This is my life

“This” is my life. それは、私の人生そのもの。

私の大切な一枚

VOL.4

SPECIAL INETEVIEW

安部 明雄(あべ あきお)さん

ごくありふれた暮らしの風景を写したい

教育機関で職員として働きながら、写真による日々の表現の可能性を感じ、2年ほど前から「妻のごはん」を中心に写真と文章で綴ったインスタグラムを、AKIPINというペンネームで開始。今では日本だけでなく海外からも注目を集めている。そこで、このインスタグラムの舞台となっている自宅の食卓を訪問。安部さんが写真と言葉を通じて表現したいという、「暮らし」の大切さを語ってくれた。

「私の夢は“暮らし”」と語った妻の言葉がそのままテーマに「私の夢は“暮らし”」と語った妻の言葉がそのままテーマに

Q.こちらの印象深い写真を選んだ理由は?

A.この写真は、1年ほど前に何気なく撮ったものです。これを見て、ふと、10年前に妻が言った言葉を思い出しました。友人夫妻から「夢ってある?」と問いかけられ、みんなで話をしていた時、一人だけずっと黙っていた妻が最後に「私の夢は、なんていうか……“暮らし”やねん」とつぶやいたんです。“丁寧な暮らし”でも“落ち着いた暮らし”でもなく、頭に何もつかないただの“暮らし”。ぼくはその言葉にものすごく感動しました。当時結婚して3年目でしたが、これからの人生で目指したい価値観を見つけた気がしました。改めてこの写真を見返した時、「ああ、ぼくは今、“○○な”とかでもない、あの時妻が言ってた“暮らし”を撮ってるんやな、“暮らし”を何より大事に思っていて、夢が叶ってるのかもしれないな……」と、再び感動したんです。

Q.“暮らし”をテーマにするようになって、写真との付き合い方は変わりましたか?

A.写真を撮るようになったのは19歳くらい。その頃、付き合い始めた妻が一眼レフを持っていて、自分も欲しくなったんです。その時は、写真というよりは一眼レフのオシャレっぽい感じに惹かれて(笑)。実際に写真をすごく好きになったのは2年くらい前からで、それからインスタグラムを始めました。最初はなんとなく撮ってた風景写真なんかも投稿していましたね。でも、この写真を見返したことで、ぼくが撮りたいものも妻が大事にしている"暮らし"なんだと気づきました。そして、目の前に現れるいつもの営みが何よりも愛おしく、まぶしくてたまらなくなって、一つひとつを撮り逃がさないようにカメラをずーっと首から掛けるか、手元に置くようになりました。それから、よりはっきりと意識して“暮らし”の写真を投稿していくようになりました。

Q.ちなみに、2年くらい前から写真を好きになったワケは?

A.実は昔から文章を書くことが何より好きだったんです。言葉で自分の感覚や気持ちを表現することに興味があって自分なりに追求してきましたが、文章だけのブログでは限界を感じるようになりました。そんな時にインターネットで、ひと目で「この写真家」ってわかる独特の感性を発揮している人の写真を見て衝撃を受けたんです。写真って言葉がなくても、自分の中にある感覚や気持ちを表現できるものなんだなって。インスタグラムをやっていくうちに、写真にひとことだけ文章を添えるのが、ぼくのスタイルになりました。

人生で一番大事なことは台所と食卓の風景の中にある

撮影のコツは、妻の家事をジャマしないこと!撮影のコツは、妻の家事をジャマしないこと!

Q.写真を撮るうえで何かコツは?

A.実は、写真のほとんどが“妻のごはん”。妻が家事をしている風景が中心です。撮影場所は自宅の台所と食卓ばかり(笑)。ぼくは写真をちゃんと勉強したことはなくて、コツと言えるようなものは何もないんです。妻も写真のために家事を待ってくれたり、意識して盛り付けをキレイにはしていない。本当に、ただ目の前に現れる瞬間をとらえる感じです。妻は台所でスピーディに動く。妻にとってもぼくにとっても、家事がスムーズに進むことが大事ですから。台所に入って妻を撮る時、以前はよくぶつかってイヤがられましたが、最近は妻の動き方が読めてきて、上手くかわせるようになってきました(笑)。

Q.なるほど! だからライブ感があるんですね。

A.写真は、思い出を残すためのものだけではないと思うんです。何年後、何十年後かの未来にその写真を見た時、ただ過去の思い出として懐かしむだけじゃなく、妻といる日々によって感じる楽しさとか安らぎとか、少しでも今と同じように実感できたらいいなって思います。例えば妻が料理をしている途中の場面、まな板の上の切りかけのリンゴとか、鍋が火にかけられているところとか……。ほんのちょっとだけ台所を離れたような瞬間はすごくシャッターを切りたくなる。妻がいる気配だけで不思議な感動を覚えるんです。人の命は物理的にはいつか必ず消えてしまうけど、気配は写真を通していつまでも発することができるのではないか……。そう思ってます。

Q.最後に、写真を通じて奥様とのかかわり方に変化は?

A.妻への感謝の気持ちはただただ増すばかりですね。写真がなければ、妻が指先までこんなにも心を込めてごはんを作ってくれていることに気づかなかったと思います。妻は妻で、ぼくの誕生日にくれた手紙にこんなことを書いてくれました。「今まで自分の手が好きじゃなかったけど、写真に写った手には自分で知らなかった雰囲気があって、けっこう働き者で力のある手やなぁと思うようになった」と。写真は、ぼくたち夫婦の絆を深めてくれていると、今は本気で思っています。

プロフィール

安部 明雄(教育機関職員)

京都在住。奥さんの佐知子さんと3歳になる菫(すみれ)ちゃんとの3人暮らし。教育機関で職員を務める傍ら、「妻のごはん」を中心に家族との日々の暮らしを撮影。2017年からAKIPIN(@akipinnote)の名で、インスタグラムに写真と文章を投稿。心温まる暮らしの風景が人気となり、現在フォロワーは3万人以上。日本はもちろん海外からの閲覧数も増加中。特に中国では多数のウェブサイトで紹介され、人気と注目を集めている。