを繰り返し、性能を上げることができました。EF400mm F2.8L IS III USMやEF600mm F4L IS III USMは過酷な環境下でお使いになるプロやハイアマの方もおられますので、振動ジャイロの温度変動による影響や、ISユニットそのものの温度による特性変化をいかに極小化していくのかもノウハウになります。メカ的な構造を工夫したうえで、その動作をアルゴリズムに採り入れていきます。

EOS-1D X Mark II使用時。CIPA規格に準拠

長尾(開発リーダー)

新しい振動ジャイロと最新のマイクロプロセッサーは、EF70-200mm F4L IS II USMに搭載したものと同じものです。しかしながら、当然、動作ユニットのサイズや焦点距離が異なりますので、各レンズの特性に合わせた細かなチューニングを行なっています。

早川(メカ設計)

また、III型には新規のIS機構を採用しています。ISの駆動はレンズが光軸周りに回転してしまう「ロール」が発生すると手ブレ補正効果が低下してしまうため、ロール防止機構を搭載しています。ロール防止機構には多くの部品が使われていますが、今回は新規のロール防止機構を考案し、レンズを保持するために介在する部品点数を減らすことができました。これにより、レンズの保持精度が向上し、安定した光学性能の維持に貢献しています。 また、駆動負荷を低減することで、マグネットとコイルで構成されるアクチュエーターの小型・軽量化も達成しています。

最新型の高精度ISユニット

振動ジャイロが新しくなっただけでなく、基本構造も変わっている。小型アクチュエーターのおかげもあり、ユニット自体も軽量化。精度もアップしていて、扱いやすくなっている。

EOS発売以来、すべてのボディで動作検証を行うのは
キヤノン30年のプライドと技術者のやりがい

手持ちでのIS性能だけでなく
三脚使用時の振動に対応できるように進化している

ISというと手持ち撮影での性能に目がいきますが、三脚撮影時はどうでしょうか。特にミラーショックによるブレなどは気になるところです。

平井

カメラのミラーショックの振動についても、三脚設置状態を検出して制御を最適なものに切り替えており、基本的には三脚使用時にもISスイッチはONのままで問題ありません。ただし、三脚の種類や三脚を設置している場所により、発生する振動の周期や大きさなどはケースバイケースですので、使用状況によっては効果に多少の違いが出てしまうのは事実です。しかし今回の新しいISユニットは 高周波追従性も向上しており、三脚使用時にミラーショックによって生じるようなブレに対しても、現行のII型よりも耐性が高くなっています。また、一脚撮影の場合は、ISをONにされたほうが恩恵を受けられるはずです。

イメージコミュニケーション事業本部
ICB 光学開発センター
市瀬 正実
電気設計

IS機能の動作検証は
フィルム時代のEOS1号機から妥協せずに行う

旧型のカメラボディでも最新のIS機構は動作するのでしょうか。

平井

EFレンズはフィルムEOS、それこそ第1号のEOS650と組み合わせても問題なく動作します。ISの開発設計では、単にISが動作するかの単純な確認だけではなく、カメラの特徴に応じてパラメーターを調整することも行っているので、過去に発売したカメラとのマッチング検証はかなり手間がかかります。しかし、30年続いたシステムはキヤノンの財産ですから、われわれとしても妥協せず性能を追い込んでいくことを肝に銘じ、日々、真剣に取り組んでいます。

市瀬(電気設計)

電気システム担当としては、これまでのカメラとの互換もとりつつ、最新カメラやレンズの新機能もきちんと働かせなければなりません。省電力化を図ったり、タイミングを制御して電力バランスをやりくりしたり、頭を悩ませる部分でもありますが、だからこそ、やりがいにもつながっています。

手ブレ補正機構ISのEFレンズ初搭載から約23年。補正効果の大きさだけでなく、流し撮り対応など使い心地もブラッシュアップを重ねてきた。ISもまた、補正光学系、ユニット機構、電気制御など幅広い技術の融合と、膨大な実地検証とアルゴリズム(ソフトウェア)の再構築を繰り返して進化し続けている。

レンズ鏡筒の手ブレ補正スイッチ

III型もこれまで通り、通常の手ブレ補正「モード1」に加え、流し撮りに対応した「モード2」、露光中のみ補正が働く「モード3」を搭載。

6. フォーカス機能 (1) マイクロプロセッサーとパワーマネジメント 快適・快速なAFは、写真の質を左右する
日進月歩のデジタル技術によってAFは進化し続ける

レンズとボディの情報のやりとりを完全な電気信号で行うEOS&EFシステム。
最新マイクロプロセッサーによる電子制御の速度向上と、
メカ部分の精度向上による高速・高精度のAF(オートフォーカス)性能を実現。

高速・高精度なAF

AF性能はどうでしょうか。

長尾(開発リーダー)

軽量化や描写力とともに、非常に気になるスペックだと思います。400mmにおいては、II型からIII型で最短撮影距離が2.7mから2.5mと短くなり、より広範囲の像面移動量をカバーしなければならなくなったにも関わらず、至近端から無限遠まで移動するフォーカスレンズの駆動時間は短縮されています。これは、明るい条件下でAF駆動を行い、ファインダーを覗いて頂くと実感頂けるかと思います。

なるほど、高速なAFを実現していますね。

長尾

AF速度は、レンズ側が出せるフォーカス駆動の最高速度とカメラ側のフォーカス演算時間の両方が関係します。明るいシーンでは、レンズ側が出せるフォーカス駆動の速度のほうが支配的になってきますので、III型でAF速度向上が実感できると思います。

最新のマイクロプロセッサーによって
すべての処理速度がアップした

AFの性能向上のポイントになった技術は、どういったものでしょうか。

市瀬(電気設計)

大きなポイントとしては、最新のマイクロプロセッサーを搭載することで演算速度が上がり、AFの制御周期が高められるようになりました。その結果、各種条件にもよりますが、AIサーボAF時の被写体追従性が向上しています。また、マイクロプロセッサーのコア数が増えことから、よりスムーズな並列処理が可能となり、例えば手ブレ補正機構ISがONの状態でも、AF性能を出しきれるようになっています。さらに、AFで使用している電力をリアルタイムに、かつ正確に検知できるようにパワーマネジメント機能を改良し、超音波モーター(USM)の最高性能を引き出しやすくしています。厳密にはカメラボディ側のAF性能に依存しますが、EOS-1D系にしてもEOS 5D系にしても、どちらもIII型レンズのAF性能向上の恩恵は受けられます。

早川(メカ設計)

メカ的にAFに関連するポイントは、フォーカスレンズ群のガラスの質量が約1/5になったことで駆動時の負荷が低減されていることです。また、ボールベアリングを採用したUSMのガタ寄せ構造によって、AF合焦の際、往復の“アソビ”がほぼゼロになっています。これにより、USMの駆動力がダイレクトに伝わるようになったことも、性能向上に寄与しています。

リング式超音波モーター(USM)

EFレンズの基幹技術であり、キーデバイスでもある「リングUSM」。III型ではUSMの潜在能力を最大限に生かすための工夫が凝らされている。

エクステンダー装着時もレンズのフォーカス駆動速度が向上

2つのレンズではエクステンダーを使うユーザーも多いと思います。この場合の速度も向上しているのでしょうか。

長尾

はい、III型で速くフォーカス駆動できるようになった恩恵は受けられます。ただ、エクステンダー装着時は、フォーカスレンズの単位移動量当たりの像面の変化量が大きくなることとF値が暗くなることから、撮影条件によって速度に制約が掛かってしまう場合があります。

7. フォーカス機能 (2) フォーカスリングの電子化とMF もっと繊細で厳密なピント合わせを!
思ったところに微調整できる3段階のモードを備えた

マニュアルフォーカスは、厳密なピント合わせには欠かせない機能。
もっと厳密に、もっと繊細な操作感にというユーザーの声に応えるため採用を決めたのが電子式のフォーカスリングだ。
人によって異なる操作感覚の違いは、切り換え式のモードを付加することで克服した。

フォーカスリングの電子化によって
メカ連結方式よりも繊細なピント合わせが可能になった

電子式のフォーカスリングを採用したのはどうしてでしょう。

長尾(開発リーダー)

これまでのメカ連結によるMF駆動ですと、フォーカスリングを操作したときに、単位回転角当たりの像面の移動が大きく、繊細なピント合わせがしづらいとの声を頂戴しました。例えばライブビュー(LV)モードで拡大表示させながら厳密なピント合わせを行うには、ピント面の移動が大きすぎるというわけです。

島田(商品企画)

AFをメインで使われる方が多いかとは思いますが、風景や野生動物の撮影、またスポーツでも競技前後で選手の表情や仕草を印象的に撮影したいときなど、もっとシビアにピントを合わせたいとの声も多く、このタイミングでの採用に踏み切りました。超望遠で野生動物などを狙うネイチャー系のムービーユーザーの方にも便利に使っていただけると思います。

操作感覚や被写体によって
マニュアルフォーカス速度が異なる3つのモードを
使い分けられる

今回、フォーカスリングの電子化に伴い、マニュアルフォーカススピードスイッチが新搭載されていますね。

長尾

お客様が所望されるマニュアルフォーカス速度(単位回転角当たりの像面移動量)で操作できるように、その比率をマニュアルフォーカススピードスイッチで3段階切り換えられるようにしています。「モード1」はII型のマニュアルフォーカス速度よりも低速に設定し、より微細なMFでのピント合わせを行いやすくしたモード、「モード2」はモード1に対してさらに低速してより微調整を行いやすくしたモード、「モード3」は最も低速でさらに微調整しやすいモードの3種類です。例えばLVでじっくり撮られる方には、最も緻密なピント追い込みが可能になるモード3を推奨します。

幅広のフォーカスリングと
マニュアルフォーカススピードスイッチ

より厳密にMFでピント合わせたいときは「2」や「3」に切り換える。フォーカスリングの適度な粘りのある感触(トルク感)にもこだわり抜いた。

スリープモードからの復帰は
リングを回すだけで違和感なく行える

市瀬(電気設計)

省電力のため、カメラの操作をやめるとレンズは省電力モードに入ります(測光タイマーがOFFになる)。これはオートパワーオフによるカメラシステム全体の省電力モードとは別に、省電力のために頻繁に行われています。省電力モード中は、マイクロプロセッサーもほぼ完全停止しているので、電子式のフォーカスリングの場合、回転検出ができず、通常でしたらフォーカスリングも効かなくなります。 しかし今回はシャッターボタン半押しなどしなくても、レンズのフォーカスリングを回せば、スリープから復帰し、自然にフォーカスのマニュアル動作を行うように対応しました。個人的にかなり苦労したところですが、使い勝手にダイレクトに響いてきますので、とことんこだわり抜きました。また、極力今までの操作方法と同じ感覚を追求しています。

島田

この電子式フォーカスリングのMFは、EFレンズの大きな特徴でもある「フルタイムMF」にも対応しています。新しいことに挑戦しながらも、いかにこれまでのお客様に不便を感じさせないか。その点は常に意識しています。

長尾

フルタイムMFは、カメラのAF動作が[ONE SHOT]でAFの後シャッターボタン半押しの状態、あるいはシャッターボタン半押しでのAF割り振りを解除したとき(いわゆる「親指AF※」を設定したとき)に有効となります。

親指AF:親指が当たる位置に設けられたAFボタンによってAF操作を行う機能。

8. 操作性 (1) フォーカスプリセット 自信を持って使ってほしいプリセット機能には
多くの工夫を盛り込んだ

フォーカスプリセットとは、ピント位置を記憶させておくことで
覚えた位置に瞬時にピントを合わせられる機能だ。
さまざまな改良とテストを重ねたとき、“これは使える”から“絶対に使える”へと確信できた。

総合デザインセンター
竹内 信博
デザイン

II型の1点プリセットが進化し
2点プリセットができるようになった

フォーカスプリセットが進化していますね。

島田(商品企画)

はい。III型では1点プリセットだけでなく、2つのピント位置を記憶させられる2点プリセットができるようになりました。フォーカスプリセットとは、あらかじめ設定しておいた被写体に、再生リングを回すだけで瞬時にピントを合わせられる機能で、II型にも1点セットできる機能は搭載されています。

長尾(開発リーダー)

ピント位置のプリセット方法はいたって簡単です。まず、1点目のプリセットは、プリセットしたい距離(被写体)にピントを合わせ、フォーカスプリセットボタンを1秒以上長押しし、再生リングを左右どちらかに回して、その距離をメモリーさせます。次に同じ手順で、もう一方の距離をセットします。2点目のプリセットは、先ほど1点目をメモリーした再生リングの回転方向とは逆の回転により行います。あとは再生リングを右、または左に回すことで、その回転方向で覚えさせた距離のほうにピントを迅速に合わせられます。あとは再生リングを回したまま、シャッターボタンを押せばいいだけです。

機能を増やしたことによる影響を避けることはもちろん
プロの道具として使い勝手も妥協しないレンズ

瞬時のピント合わせによって
2つのシーンを同時に狙える感覚

プリセット機能を活用できる推奨シーンなどはありますか。

島田

フォーカスプリセットの活用法としては、例えばサッカーのセットプレーの撮影でキッカーを再生リングの左回転でセットし、ゴール前を右回転でセットしておき、キッカーが蹴る瞬間を撮ったら即座に右回転にしてゴール前の競り合いを撮るといった使い方が可能です。あとは、モータースポーツ撮影で手前のコーナーと奥のコーナーを狙いによって切り換えるなど、これまで以上に実践的にお使いいただけるのではないかと思います。必ずしも、2点をプリセットする必要はなく、従来通り、1点プリセットもできるようになっています。また2点になったことで右回転を至近、左回転を無限にセットしていただければ、撮影中に被写体を見失ってしまったときなど、至近または無限遠にプリセットしてからAFを開始するといった使い方も可能になります。

長尾

MFでのしっかりとしたピント合わせには電子式となったフォーカスリングを使用していただき、一方で、大きく素早くピントを移動させる際には至近と無限にセットした2点プリセット機能を使用していただくと目的に合った使い方ができると考えています。また、被写体の距離が固定されているときはフォーカスプリセット(MF)、連続的に距離が変化する被写体の場合はAIサーボAFのように、ご自分の撮影スタイルやシチュエーションで使い分けていただければと思います。

フォーカスプリセットスイッチとボタン
構えたとき押しやすい位置にボタンがある

フォーカスプリセットが2点に対応したことで、その使用頻度が増えると予測。フォーカスプリセットスイッチや同ボタンの細かな操作感まで練り直した。

誤作動を避けるチューニングと
使い勝手を良くする改良を徹底して行った

その他にも改良した部分はあるのでしょうか。

竹内(デザイン)

私のほうでも、フォーカスプリセットの2点化を受けて、その使用頻度が増えるだろうとの予測のもと、再生リングの操作性を改良しました。再生リングの簡易的なモックアップを作成・検討した後、さらにリングのローレットのピッチを細かく変えたものをいくつか試作するなどして、さまざまな部署へのヒアリングも実施しました。また、品質保証部門とも連携を密にとりながら、デザイン作業を詰めていきました。開発後半には実際のフィールドに試作レンズを持ちだしての操作感テストも行っています。結果、リング幅を少し広くし、凹凸のピッチ幅も変更を加え、少しでも指がかりを良くして違和感のない操作性を実現しています。

MFの操作性で重要なのは、意思のままにピントを操れる“ダイレクト感”だ。が、被写体も撮影スタイルもリングの感触も人それぞれ。新搭載の電子式フォーカスリングはピント合わせのスピードが選べるだけでなく、そのトルク感も妥協していない。利便性の高まったフォーカスプリセットも相まって、“MFの懐の深さ”も進化した。

再生リングはローレット形状や指がかりなどを検討し、操作性のチューニングを重ねた

再生リングの幅や指がかりをとことんまで突き詰め、可能な限り、上質な操作感を目指した。写真上はモックアップ。写真下は400mm IIIの実機。

9. 操作性 (2) 形状や手触り 使い勝手の良さは、技術者全員の共通認識
手にしたお客様が驚く姿を見たくて、さらなる工夫が止まらない

一致団結して開発してきたレンズが格段に使いやすくなっていることは、皆が実感していた。
完成日が近づいてきても、もういいだろうと思う間もなく、次々に改良点が上がってくる。
ボタンの位置、ダイヤルの掛かり、持ち手の形状まで、手が触れるところなら、わずかな感触でも妥協できない。

レンズの重心が移ることを想定して
すべての部門が対策を講じていった

レンズの重心が後方に移り、取り回しがしやすくなったと感じます。当初から、重心移動を狙って後方配置型の光学系としたのでしょうか。

長尾(開発リーダー)

まずは軽量化された光学系ありきでした。とはいえ、早い段階から重心移動を考慮したメカ設計やデザイン作業も並行して進めていました。

島田(商品企画)

重心が移ったことによるレンズの取り回しの良さはプロやハイアマの方々に喜んで頂けるものと今から内心、楽しみにしております。手にされたときに軽量化した数字以上に使いやすくなっていると実感していただけるのではないかと考えております。

長尾

取り回しやすさは多分に感覚的なものですが、とても大切なファクターです。重心がカメラのボディ側に移るため、レンズ先端付近に左手を添えて身体の近くを軸にしてレンズを振る際の慣性モーメントが小さくなる、つまりはレンズを振り回しやすくなるわけです。

島田

モータースポーツ、野鳥、航空機などの流し撮りばかりでなく、それ以外の撮影で構図を頻繁に変えるときなども、今まで以上に使いやすくなります。その観点でいえば、軽量化そのものが操作性のアップに直結しているともいえます。こうしたメリットは言葉や数字では分かりづらいですから、プロフォトグラファーの皆様に限らず、できるだけ多くの方に、実物を手にとっていただき、皆様の感想を伺いたいです。

操作の感触を確認するためのモックアップ

再生リングなどのローレットの感触や外観を検討するためのモックアップ。実機と異なる箇所で着脱でき、さまざまなローレットのリングに差し替えられる。

実物大のモックアップを作り
さまざまな部署へのヒアリングと改善を繰り返す

全体の形状に加えて、ボタンやリングなどのデザインも操作性に深くかかわってくるのではないでしょうか。

竹内(デザイン)

おっしゃるとおりです。フォーカスリングや再生リングなど各種操作部材の形状や感触を常に意識してデザインを心がけました。III型は電子式のフォーカスリングなので、フォーカスリングのローレットの感触にもこだわりました。

デザイン作業はどのような過程を経たのでしょうか。

竹内

実際のデザインにあたっては、スケッチだけでなく必ず実物大のモックアップを作成し、細部まで形を詰めていきました。今は3Dプリンターなども活用できるので、従来より精度の高いモックアップが作れます。それをもとにヒアリングなどを行えば、より詳細で具体的な意見が聞けるため、開発もスムーズに進んでいきました。

きめ細かな改良で縦横のレボルビングもやりやすく

画面切り換えロックつまみは細かな四角錐状の滑り止めが施されている。また、三脚座取り付けリングと鏡筒の間にはベアリングが介されており、より滑らかな回転動作が可能になっている。

自信を持って作ったひとつひとつのパーツは、決して主張するわけではない
写真を撮る道具として手に馴染むかが大切なこと

よく見ると三脚座の形状がII型から変わっていますね。

竹内

重心が変わったことで、三脚座を持って歩くときなどにより持ちやすくなるよう、先端部は“返し”形状としています。つまり引っかかりを良くしているわけです。また、手持ち撮影時に三脚座を持つ方もいらっしゃると思います。その際、支える側の手が痛くないように、三脚座の角に少し丸みをつけました。いうまでもなく、これもモックアップを作成し、何度もヒアリングを行った結果です。写真を撮る道具ですから、手に馴染むかどうかは非常に大切な“仕様”でもあるのです。

早川(メカ設計)

三脚座といえば、レンズとの回転がなめらかになっています。これまではクリック機構のコロを滑らせて回転させていたのですが、III型の三脚座はボールベアリング方式にしてあり、より滑らかな縦横のレボルビングが可能になっています。EF400mm F2.8L IS III USMもEF600mm F4L IS III USMもEFレンズの“フラッグシップ”ですから、納得がいくまで追求いたしました。

画質やAF性能と異なり、操作性は絶対的な数値で表されるものではない。それだけに開発者たちのこだわりが宿りやすいともいえるだろう。そして、そのこだわりはモックアップにも表れる。III型の数多のモックアップを眺めていると、いかに担当者がユーザーの気持ちになって開発したかも見えてくる。

丸みを帯びた形状の三脚座は
持ちやすく、手が痛くならない

三脚座先端に「引っかかり」を造形。三脚座を持ってボディ装着レンズを運ぶ際など、より安心して移動できる。三脚座のほかに一脚座も用意している(サービスセンター対応・有料)。

10. 耐久性・信頼性 (1) 新たなレンズで、これまでの信頼を失うわけにはいかない
様々な試験の繰り返しによって確信を得た

革新的な軽量化に対して、強度や耐久性への疑問を抱くかもしれない。
自信を持って生み出した設計を裏付けたのは、多方面から行った試験の繰り返しだった。

大幅な軽量化による強度への影響は皆無
防塵・防滴性能もこれまでどおり

プロフォトグラファー、特に報道系の方は決定的瞬間に邁進するだけに、無意識に機材をぶつけてしまうケースも少なくないようです。

長尾(開発リーダー)

ここまで軽量化すると、もしかすると強度などをご心配される方もいらっしゃるかも知れませんが、「ご安心ください」と声を大にしてお伝えしたいですね。決して部品の無理な肉抜きはしておりませんし、綿密なシミュレーションを繰り返し、実機による強度試験なども幾度も行って、品質保証部門の厳しい試験をしっかりクリアしています。落下試験なども実施しておりますので、軽量化したからといってII型に比べ衝撃に弱いようなことはありません。

島田(商品企画)

信頼性について、とりわけスポーツやワイルドライフの分野では防塵・防滴性能も必須な条件といえるでしょう。400mm、600mmともにII型と同等の防塵・防滴構造を採用しています。また、レンズ面に汚れがつきにくく、付着したときも拭き取りやすい、フッ素コーティングについても、II型と同じくレンズ最前面と最後面に施しています。

フッ素コーティングの効果

レンズ最前面、最後面には油や水滴が付着しにくいフッ素コーティングを採用。油や水をはじき易く、レンズに付着した油分なども溶剤を使わずに、乾いた布などで簡単に拭き取り可能となる。

無理の出ない素材選びと設計に加え
これまで以上に多くの試験を繰り返す

長く使うレンズだと思いますが、耐久性についてはどうでしょうか。

長尾

USM、ISユニット、絞りユニットなどの駆動部については、今回どれも新規構造となっていますが、入念な信頼性試験、耐久試験を行い、しっかりと基準をクリアしています。耐久性についても軽量化による悪影響はありません。

早川(メカ設計)

電子式のフォーカスリングが回転する際の内側の部材の摺動(擦れる動き)についても検討を重ねています。本来、もっと軽量化するならマグネシウム合金同士の組み合わせにすればいいのですが、耐久性を考慮して内側の構造体についてはアルミニウム合金を採用しています。軽量化と信頼性や耐久性の確保は、素材の最適化および機構を工夫することで両立できています。

熱に対する信頼性はどのように確保しているのですか。

齋藤(光学設計)

熱がレンズにどんな影響を与えるのか、徹底して解析を行いました。軽量化という観点だけでなく、ガラスの熱伝導による屈折率変化に着目して外気温や鏡筒の熱がガラスに伝わりにくい構造にするなど、細心の注意を払って設計していますし、試作段階でいくつもの温度試験を行っています。

早川

外装の熱が直にレンズに伝わらないよう、熱伝導の経路をきちんと検証し、熱が伝わりづらい鏡筒構造にするというのが基本的な考え方です。シミュレーションを繰り返し、試作品で何度も実測することで、軽量化における影響が出ないようにしてあります。

島田

また今回新しく遮熱塗料を採用していることも、熱に対する新たなトピックです。(遮熱塗料については次頁に詳細)

EF400mm F2.8L IS III USMやEF600mm F4L IS III USMへのユーザーの要求は、別物といっていいほど軽量化を果たしたところで、その厳しさは変わらない。画質、AF、操作性、そして忘れてはならないのが、過酷な環境で機能する「信頼性」だ。そのための対策を万全にとり、徹底した試験を繰り返す。信頼性の遺伝子は今ここに引き継がれた。

防塵・防滴構造
(写真の赤い部分の箇所に施されている)

II型同様に、マウント部、スイッチ部、フォーカスリングなどに防塵・防滴構造を採用。

11. 耐久性・信頼性 (2) 遮熱塗料 伝統の“白レンズ”が生まれたエピソード
“熱”へのこだわりは、新たなステージに入った

キヤノンの白いレンズ に込められた“熱”に対する信頼性。
その熱対策を、新たなステージへと押し進めるのが遮熱塗料の独自新開発だ。
塗料の効果や耐久性、鏡筒構造やレンズ保持位置までも含めて全面的な対策をとった。

自社開発の遮熱塗料

熱に対する信頼性の確保には相当、力が入ったようですね。

島田(商品企画)

炎天下のシビアな環境でも高い光学性能を安定して得ることができる機材を提供するという目標に向かって、レンズの光学・メカ設計でできる熱対策を最大限行いました。キヤノンでは望遠・超望遠のLレンズには白色の鏡筒を採用していますが、その歴史の始まりは、一眼レフカメラ専用レンズとしては1970年代にまでさかのぼります。超望遠レンズは通常のレンズに比べて大きいため日差しの影響を受けやすく、また炎天下など過酷な環境で使用されることも多いです。熱による光学性能の低下を抑制するため、また鏡筒が熱くなり扱いづらくなることを防ぐため、黒色よりも熱を反射させやすい白色の鏡筒を採用してきました。今回、この伝統の”白レンズ”を更に進化させるべく、検討を進めました。

長尾(開発リーダー)

光学性能の温度に対する信頼性を上げるために取り組んだ一つが、遮熱塗料の新規開発です。例えば真夏の炎天下、長時間にわたって直射日光がレンズに当たると、いくら白レンズとはいえ、日が当たっているところと陰の部分で温度ムラが出てきます。そこで、まず外装に遮熱塗料を、と考えたわけです。ところが遮熱性の塗料を調べてみると、建築関連の遮熱塗料は多数実用化されて販売も行われているのですが、写真機材と建築素材では求める各種特性に違いがあり、レンズ鏡筒に適したものが見つからなかったのです。そのため、私どもで最初から開発することにしました。

400mmのII型(上)とIII型(下)を比較
色味から受ける印象の違いは少ない

旧型と比較すると新型は白いが、単体で見たときの違和感はない。従来の白レンズの佇まいを継承しつつも、新しさを盛り込んでいる。

塗料の専門部隊を編成
メカ部門や製造部門とも協力して完璧を目指す

軽量化が温度特性に関係するものなのですか。

長尾

軽量化、つまり質量が減ることでレンズ全体の熱容量は低下します。そのため、同じ熱量でもレンズそのものの温度が高くなると推測し、試作品で内部温度を計測するなど、対策に取り組みました。具体的には遮熱塗料を採用するとともに、前述の通り外装部品から伝わってくる熱が内部のガラスに伝わりにくくなるようメカ設計上の熱伝達経路も工夫をしています。外装表面で熱をしっかり反射させた上で、熱の伝達にも配慮して、レンズ内部のガラスの温度上昇をできるだけ抑制するという指針です。これらの対応により、軽量化による熱容量低下のデメリットを補うことができています。

齋藤(光学設計)

硝材には比較的、熱に強いものと弱いものがありますので、メカ部門や製造技術(工場)と協力して、温度特性の敏感なレンズに熱が伝わりにくくする鏡筒構造やレンズ保持位置などもとことん突き詰めています。

塗料そのものの耐久性はいかがですか。

長尾

もちろん、検討に検討を重ねました。紫外線による経年変化を想定したテストや、引っかきや摺動のキズに対する物理的な強さまでチェックしています。また、塗料の成分そのものを変更したり、その配合比率を変えたり、専門部隊が何度も試行錯誤をしながら開発しました。

竹内(デザイン)

遮熱塗料の機能性や信頼性は言うまでもありませんが、デザイン的にも、変更は加えながらも、キヤノンの白レンズとしての白のイメージを変えるわけにはいきません。そのことを踏まえた上で、発色も徹底的に追求しました。ほんのわずか色味の違う塗料を何種類も試作し、機能性とともに「白」を測定。測定機による明度のチェックに加え、規定条件の照明下における視認判断も必要です。疲れてくると区別できなくなってきますから、チェックは一定時間を超えないようにとか、細心の注意を払いながら行いました。

“白レンズ”はキヤノンの超望遠レンズの代名詞だ。それが長時間にわたる炎天下の撮影シーンから生まれたエピソードは、キヤノンユーザー同士の合言葉のようなものでもある。開発チームの地道な研究によって生まれ変わった「白」は、まるでその機能を高らかに謳うように、孤高の機能美を放っている。

12. 製造技術 理想のレンズを生産するためには
最新の設備と確かな技術力、そして昔も今もモノづくり職人たちの心意気

試作を重ねてきた自信作も、安定生産できなければ製品として成り立たない。
その日のために設計者の意図を汲みながら製造工程の見直しを図る。
準備万端、革新的な新レンズの生産が始まった。

イメージコミュニケーション事業本部
ICB 光学事業部
宇都宮工場
河野 剛成
製造技術

理想のレンズを生産するために

III型はトピック満載の製品。実際に製造する現場でも、対応するのが大変だったのではないでしょうか。

河野(製造技術)

そうですね。III型は複数の新硝材の採用、新しいレンズ構成、新規開発の遮熱塗料など、ありとあらゆるものが刷新されています。そこで、製造現場である工場側でも開発設計当初から、製造技術、つまりレンズ研磨や蒸着、光学・機構の組み立てから光学調整などを一から見直し、設計値どおりの高い性能を安定生産できる体制作りを整えてまいりました。

特に製造や調整が困難だったものは何でしょうか。

河野

なかでも、第3レンズ(凹レンズ)は非常に薄いレンズで、生産もわれわれとしては初めて踏み入れる領域でした。

第3レンズ

1群鏡筒

現場の技術力を証明した2つのパーツ

写真上は、薄肉化を高い精度と安定した品質で実現した第3レンズ。これが実現しなければIII型は日の目を見なかった。手にするとずっしり重い。写真下は、メカ関連のキーパーツとも言える1群鏡筒。新材料による射出成型と機械加工は一筋縄ではいかなかったが、加工現場との連携によって乗り越えた。

設計と製造部門がタッグを組んでさまざまな困難を克服した先には
思い描いていた理想の製品が待っていた

齋藤(光学設計)

この凹レンズは、見た目以上に重いんです。第3レンズの製造は、新しい光学系を成立させ、革新的な軽量化を図るには避けて通れない関門でもありました。これだけの薄さの凹レンズを生産でき、きちんと製品として組み込めるのはキヤノンが培ってきた技術力があってこそだと考えています。

河野

レンズの縁を手で持つだけで、体温によって局所的に歪みが出てくるほど繊細です。ですから、研磨液の温度管理など、桁違いのシビアさがあります。そうした中、かつてない軽量化と高い光学性能を両立させた製品の生産にこぎつけられた理由、それは進化を続ける内製の光学調整機の力が大きかった。これまで各種調整を人間の目と手で追い込んでいたものを、きわめて厳密に数値管理できるようになり、よりシビアな調整もより高い精度で行えるようになりましたから。

ノウハウと最新技術の積み重ね

メカ関連で印象に残っていることなどありますか。

河野

カーボン強化マグネシウム合金の1群鏡筒でしょうか。特に600mm用。400mm用よりサイズが大きく、はたして射出成形によって精度や信頼性を確保して1部品として作れるのか? 開発のメカ部門と社内の機械加工現場、マグネシウム合金の加工会社の皆様とあれこれ協力しあって実現できたことは鮮明に覚えています。 一見、1部品でシンプルな構造に見えるかもしれませんが、長年のノウハウの積み重ねがあったからこそ具体化できたキーパーツです。

開発設計と製造技術はまさに車の両輪だ。どんなに素晴らしい設計図が上がっても、製品として生み出す現場の技術力が高くなければ、当たり前だが、それなりのものしか作れない。反対に設計が行き詰まったとき、モノづくりの現場から見えてくる打開策もある。共通するのはユーザーを想う、強い気持ち。新フラッグシップはここから生まれた。

白レンズが生み出される宇都宮工場

高性能な白レンズの製造拠点になっている宇都宮工場。高度な技術力に加え、新しい2本のレンズを安定供給するため最新の内製光学調整機を導入。製造工程も一から見直した。

光学技術研究所

レンズ関連の研究開発拠点・光学技術研究所。宇都宮工場とは道路をはさんで向かい合うように建つ。距離の近さが緊密なコミュニケーションにつながった。

13. デザイン “軽量化”を直線的なシルエットで表現
新たなデザインで登場感を演出

さまざまな機能を盛り込んだゆえに形作られてきたレンズシルエットやパーツ形状。
ただ制約は多いながらも、レンズの魅力をアピールできる余地はまだ残されている。
もっと魅力を伝えたい、そしてレンズを持つ喜びと誇りを感じてもらいたい。デザインの力を発揮する時だ!

軽量化のイメージからコンセプトを立ち上げ
レンズ形状に反映させていった

デザインコンセプトについてお聞かせください。

竹内(デザイン)

400mmも600mmも、「光の集束美と操快感」という考え方に則ってデザインしました。「集束美」とは、前玉から入った光が撮像面へと集束していくイメージを可視化。その流麗なラインを意識したデザインです。もう一つの「操快感」とは私どもの造語で、撮り手がいかに撮影に集中できるか、例えば手元を見ないでも快適に操作できるか否かを表すキーワードです。その意味では、私どものデザイン指針は、人間工学に基づいた機能美に含まれる考え方ともいえるでしょう。いずれにしても、写真を撮る道具としての操作しやすさ、しかもどんな状況でもより確実に扱えるようにデザインすることを強く意識しました。ただし、デザインありきではなく、あくまで写真を撮るツールであることは大前提です。

島田(商品企画)

デザインにより、新しさをアピールしたいという部分もあります。ただ、白レンズの超望遠レンズには伝統もあり、その機能美を支持いただいている方も多くいらっしゃいます。“伝統の継承と新規性”、このバランスをどのように取るかを考える必要がありました。

竹内

今までの流れを継承しつつ、軽くなったことをいかにビジュアル化するかに焦点を当てました。具体的に行ったのが、シルエットのラインを直線的に処理すること。シャープさを打ち出すとともに、レンズ本体を「軽やかに」見せられるように意図しました。細かな点ですが、II型はレンズ鏡筒部の銘板と距離窓を2つに分けていましたが、III型は1つにまとめるデザインで、スイッチ類などと合わせた要素の縦横の線を減らし、シンプルかつモダンなイメージに仕上げました。ここはアルミの銘板から電気鋳造のプレートに変更しましたので、わずかながら軽量化にも寄与しています。

400mmのII型(左)とIII型(右)を比較
並べてみると、形状の違いや改良点も多い

回転操作する再生リングの幅は広くし、回転しないAFストップボタン周りのリングは滑り止め形状を変更した。画面切り換えロックつまみが手前に配置され、操作しやすくなっている。

機能性に重点を置きながら
白へのこだわりもあきらめない

遮熱塗料を一から開発したことによる、デザイン上の苦労もあったのでは。

竹内

“白レンズ”は、これまで培ってきた技術と伝統を象徴するものですので、徹底的に色にこだわりました。とりわけ今回は遮熱効果も追求しましたから、その効果を削いでしまっては何にもなりません。

長尾(開発リーダー)

遮熱塗料の耐久性や、剥がれにくさ、デザインが求める質感を出すために、ベース素材に対して塗料を複数層塗り重ねています。

竹内

白色の追い込み手順としては、基準となる色見本を4種類作り、さらにそれぞれ4段階、大まかに16のパターンを検討しました。II型とIII型を並べるとお分かりいただけると思いますが、II型の白色よりも明度の高い、暖色寄りの白色を採用するに至りました。この色を開発内部では「Aloof White」と呼んでいます。これは「孤高の白」という意味で、まさに唯一無二、EFの白レンズを象徴させる意図がありました。

往々にして工業デザインは「機能優先」というコンセプトに落ち着くものだ。が、しかし、III型に関しては、予定調和で完結しなかった。どちらかが主で、片方が従ではなく、機能とデザインが見事に融合を果たしたというほかはない。実物を手にしたとき、だれもがこの意味に気づくだろう。

14. アクセサリー レンズの使い勝手を左右するアクセサリーにも思いが詰まる
本当に実用的なアクセサリーは何か、自問自答しながら開発を進めた

一眼レフは、エクステンダーやスピードライトなど、アクセサリーが充実したシステムとして発展してきた。
EOS&EFシステム 30周年を迎えた今こそ原点に立ち返り、ユーザーの声をもとに見直しを図った。
豊富な種類、使い勝手、飽きの来ないシンプルさを目指した結果、美しく、機能的なアクセサリーができあがった。

アクセサリーへの要望にプロのこだわりが見える
ユーザーの声を受け止め、複数のアクセサリーを商品化

企画段階においてアクセサリーへの要望は数多くあったのでしょうか。

島田(商品企画)

アクセサリーに関しても、プロフォトグラファーの皆様やプロサポート部門と議論を交わし、「より使いやすく、機能的なアクセサリーを」とのご要望をいただいておりました。なかでもレンズケースは、以前よりヒアリングなどでご要望は頂いていましたが、ハードよりもソフトタイプの方が実用的と判断し、標準でソフトケースを用意しました。また、荷物として保管したり運搬したりするなど、外的ショックを可能な限り和らげたいときに向くハードケースは、別売オプションとしています。レンズフードについては、ユースケースにもよりますが、撮影エリアにフォトグラファーが密集し、通常のフードでは長すぎて扱いにくい場合等では、短いタイプを使いたいとの声も多く、システムとして400mm、600mmそれぞれショートフードを準備する必要があると考えました。レンズのフロントキャップは、フード逆付け収納時だけでなく、レンズ単体にも装着できるようなタイプに変更し、使い勝手を良くしてあります。

ドロップインフィルター

III型ではドロップインスクリューフィルターホルダー(左)が標準となり、ドロップインゼラチンフィルターホルダー(右)はオプションとなった。

2種類用意されたフード

通常タイプ(右)のほか、今回、新たにショートフード(左)も用意。「より取り回ししやすいものを」とのリクエストに応えた形だ。

長く利用してもらうにはどうしたらいいか
アイデア出しの強化合宿で確認し合った

竹内(デザイン)

レンズケースは、ソフトタイプといえども、使い込んだ際のシルエットが崩れにくい作りにしました。レンズ本体の開発と同様に多くの方々にヒアリングを行い、その結果を反映させて、例えばバッグの天面には名刺などを入れられる名札入れを装備。底の素材も工夫し、さらに肩掛けベルトのクッション性を高めるなど、トータルの使い勝手を意識してアクセサリー作りに取り組みました。もちろん、世界中を駆け巡るプロフォトグラファーの方々を意識し、航空機への機内持ち込みも配慮しています。このデザインに至るまでに、デザイン部門のメンバー各自がデザインスケッチを作成して持ち寄り、いわばアイデア出しの強化合宿のようなことも行っています。

長尾(開発リーダー)

レンズケースについて、例えばカメラも入ったほうがいいのではないか、いろいろなアクセサリー類を収納できるようにしたらどうかなど、関連部署と議論を重ねました。ただ、収納力を高めるとサイズ的にどんどん大きくなってしまいます。最終的にはレンズを機能的に運ぶためという、ミニマムな機能に特化させる方向でまとまりました。高品質だけどシンプル。だからこそ使いやすいケースに仕上がっていると思います。

かぶせ方の自由度が増したソフトキャップ

いわゆる巾着タイプのキャップで、フードを付けたままかぶせられるほか、レンズ単体でも装着できる。写真は、レンズ単体でかぶせた状態。取り付けやすさも考慮している。

持ち歩きに便利なソフトケース

横長のケースなども俎上に載ったが、飽きのこないシンプルなものに落ち着いた。レンズの出し入れもしやすい。400mm用、600mm用がラインナップ。

15. メッセージ 開発者から皆様へ

企画、設計からデザイン、製造に至るまで
魂を込めたレンズをぜひお試しください

商品企画 島田 正太

超望遠レンズは、極限の状況で、決定的瞬間を追い求める方々に愛用されてきたレンズです。“超望遠レンズだから撮れる”、その期待が私たちのモチベーションであり、“超望遠レンズだからこその厳しい要求”、それが私たちの技術力を成長させてくれました。“キヤノンには多くの超望遠ユーザーがいる”、それこそが私たちの代えがたい財産であると改めて実感しました。前機種(II型)の超望遠が発売されて以降、様々なご意見を頂いてきましたが、今回のIII型の商品企画はII型が発売されたときから始まっていたとも言えるかもしれません。ここに至るまでにご意見を頂いた多くのプロフォトグラファーの方々にご納得頂けるよう、高い目標を掲げてきました。そして、チーム全員が妥協することなく、よりいっそうの頂きを目指した結果、商品企画部門の想像すら超えたレンズが完成しました。

開発リーダー 長尾 裕貴

今回の製品は「お客様の機材の持ち運びから撮影までのすべての動作を快適に」を目標に掲げ、開発と生産現場の多くのメンバーがまさに一丸となって、本体からアクセサリーまで様々な部分を一新しました。「従来と変えるところ、変えないところ」にも十分配慮していますので、新製品に移行されるお客様も違和感なくスムーズに移行いただけます。撮る機材として役割を果たすのは当然のこと、上質なデザインと相まって、所有する喜びも存分に味わっていただけるはずです。最後に一つ言わせていただくなら、「EFレンズの先にあるもの、それはEFレンズ」。そんな自負を我々一人ひとりが心に秘めながら開発を続けていきます。

光学設計 齋藤 慎一郎

レンズ面の精度一つとっても、そのシビアさはIII型にして究極のレベルに達したというのが偽らざる本心です。デジタル技術による高精度な光学調整機の恩恵を始め、われわれ開発設計チーム、商品企画、そして製造部門など、各メンバーの並々ならぬ努力が結集したからこそ、光学設計が考える理想形を具現化できたと思っています。ぜひともユーザーの皆様には、どんどんご自分のフィールドに持ち出し、存分に使っていただきたいと思います。そして、忌憚のないご意見をぜひともお聞かせください。

光学設計 中原 誠

超望遠レンズの開発にあたって、ユーザーの皆様から画質に対する信頼と軽量化に対する期待の声を数多く頂きました。皆様の信頼と期待に誠意をもって応えるため、試行錯誤を重ねた結果、画質に一切妥協することなく限界まで軽量化した新光学系を生み出すことができました。今回は特に、新光学系を実現するためにメカや電気、それに生産技術といった関連部門が、力を尽くしてくださったという印象を抱いています。工場でも、新しい領域のレンズ加工にトライしていただきました。従来も各部門が密に連携をとって協力し合ってきましたが、III型は何もかもが新しいことへのチャレンジでしたので、より一層一体感が強かった気がします。

メカ設計 早川 誠

開発を始めるにあたってお客様の声を調査する中で、「重量面でヨンニッパを諦めざるを得ない」といった意見があることを知りました。そういったお客様に、重量は気にせず撮りたい被写体に合わせたベストなレンズを選んで頂きたい。そういったユーザーをイメージして開発に臨みました。今回の設計では軽量化しつつ、光学性能も妥協しないことを強く意識しました。レンズをこれまで以上に高精度に保持できる素性の良いメカ構成を目指してこれまでの超望遠の基本構成を見直し、フォーカス・ISといった主要コンポーネントも一新しました。そして最後は一部品毎に正に1gずつ削り出すようにコツコツ設計を追い込んだ結果、ここまでの軽量化が達成できました。

電気設計 平井 大輔

ベテランのユーザーの皆様ほど、ISに頼っていない方もいらっしゃる事実を受けて、「これではいけない」と心を引き締め直しました。いうまでもなく、お使いになるかどうかは皆様の自由です。われわれの使命は撮影領域を少しでも拡大できるサポートをしっかりとさせていただくこと。今回、III型と呼んではいますが、本来なら別のネーミングをつけたいほどの革新のレンズだと思います。これを機会に、今までISをお使いでなかった方々も、手ブレ補正スイッチをONにしてみてください。

電気設計 市瀬 正実

システムへの信頼性を高めること、その1つとして、最新のデジタル一眼レフカメラはいうまでもなく、5年前や10年前に発売のカメラ、初期のフィルムEOS でもこのIII型を動かせるようにすることがレンズを送り出す責任と考えます。あまりお気づきではないかもしれませんが、電気システム担当としての矜持は、そうした互換性も決してないがしろにしてはならないこと。フラッグシップとなるレンズだからこそ、足元もしっかり固める。プロやハイアマの皆様はなかなか旧型のEOSをお使いにならないかもしれませんが、長期にわたって使えるレンズですから、将来、そんなことも思い出していただければ幸いです。

製造技術 河野 剛成

キヤノンとして最高品質でお客様に応えるのが、製造部門のミッションです。本プロジェクトでは「新世代のフラッグシップを送り出すんだ」という強い気持ちで一人ひとりが現場に立っています。遮熱塗料による塗装も時間をかけて準備してきましたし、宇都宮工場史上、最難関ともいえる第3レンズの加工、内製の光学調整機や新規構造のISやEMD、電子式フォーカスリングもすべて、商品企画・設計部門の熱意に応えたもの。視線の先にはもちろん数多くのユーザーの皆様の姿があります。量産が軌道に乗っても慢心せず、真摯な対応を継続させていただきます。

デザイン 竹内 信博

新しい光学系を採用し、大幅な軽量化を果たしたIII型にとって、キヤノンの超望遠レンズの伝統を引き継ぎながら、いかにその進化をデザインで伝えるのか、製品コンセプトを踏まえつつ創り上げていく作業は正直、これまでとはまた違ったモチベーションへとつながりました。例えば、Lの証である赤ラインを入れる位置についても、メカ設計部門とコミュニケーションをとり、1mm単位で調整したほど。デザインは主観の占める要素も多い作業だけに、チーム一人ひとりのエンジニア魂に触発されて、いつも以上に拘りを持って取り組みました。