
高木こずえが2012年に制作した、巨大コラージュ作品 「琵琶島」。その作品を、高木自身があらためて見つめ直し、一部を切り出したり、作品の中の世界を再現したりしながら、約300点もの新たな作品が生まれた。今回は、その作品を展示する写真展「琵琶島」より、9点の作品を紹介する。
写真は、シャッターを切った瞬間に目の前の現実を写し撮り、それを自分の手中に収めたかのような気持ちにさせます。しかし、私は、その写真の魅力に違和感を覚えることがあるのです。手を触れてもいないのに、自分のものにできるわけがない。もっと直に触れてみたい。私が写真をコラージュするのは、そうした違和感を解消するためかもしれません。
これまでにいくつもの作品を制作してきましたが、どれもはじめから完成形をイメージしていたわけではありません。最初は、何も考えずにスナップを撮り、その写真を見ているうちにイメージが湧き、コラージュしたり、加工したりしながら、何かの形に収まっていく。
今回の写真展の元である、2012年に制作した「琵琶島」も同様です。この作品は縦12m横3.5mという巨大なコラージュ作品ですが、スナップを撮っている段階では漠然としたイメージしかなく、それが鮮明になったのは、コラージュをはじめてからでした。
長野県にある琵琶島遺跡へ撮影に向かったとき、「発掘作業が終わったら、ここを埋めて道路にする」という話を聞きました。そのとき、今見ている風景がやがて地面の下に埋もれるように、世界はあらゆるものが堆積した上に成り立っていると気付いたのです。私たちが見ている世界は、さまざまなものが堆積したその表面に反射する光なのではないか。この「堆積と反射」という言葉が、作品のイメージを明確にし、私は作品に「琵琶島」と名付けました。
今回の写真展で発表するのは、「琵琶島」を見つめなおした末に生まれた、約300点の作品です。「琵琶島」が完成したとき、「堆積と反射」というイメージで自分がつくったにも関わらず、「これは何なんだろう」という疑問が芽生えたのです。その疑問と向き合うために、私は、コラージュの中の一部分を切り出したり、自分が気になった部分を再現したりしました。
写真1
例えば、写真1の作品は、「琵琶島」のコラージュの中に、人の横顔の写真とブルーシートの上で干されるミカンの皮の写真が上下に並んだ箇所が気になったことから生まれました。ミカンの皮がぶら下がったような衣装を自ら作り、青い布を背景にして、コラージュの一部分を一枚の写真として再現したのです。
このような作業を、私は“発掘”と呼んでいるのですが、それも、琵琶島遺跡で発掘作業を手伝った経験に基づいています。発掘では、出土したものから、当時の人の暮らしや時代を想像しますが、同じように、自分の無意識の中から生まれた世界を、手を動かして発掘することで、何に疑問や違和感を覚えたのかをより深く理解できると思ったのです。
私の、作品をつくり続けるエネルギーは「分からないものを知りたい」という欲求です。今回の作品も、自分の作品に芽生えた疑問がすべての始まりで、写真をコラージュするのも、作品の一部を再現するのも、「知りたい」という欲求を満たすために必要な行程なのです。でも、その答えを見つけることが、作品をつくる目的ではありません。私が作品に求めているもの。それは「感動」です。何か分からないものを抱えたまま作品を制作しながら、出来上がった一枚に自分が驚き、感動する。そのとき、知りたかった答えが見つからなくても、完成した一枚に感動できればそれで十分なのです。
今もまだ、「琵琶島」を発掘する作業を続けていますが、これがいつ、どのような形で終わるのか、私にも分かりません。また、この先、自分がどんな作品を生み出したいのかも、まったく想像できません。しかし、一つだけ言えるのは、何かを知りたいという欲求にかられて作品をつくり、そこで生まれたものに自分自身で感動するというスタンスは、これからも変わらないということです。
1985年、長野県に生まれる。
2007年、東京工芸大学芸術学部写真学科卒業後、長野県にて制作活動を行う。
府中市美術館、東京
東京工芸大学、東京
amana photo collection、東京
川崎市市民ミュージアム、神奈川
諏訪市美術館、長野
長野県信濃美術館、長野
[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「moments」2014年8月号に掲載されたものです。
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