証言者 002 野村恵子/フォトグラファー 証言者 002 野村恵子/フォトグラファー

ポートレートは、
モデルとカメラマンの
関係性が写る。

空がくすぶっていた。表情のある曇天だが、
陽光は降り注ぎそうもない。
海岸に向かう野村恵子さんは、
隣で緊張を隠せない少女に歩調を合わせている。
ポートレート撮影はこの日が初めてという。
独特の色彩感覚で、
力強い写真を生み出す野村さん。
これまで出版してきた写真集は海外からの
オーダーも多く、入手困難な作品ばかりだ。
野村さんが撮る写真は、
なぜ見る人を惹きつけるのだろうか。
ポートレート撮影の現場で
その一端を垣間見ることができた。
「ふだんの作品撮りでは、コミュニケーションが
取りやすい
35mmか50mmのレンズを使います。
モデルとの信頼関係は
何より大事なことなので
『この人だったら任せられる』と
思われるように意識しています」。

適度にモデルとの距離を保つ
中望遠レンズ

いきなりカメラを構えず、少女に寄り添いながら話を聞く姿が印象的だった。「関係性をつくる時は基本聞き役に徹します。私自身が、そのモデルに興味を持たないと。もちろん嫌いにならないように(笑)。写真は残るから嫌いになっちゃうと、後で見るのも嫌になっちゃう」と、笑いながらモデルとの関係性づくりの極意を話してくれた。

最初は50mmのレンズで比較的近い距離でシャッターを切っていた。撮影中も少女との会話は続いている。しばらくすると、レンズを135mmに付け替えた。実は中望遠レンズは野村さん自身、ほとんど使わない焦点距離だという。「女の子がすごく緊張していたので。(撮られる仕事が)初めてだから。短いレンズだと、圧がかかるんでしょうね。目の前でカメラを構えられてパッと撮られるっていうのが。こういう時、モデルとの距離を適度に保てる中望遠はいいかもしれません」。慣れてきたら、焦点距離を短くして徐々に距離を詰めていけばいい。このレンズを使ってみて、そういう使い方もあるなという発見になったという。

明るい中望遠レンズは、背景を大きくぼかすという効果だけでなく、モデルとの距離感を適度に保てるというメリットもある。徐々に自分の距離に近づけていくためのプロセスという使い方だ。

RF135mm F1.8 L IS USMについて
RF135mm F1.8 L IS USMについて
ヌケがすごくいいし、ボケもキレイ。何より距離感が取れますよね。少し離れて撮れるのでモデルが安心してくれました。

写真は光
複雑な光ほど面白い

不機嫌な空を野村さんは時々見上げていた。屋外のポートレート撮影では、光を見ることが一番大事だという。「光頼み。写真は光ですよ。私が狙う光は、逆光や斜光、複雑な光ですね。光が割れていたり、陰影があるところを探します。私が動くか、モデルに動いてもらうかは状況次第。そういう光もない状況ならば、色を探します。グリーンとか花とか」。

では屋内ではどうだろう。「おうちの中はプライベートだから、どう遊ぶかしかないですね。光はいくらでもつくれるし。誰も見てないんだったら何でもできちゃいますよね(笑)」。

RF50mm F1.2 L USMについて
RF50mm F1.2 L USMについて
逆光でもフレアやゴーストが出ないのはすごいなって。50mmって自分の足を使えば、望遠にもなるし、寄れるし、なんでもできるレンズですよね。

背景をぼかし過ぎない
ポートレート

野村さんは、絞りを開けて撮ることは少ないという。「私、あまり顔だけに寄らないんですよ。35mmとか50mmのレンズを使って、背景とか体や手が入っていた方が面白いと思っているので。写真にちゃんと状況が写っていることが大事。だから正直、作品だと背景はほとんどぼかさないんです」。自身の作品では、背景の状況を入れて、見る人の想像力をかきたてたいという思いがある。背景が主張しすぎないようにしつつも、わずかにぼかし、しっかり情報量があるぐらいのほうが、写真としては面白いという。また「写真は人に見てもらうものだから、第三者が見て、その外側にある物語を読みたくなるようなポートレートがいいと思います」とも話す。写っているモデルがどういう人で、どんなバックボーンを持っているのか。そういった物語を感じさせること。いわば「内なるポートレートですね」。そういうことを意識しながら撮る。だから背景へのこだわりは強いのだ。

写真家同士でも、背景をぼかす・ぼかさない問題について話し合うことがあるという。さまざまな意見があるようだが、ぼかすことがクセになってしまうと、ぼかさなくていい時にもぼかしてしまう。「『ぼかし癖がついちゃうよね』っていう話はしますね」。

EOSの色について
EOSの色について
私、キヤノンしか使ってないからわからないですけど、仕事の現場ではキヤノンの色だねっていわれます。鮮やかだからかな。作品にしていくと私の色になっていくんですけど、肌の再現性は違和感ないように感じます。

表面的ではない人の芯が写る写真

潮騒の浜辺に人の気配はない。野村さんと少女は波打ち際で2人だけの時間を楽しんでいるようだった。少女は緊張から解放され、その表情は明らかに変化していた。野村さんとの関係性が前進したのだろう。

「前から撮ってみたいと思っていた子なので、楽しかったです。最初は緊張して明らかに硬い顔をしていたけど、しょうがないなと思いました。時間をかけるしかないなって。だから慣れてもらうために、わざといっぱい撮るんです。使えないと思っていても」。撮影で子どもの気持ちを乗せるのは難しいという。だからこそ時間をかけてじっくりと、心を解きほぐし開いてもらう。そこには野村さんのポートレートへの思いがある。

「ポートレートは、モデルとカメラマンの関係性が写ると思います。そして表面的じゃない、その人の芯みたいなものが写った方がいい。内面的な美しさというのかな。モデルの年齢は若くなくてもいいんですよ」。

ポートレートは不思議ともいう。同じモデルを一斉にいろんな写真家で撮っても、ぜんぜん違う写真になるからだ。「可愛く撮る人は、可愛く撮る。でも私は割と強さがある写真が好き。インパクトの強い、ポートレートとして強い写真っていうのかな。被写体が可愛い子でも強く撮りたいですね」。

RF28-70mm F2 L USMについて RF28-70mm F2 L USMについて
RF28-70mm F2 L USMについて
撮影に集中しちゃうと、ついこのレンズばかり。私に必要な焦点距離が一本で使えてしまうので、本気になるとこれしか使わないかもしれない(笑)。

いい写真は輝いている

ポートレート撮影の魅力とはなんだろう。「私の場合、同じ人物を撮り続けることで、その人自身が変化していくことが面白いと思う。その時その時でモデルとの関係も変わっているし。だから私の作品撮りは、単発で終わることが少ないんです。かれこれ20年ほど撮ってる人も3人くらいいますよ。今日の女の子もあと10年したらすごく変わってるでしょう。単発で終わらせないで、時間をかけて何回か撮りたいですよね。撮った写真に、2人の関係性が写るといいな」。

写真のセレクトについて聞いてみた。野村さんが考える、セレクトの基準はなんなのか。「いい写真って、やっぱり輝いてるんですよね。あ、来たっ! これしかない! っていう。そういう写真が数枚あるんです。そして『この中から選ぶとしたらどれが好き?』って自分に聞きます。そして1位を決めちゃってから、2位、3位を決めていく感じですかね」。過去の写真を振り返った時でも、当時選ばなかったものはやっぱり選ばないという。「風景やスナップだと選ぶことはありますけど、人物はこれって思ったら変わらないんですよね」。どんなに時間が経過しても、作品の輝きが失せることはない。それが野村恵子さんの写真力なのかもしれない。

RF85mm F1.2 L USMについて
切り抜き方がスパンとハマれば、すごいシンプルでかっこいいポートレートが撮れる焦点距離ですね。難しいんですけど使えるとカッコいいですよ。このレンズはボケもすごくキレイ。
野村恵子
野村恵子/フォトグラファー
兵庫県神戸市生まれ。写真専門学校卒業後、渡米。LA, Santa Fe にて写真を学ぶ。1999年に沖縄をテーマにした写真集「DEEP SOUTH」を発表。日本写真協会新人賞、東川賞新人作家賞を受賞。女優を撮り下ろした写真集に「月刊満島ひかり」など、雑誌を含め出版物にも多く関わっている。
2019年、写真集「Otari-Pristine Peaks 山霊の庭」で林忠彦写真賞を受賞。国内外で個展、グループ展も多数開催。現在、沖縄を拠点に活動中。

高画質を追求したEOSの