
EOS 5D Mark III・EF16-35mm F2.8L II USM・F10・0.8 秒・ISO800
EOS 5D Mark III・EF16-35mm F2.8L II USM・F10・0.8 秒・ISO800
街を歩き、その場所に流れる地霊【The spirit of the place】を感じながら、さまざまな都市の表情を切り撮ってきた、佐藤信太郎。今回は、東京スカイツリーを中心に、その周囲に広がる街の様子や、そこで繰り広げられる人の営みを写した、『東京|天空樹』の作品を紹介する。
写真専門学校に通っていたころ、私は、自分の気持ちを風景に投影した心象写真を撮っていました。しかし、当時教わっていた先生から、「写真を自分の感情を表す手段として使うだけではいけない」と言われ、自分の気持ちとは切り離し、都市を客観的に撮ることをはじめました。以来、それが私のテーマとなり、夜の繁華街を写した『夜光』、東京の非常階段からの眺めを切り撮った『非常階段東京』、今回掲載する『東京|天空樹』という作品が生まれました。
EOS 5D Mark III・EF70-200mm F4L USM・F11・3.2 秒・ISO320
『東京|天空樹』の作品を撮りはじめたのは、2008年の12月ごろです。東京スカイツリーの建設予定地を撮影してほしいという依頼を受けたとき、生まれ育った東京の下町が劇的に変わることに興味を抱き、撮り続けてみようと考えました。
当初は、ある場所から定点観測のように撮り続けようと思っていたのですが、想像を超える大きさに、その計画はすぐに破綻しました。そして、デジタルの利点を生かした撮影法に切り替えたのです。
EOS 5D Mark II・EF70-200mm F4L USM・F10・3.2 秒・ISO400
EOS 5D Mark II・EF16-35mm F2.8L II USM・F10・5 秒・ISO250
EOS 5D Mark II・EF28mm F2.8・F9・6 秒・ISO250
デジタルは、非常に小さいものまで鮮明に写し撮れるだけでなく、撮影した画像をつなぎ合わせれば、フレームを自由に作れます。このシリーズからはじめたパノラマ写真も、デジタルだからこそ使える手法であり、急激に大きくなり続ける東京スカイツリーに合わせ、フレームの横幅も自在に伸ばすことができたのです。さらに、この手法は、複数の写真をつなぎ合わせているため、その細部のディテールは鮮明なまま。
私がよいと思える写真は、何度見ても飽きのこない写真です。『東京|天空樹』では、それまでは入れていなかった人を写し込みましたが、たくさん写る人をそれぞれ細かく見れば、その都度新しい発見があり、撮った自分でさえ写真を見て初めて気付くこともあります。
また、複数の写真をつなぎ合わせると、一枚の写真の中に複数の時間が存在していることになります。つまり、現実では見られない光景になるのですが、私は、むしろこの光景こそ、リアリティーがあると感じるのです。人が目の前の風景を眺めるとき、一点だけを注視せず、ある程度の時間をかけて、いろいろなところに目を巡らすはずです。それを写真で再現するには、たった一枚で一瞬を切り撮るよりも、さまざまな瞬間をつなぎ合わせた一枚の方が、より近いのではないかと思うのです。
EOS 5D Mark II・EF70-200mm F4L USM・F11・1/320 秒・ISO250
都市の写真を撮るようになり、私は、それまで行ったことのない場所へ赴くことで、見ているようで見ていなかった都市の表情を、いくつも知ることができました。この日本には、まだまだ私の知らない街の顔が潜んでいます。それがなくならない限り、私は、ずっとさまざまな街の表情を追い続けます。
[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「moments」2014年11月号に掲載されたものです。
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