創造力のゆくえ

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映画監督/アートディレクター
千原徹也

クリエイティブとは、
実験=失敗を楽しめるということ

初監督映画「アイスクリームフィーバー」。
そのPRとなる短編映像をEOS R8で制作した。
広告と映画の意外な共通点、その差異、
そして千原さんにとってのクリエイティブとは。

最先端のもの、古典的なもの

僕が昔いた広告の会社ですごく言われたのは、“不変なものを作れ”ってことでした。「10年後もすげえ!と言われるものを作るんだ」っていう風に言われて。そのために検証したりしたんですが、結構僕自身はその時代のトレンドとかをキャッチアップする方が好きで。ふだんの仕事、広告の場合は、時代の最先端なものを作ることが不変になっていくと思ってるんです。

一方で映画は、時代の先端を追うやり方ももちろんあるとは思うんだけど、追わないっていう手もあると思うんですよね。追っちゃいけない気もするんです。映画館でやるって、一見古いと感じるじゃないですか。みんな同じ場所に集まって映画館で映画を見るって、配信でたくさんの映画を見られる時代において、やっていることはすごく古典的な感じがあるんだけど、だからって形を変えていくんじゃなくて、残していくべきものだと思うんです。映画には、新しいものに変えられない何かがあって、それこそが不変だと思う。映画館で映画を見て、なんかいい気持ちになれた、みたいなことが描けているといいよね、と思って今回の映画は撮りました。

人・想い・機材のトライアングル

僕はスタジオとか、撮影の現場で、台本の通りやってほしいわけじゃない、っていうのがひとつあって。そこに集まった人たちにクリエイションを発揮してもらって、偶発的に起きることを楽しみにしてます。だからコンテもほとんど描かない。コンテ書いちゃうともう100%その通りになっちゃうから、台本だけ書いて、あとはみんなにアイディアを出してもらいながら、ああでもない、こうでもないって一緒に会話しながら作っていきました。

今回EOS R8を使って感じたのは、機材によってクリエイティブに影響を受けるようになりたいなってことです。「こういう風に撮りたいんだけど」って言ったら「じゃあこの機能で」みたいにスタッフと話しながら作っているときに、機材が自分の作品にとって影響を与えるということをちゃんと考えようって思いました。

僕は、失敗とか不正解とか、そういうものを画作りに入れていきたいんです。ピント外しておきたいときに、合っちゃうとか。それもまた偶然の面白さだと思ってて。人かカメラが刺激を受けさせてくれて、監督が次の手を考えるっていうのが一番いい機材の使い方だと思います。技術的なことだけじゃなくて、アイディアの一つになっているというか。

だから今回の映画の中で、わざとピントを外すっていうのを結構何回もやってたんですよ。でも、それがスタッフになかなか理解されなくて。「僕が袖引っ張ったらピント外して」とかやってました(笑)。

あとは僕、アングルって嫌いなんですよ(笑)。嫌い、っていうかこのアングルいいねっていうのをやりたくないというか。だから常に僕が揺れているとか、常に動いているっていうのを結構やってました。定点にしたらもちろんきれいに撮れるんだけど、それはもうやっている監督がいるから負けるんです。すばらしい先人がすでにいるから、マネしても絶対勝てない。だからやっちゃいけないし、自分のアングルを作らなきゃいけない。いわゆるこのアングルいいよねと言われているものは全部外していかないと、新しいアングルにならないと感じていました。

人的なもの・監督の想い・カメラの技術、それぞれがすごく重要で、その3つのトライアングルが合わさったときに、見たことのない映像がまた作れるんじゃないかな、と思います。

何度でも見たくなる「不変」なエモーショナルさ

僕の作った映画は今の世の中の起承転結とかそういうわかりやすいマーケットに乗っていないと思っていて。ラスト5分ネタバレ禁止!みたいな映画じゃなくて、別にネタバレしてても見たくなるっていうか。答えを知りたくて見たい映画、サスペンスとかだと一回で終わっちゃうじゃないですか。犯人がわかれば、もうそれでもう見たくなくなっちゃう。わかるまではすごく見たい気持ちにさせるんだけども。じゃあどうして僕の映画を見たいかと言われると、スケボーのシーンの音楽が流れるところが心地いいから、あそこもう1回見たいなって、そういう感覚になれる感じもあるからかな、と。エモーショナルな部分っていうのはある意味なんか不変だし、大事にしていくところなのかなと思うんですよね。それが心を動かすから。それがうまくこの今回の短編にも、ちょっとでも入っているといいなと思います。

振り返ったら、泣いていた

撮影中は本当に家族にもめちゃくちゃ協力してもらってました。僕の家でも撮っていたから、子どもたちはホテルから学校行ったりしてて。人生切り売りしてる状態でした(笑)だから奥さんとか、喜んでるのかどうなのか正直わからなかったんだけど。0号試写って言って、出演者とスタッフだけで、最初に見る試写会があって、それに奥さんも見に来てました。僕は一番後ろの席で見てて、関わったスタッフはどういう気持ちで見ているのかとか、ものすごくドキドキしちゃって。なんか心臓が飛び出るぐらい怖くて、試写室出たり入ったりしてたんですけど、終わってからプロデューサーの人が「前に出てひとこと言ってください」って言うからバーッと前の方に降りて行ったんですよ。一応みんな拍手してくれるじゃないですか。振り返ったら半分ぐらい泣いてて。何かもう、それで僕泣くつもりなかったんだけど、グッときちゃって。で、パッと見たら奥さんぐちゃぐちゃに泣いてて。それで、なんかもう、わってなって泣いちゃった。作って良かったな、って感覚になりました。

映画だからこそダイレクトに伝わる反応

映画のプロモーションが計画されてるのって公開までなんですよ。公開前にどれだけプロモーションをがんばるかっていうのがほとんどで。公開後のプロモーションってあんまり企画されていなくて。前々から、僕はその部分がけっこう心配だったんです。何か脳みその中でドップラー効果っていうか、公開後から急に空気変わるみたいな感覚があったんですよね。サイレンの音が通り過ぎたあとに変わったように聞こえる、そんな感じもあったので、公開後のプロモーションとして実験的にいろいろ準備しました。公開後に出すために、本編映像っていうのを何本か作ってたり。映画ファンの人にはこうかな、とかライト層の人にはこういう方向性かな、とか全体のマップを頭の中でイメージしていました。今回の短編もその一環ですね。映画のプロモーションは、今後もいろいろと準備してるんですが、どういう反応があって、今後の映画や創作に繋がっていくのかっていうのはすごく楽しみです。

クリエイターが「場」を循環させること

今後考えているのは、BtoC(Business to Consumerの略称。企業がモノやサービスを直接個人の一般消費者に提供すること)の場所なのにデザイン事務所があることで、何ができるのか、ということです。普通ならデザイン事務所って閉ざされた空間なんだけど、オープンな場所に事務所があることで、何が起きるのかってことをやろうとしています。その「場」を提供することで、僕が関わらなくても、入ってもいいし、何か偶発的に何か生まれる場みたいなものが、『れもんらいふ』だったらいいなっていうのは、ずっとなんとなく思ってたんです。

というのも、東京とか特に、作ったときバーっと盛り上がって、オープニングパーティーとかするんだけど、2~3年したらそのプロジェクトを終わりにして、また新しいものを作っていくって感じがあるじゃないですか。あっちに新しいものが発表されて、みんなワーッと行って。でも次の日にはこっちでも何かできている、みたいな、作って放置みたいな部分がすごくある。だから、僕がずっと、作ったものの場所にクリエーターがいるということで、放置せずに、循環させるっていうのをやってみようかなと思ったんですよ。

クリエイティブとは、
実験=失敗を楽しめるということ

基本的には、何か新しいものを作るってことなんだけど、実験って言った方が怖くない。「一回実験してみようよ」って言うことでクリエイティブを超えていって、周りの人も説得できちゃう気がするんです。「新しいものを作りましょう」って言うと、何か軽いし、よく言われてそうだし、本当にできるの、みたいなところもあるけど。でも、実験というと新しいものを作りましょうよ、より跳べる気がする。新しいものを作ろうって言うと、絶対反発する人もいるんだけども、一回実験でやってみようよっていうことだったら、まあ実験だったらいっか、っていう風になってくれるといいなっていう感じです。

そして、その言葉に甘んじて失敗してもいいよってことを理解してほしいですよね。失敗が許されない世の中なので。本当に怖いじゃないですか。失敗すると、叩かれまくる。実験イコール失敗を楽しめるということ、失敗することを恐れずに楽しんでほしいなって思います。

映画監督/アートディレクター・千原徹也

映画監督/アートディレクター
千原徹也

広告、ブランディング、CDジャケット、装丁、雑誌エディトリアル、ドラマ、CMなど、アートディレクションするジャンルは様々。その他に、テレビ東京 水ドラ25「東京デザインが生まれる日」監督、「勝手にサザンDAY」企画主催、東京応援ロゴ「KISS,TOKYO」発起人、富士吉田市×れもんらいふのコミュニティ「喫茶檸檬」運営など、活動は多岐に渡る。2023年7月、映画「アイスクリームフィーバー」を公開。