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GOTO AKI & 公文健太郎 撮影同行記 EOS

GOTO AKI & 公文健太郎 撮影同行記

地球を撮る写真家・GOTO AKI。その姿を動画で撮る写真家・公文健太郎。 奇妙な撮影旅に同行したスタッフの同行記。

Day1

2人の写真家と
3つの撮影。

2人の写真家と3つの撮影。

GOTO AKIさんは、自然という言葉が似合う。「自然風景」という意味と、「自然体」という二つの意味でそう感じる。そんな“自然の人”GOTO AKIさんの撮影に同行させてもらうことになった。それだけでも特別なことなのに、今回は公文健太郎さんも、この撮影に参加する。しかも写真撮影ではなく、AKIさんの撮影風景のムービーカメラマンとしての参加だ。さて、どんな撮影旅になるのか。向かう先は、熊本・阿蘇。むき出しの地球を感じることができる場所だ。

11月上旬。熊本の葉が色づくのは、まだ早かった。だがAKIさんの目的は紅葉ではない。そもそも美しい自然風景を撮ることを、撮影の目的にしていない。〈terra〉つまり地球そのものが被写体であり、その時間の堆積と光を求めて撮影を続けている。

今回の撮影旅に台本はもちろんない。自然と向き合うありのままのAKIさんを撮ることが目的で、我々は、その行動に追随しながら撮影するだけ。至近距離で撮影されているAKIさんが、どこまで自然体で撮影に臨めたかは謎である。

撮る人を撮るという、撮影旅。これだけなら、そう珍しくないが、実は“動画を撮る公文さんを撮る”という目的もあった。EOS R5で動画を撮る公文さんの様子を、また別のスタッフが動画で撮るというもの。つまり「撮る人を撮る人を撮る」という、かなり異様な状況である。いつ誰がどこにレンズを向けるのかはわからない。そこを先読みして、映り込まないよう、各々すばやく動きながら撮る。常に緊張感に包まれた現場だった。

写真家の領域。

阿蘇五岳のひとつ杵島岳。山頂まで1時間もかからず登れるという、体力的には比較的イージーな山。であるはずなのに、傾斜がきつくなるにつれ、スタッフはみな息切れを隠せない。だが、その二人だけは違った。AKIさんのまなざしは視界に広がる阿蘇の光景に向けられている。一方の公文さんの意識はAKIさんを捉えることだけに集中していた。いくら軽量化されたとはいえ、動画用に組んだ機材を持って撮影しながらの登山。楽なはずはない。

ここには何度も訪れ、同じ場所で撮影してきたというAKIさん。「ここの景色が一番好き」と中岳の火口から立ち上る火山ガスに視線とカメラを向ける。そのまま山頂から下りることなく、日暮れまで写真を撮り続けた。

風景が刻一刻と表情を変える。「写真はよく光を捉えるという言い方をされますが、ある意味当たり前だと思ってるんです。それよりも写真に写らない、たとえばいま吹いてる風とか、匂いとか直接は写らないものをすごく意識して撮っています」。光の移ろいに動じることなく、悠然と撮り続けるAKIさんに、ものすごい熱量でカメラを向けるのは公文さん。最初は撮られていることに慣れなかったAKIさんも、すぐに公文さんを意識しないようになっていた。元々、仲のいい2人。しかも同じ写真家という気質もあるのか、お互いの“領域”は本能的に感じとっていたように思える。AKIさんにとって公文さんは、自然に吹く風のような存在だったのかもしれない。
一方の公文さんも別のスタッフに撮られているわけだが、元々、そういうことに頓着する人ではない気がする。AKIさんしか見えてない。時々レンズを交換しながら、撮影を楽しんでいるようにも見えた。

写真家としての性なのだろう。動画を回しながら「ああ、写真撮りたい!」と、なんども声を上げていた。そのたびに写真モードに切り替えて、文字通り写真家になる。「僕はやっぱり写真家なので、一番のクライマックス、いいシーンは写真で押さえたいと思っているんですよね」という言葉にすべてが集約されていると思った。
明日はどこに行くのか。AKIさんに尋ねると「明日、考えましょう」という回答だった。自然側の状況で、行き先は決まるのだ。

Day2

下を向く人と、
上を向く人。

2日目も快晴だった。AKIさんの撮影テーマから切り離すことのできない“水”を撮りに行こうとなった。そこは、田園風景が広がる湧水地。水底まで見えるほど透き通る水面に、陽の光が反射する。うれしそうなAKIさんの顔が印象的だ。
公文さんは、変わらずAKIさんを撮り続けている。が、AKIさんを撮る目的でなければ、どんなところに視点が向いていただろう。写真家によって、当然、琴線に触れる被写体は違う。面白いと思ったのは、AKIさんは下を向いて水を撮る一方で、公文さんは古びた電柱を見上げている。他にも撮りたいものはたくさんあったはずだ。

その後、別の湧水地を周り、中岳に向かった。火山ガスの量が多いと通行規制されてしまうが、運良く通行許可が出て道が開かれていた。実は初日から何度か訪れていたが、いずれも通行止めだったので一同、安堵する。

ここでもAKIさんは、じっくりと、ゆっくりと地球と向き合う。「朝夕は、地球が自転してるっていうことを自覚しやすい時間だと思うんです。山肌一つ、同じ被写体でもその時間帯に撮ると、刻一刻と表情が変わっていくので、自然とシャッターの回数が増えてきますね」。そういうことである。

Photo by Kentaro Kumon

Day3

相手側に合わせる。

3日目は雲海を期待して、夜が明ける前に宿を出発した。AKIさんに言わせれば「期待しすぎると、ほぼその通りにならない」。そして風景はそんなに甘くない。雲海は出なかったが、AKIさんが求めるところはそこではない。朝日が山の稜線から登る瞬間、別の方向を向いていたりするのだから。
光に向かってカメラを向けるAKIさんだが、公文さんは、ほぼ闇の中にいるAKIさんを捉えている。もちろんノーライト。地明かりを頼りに、AKIさんのディテールをカメラに浮かび上がらせる。つまり公文さんも、相手側に合わせて撮るということだ。

朝食後、烏帽子岳に向かった。秋の風に揺れるススキが、陽の光を受けて輝いている。狭い山道をAKIさんが進む。その後ろを公文さんのカメラが追う。そして、その後ろからスタッフのカメラが2人を捉える。山頂に着いた時にはTシャツ一枚になりたくなったが、気温は一桁で風も強い。一気に体が冷やされていく。
杵島岳から見た光景とは、また違う中岳の姿。火山ガスの量も流れ方もまるで違う。何度訪れても飽きないというAKIさんの気持ちはよくわかる。

真っ赤に焼ける空。日没は近い。麓でまだ撮影を続ける二人。ただの撮影ではない。少年同士が、互いを撮り合い、写真を見せ合っているような、何気ない光景。AKIさんが撮った写真に「おお、いいじゃないですか(笑)」と公文さん。「誰もほめてくれないから。写真家あるあるだよ(笑)」とAKIさん。二人のはしゃぎ声が夕闇に混じる。「さあ、飯食い行こうか」。烏帽子岳に夜が訪れようとしていた。

Day4(Last day)

つくづく写真家。

最終日。いよいよ中岳の火口を目指すことにした。通行許可が出ているか。それだけが心配だったが、杞憂だった。帰りの飛行機の時間があるため、時間が限られている。傾斜のきつい山を登っていく。先行するスタッフたちが途中、ルートを間違えてしまった。AKIさんも初めて登るルートだったという。時間がどんどん過ぎていくが、もはや軌道修正の時間はない。そのまま突き進むと、突然視界が開けた。火口から吹き出る火山ガスを中心に、むき出しの地球が姿を現したのだ。その景色にAKIさんも感動していたようだ。「登頂ということでいいでしょう!」とAKIさん。天気のように晴れやかな笑顔で。そして、この場所での撮影をラストに下山を始めた。

正午を過ぎた頃、空港に向かう途中の公園で昼食。山の上で食べようと、コンビニで仕入れたおにぎりやサンドイッチを芝生に広げた。みんなで旅を振り返りながら笑い合う。AKIさんと公文さんの満ち足りた表情を見ながら、2人は本当に写真が好きなんだなと感じた。
我々と別れた後、AKIさんは引き続き阿蘇での撮影を続ける。公文さんは東京を経由して違う撮影に向かう。つくづく写真家だ。

photo by GOTO AKI

EOS R5 RF100-500mm F4.5-7.1 L IS 15sec F16 ISO50
EOS R5 RF100-500mm F4.5-7.1 L IS 1/1000sec F8 ISO400
EOS R5 RF100-500mm F4.5-7.1 L IS 1/320sec F11 ISO200
EOS R5 RF28-70mm F2 L USM 1/640sec F11 ISO400
EOS R5 RF100-500mm F4.5-7.1 L IS 1/500sec F5.6 ISO400

Profile

GOTO AKI

GOTO AKI

1972年生まれ。1993~94年の世界一周の旅から今日まで56カ国を巡る。現在、日本の風景をモチーフに地球原初の姿を捉える創作活動を続ける。「terra」(写真展/キヤノンギャラリー S ・写真集/赤々舎 2019)にて、2020年日本写真協会賞新人賞受賞。EOS学園東京校講師、武蔵野美術大学非常勤講師

公文 健太郎

公文 健太郎

1981年生まれ。写真家。ルポルタージュ、ポートレートを中心に雑誌、書籍、広告で幅広く活動。同時に国内外で「人の営みがつくる風景」をテーマに作品を制作。近年は日本全国の農風景を撮影し『耕す人』と題して写真展・写真集にて発表。また現在、川や半島など土地の特徴と人の暮らしのつながりを探るシリーズを製作中。2012年『ゴマの洋品店』で日本写真協会賞新人賞。
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GOTO AKI & 公文健太郎 撮影同行記
https://personal.canon.jp/articles/interview/accompany
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https://personal.canon.jp/-/media/Project/Canon/CanonJP/Personal/articles/interview/accompany/accompany-720x444-thumb.jpg?la=ja-JP&hash=4D4A8B197E919E25AC5A1F6CFB696D97
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