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「自分の目線をカメラで見つけて表情豊かなまちを写す」和歌山県那智勝浦町周辺 「自分の目線をカメラで見つけて表情豊かなまちを写す」和歌山県那智勝浦町周辺

写真家の鈴木さや香さんと一緒に、あなたの街へ伺います。
今回は、結成したばかりの紀南フィルムの
みなさんと一緒に、那智勝浦町の港を巡りました。

PHOTO&TEXT
写真家 鈴木さや香

見慣れるってなんだろう

いつも見ている景色の中に
知ってるものだけ現れること

よくよく目を開けてみる

雨の日には 風は叫び
曇りの日には 陽が照れて
雪の日には 影が努力し
晴れの日には 水が笑う

それはまるで赤ちゃんのように
一瞬が一瞬
あとにあるのは変化の連続

見慣れたまちを眺めてみる

今日と同じ日は
1000年後かもしれないよって

つんつん ひりひり ゆーらゆら

背中を誰かがつっついた
側に小さな女の子
この子が私の手をひいた

風は緑が灼けた匂い
それからマグロの潮の匂い
影は乾いて日が染みた

ここに来た日は叫んでいた
海がずっと笑っていた

たゆたう波に揺らされた
大きなゆりかごみたいだと
那智勝浦を思ってた

参加者の声 参加者の声

参加者作品 重なる自分を回顧する 参加者作品 重なる自分を回顧する
撮影者 花井清州さん 撮影者
花井清州さん

見過ごしていた景色の中に
自分と子どもの重なりを見つけた

まちの「表情」を丁寧に観察することで、波の音や草花の豊かさなど、確かにそこにあるのに感じることを忘れていた自分を思い出しました。写真を撮るようになってから、まちをしっかり見つめてきたつもりでしたが、いつしかここに暮らすことに慣れてしまって、見過ごしていた景色があったような気がします。子どもを撮ることを日課にしていますが、今回まちを巡って、たまたま幼い頃に遊んでいた場所に辿りつきました。草木の匂いや風の音、駆け上った階段。そんな景色を前に、数十年前を懐かしく感じました。ファインダーを覗くと、そこで遊んでいた幼少期の自分にわが子の姿が重なり、呼吸を止めてシャッターを押しました。この1枚の写真がいずれ、勝浦で生まれ育った娘にとって何かを感じさせるものになれば、素敵なことだと思います。これからもライフワークとして、那智勝浦町と子どもをテーマに、時代を紡いでいく写真を撮っていきたいです。

撮影者
花井清州さん
撮影者 花井清州さん
参加者作品 緊張と好奇心に初夏の追風 参加者作品 緊張と好奇心に初夏の追風
撮影者 丸山由起さん 撮影者
丸山由起さん

カメラが近づけてくれた
まちを支える人々との距離

カメラが近づけてくれた
まちを支える人々との距離

勝浦で暮らし、まちを歩いていると、外国の乗組員たちを多く目にします。日本有数のまぐろ漁船を残していく役割を、いつの頃からか担うようになった彼ら。その姿を頻繁に見かけることはあっても、実際には必要最低限のコミュニケーションしかとったことがなく、遠慮し合うような距離感を感じていました。そこで、今回の撮影会では彼らが働く漁港を舞台に、港町の空気を切りとりたいと思いました。ふだんは商店街で物を買ったり、ご飯を食べたり、お金のやりとりでの接点しかなかったのですが、カメラを持って近づくことで、今までとは違った接し方ができて、お互いの関係性も少し変わったような気がします。単焦点35mmという日常感覚に近い目線は、はにかむような距離感が出たように思えて、自分で写真を眺めてみても少し照れくさく感じました。勝浦のまちを、僕たちと一緒に支えてくれている彼らに、写真で一歩、歩み寄ることができたかなと思っています。

撮影者
丸山由起さん
撮影者 丸山由起さん
参加者作品 それぞれのものがたり。〜動いているもの。止まっているもの。今しか見えないもの。〜 参加者作品 それぞれのものがたり。〜動いているもの。止まっているもの。今しか見えないもの。〜
撮影者 岩倉昂史さん 撮影者
岩倉昂史さん

時間をかけて発見した気づきを
「今この瞬間」に残すこと

私はデザイナーという職業柄、小さな気づきを大切にしています。今回、まちの「表情」をテーマに撮影会に臨んだ時に、もしかしたら撮らなくてもいいかもしれない場面にこそ、勝浦独特の表情が隠れているのではないかと考えました。人知れず、船から流れ落ちる水。漁師や仲買人が、せっせと動く市場の片隅に放り出された軍手。競りが行なわれた後の、濡れた地面。それらは、カメラを向けこの場所に立った、今この瞬間だけしか残せない景色でした。明日には変わっているであろう勝浦の景色の断片を、写真で残していきました。EOS RPは軽くて、手や肩に負担がなく、持ち歩きながら長い時間まちを見つめるには、頼もしい存在でした。時間をかけて、さまざまな角度からまちを眺め、新たな表情を発見しては撮る。また発見しに歩く。そして、また撮る。これを繰り返しながらカメラを通して見た勝浦は、とても豊かな表情をしていました。

撮影者
岩倉昂史さん
撮影者 岩倉昂史さん
参加者作品 愛おしさの集積 参加者作品 愛おしさの集積
撮影者 千葉貴子さん 撮影者
千葉貴子さん

ファインダー越しに見つけた、
暮らしの中にある愛おしいもの

同じまちに住んでいながら、撮影会に参加して初めて、市場で働く人々や脇入・脇ノ谷地区での暮らしを知りました。私は勝浦のまちに何を感じているのだろう。そう自分に問いかけながらカメラを持ち歩くと、生活の中にある些細なものが途端に鮮やかに見えました。潰された空き缶やゴム手袋。相合傘の落書き。それらは一体誰に残され、このまちでどんな風に時を経てきたのか。現在の状況に至るまでのことを思うと、どうしようもなく愛おしくなって、思わずシャッターを切りました。私は編集の仕事をしているので、今まではすぐに誰もが理解できるような説明的な写真を撮りがちでした。でも、鈴木さや香さんの話を聞き、思い切って説明しない写真を撮った方が、まちの表情をそのまま残していくためにはいいのだと気づきました。一生懸命よく見せようとせずに、自然と心惹かれたものを写していく。今は、そんな風に暮らしの中に息づく写真を撮ろうというやる気に、満ちあふれています。

撮影者
千葉貴子さん
撮影者 千葉貴子さん

INFORMATION案内

紀南フィルム

紀南フィルム2018年に設立した総勢12名の写真部。紀南地域のまちや自然を撮影し、Instagramでは毎日写真を投稿しています。発足1年ながら、2019年1月には写真展を開催するなど精力的に活動。今回巡った那智勝浦だけではなく、近隣の串本町や新宮市などに住んでいるメンバーも。幅広い場所、幅広い世代が集まり、紀南を盛り上げたいという想いは1つに、日々魅力を発信しています。

紀南フィルムメンバー田辺市役所観光振興課 佐向大輝さん

紀南フィルムメンバー
田辺市役所観光振興課佐向大輝さん

和歌山県が実施した「フォトライター養成事業」に参加したメンバーを中心に、2018年に紀南フィルムを結成しました。地域の魅力を継続的に発信していけるような人材を育成するための事業で、プロの写真家による講座などを受けながら、チームの名前をはじめ、ロゴや活動のコンセプト、活動内容まで自分たちでゆっくりと時間をかけながらつくっていきました。現在は、毎日メンバーが交代でSNSに写真を投稿したり、写真展を開催したりなど、様々な形で紀南地域の日常を発信しています。県や市町にも協力してもらい、今回のような事業に関わらせていただくこともあり、写真という1つのツールで新しい繋がりができていくのを実感しています。これからも、自分たちらしさやチームの雰囲気を大事にしながら活動を続けていきたいです。
紀南フィルムInstagram:@kinan_film

那智勝浦周辺紀伊勝浦駅から徒歩1分。民宿「わかたけ」に隣接する「カフェハナイ」でレクチャーを受けた後は、商店街を通り抜け、勝浦漁港へ。港の正面にある「にぎわい市場」には、まぐろや地元の食材を使った料理がずらり。海沿いを歩き進んで、小さな船が集う脇入り地区へ。漁業の仕事に従事する濱口起年さんにまちの歴史を聞きました。

写真家 鈴木さや香Profile
東京造形大学卒。映像演出の葉方丹氏・写真家山岸伸氏に師事し独立。作品発表や写真文化を広める独自の活動を行う。鎌倉市観光協会のWebサイトで「かまくらかたおもい」を連載中。

ARCHIVE街の記憶

  • 「見慣れた景色に隠れている人々の“想い”を探して」島根県浜田市周辺
  • 「カメラをきっかけに人と出会いもっとまちが好きになる」福島県郡山市周辺
  • 「いつまでも在るものではなく、いつか消えゆくものだから」姫路市(野里商店街周辺)編
今回の撮影会で使用したカメラはこちらです。
EOS RP

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