作家インタビュー

野口 里佳

野口 里佳

Rika Noguchi

第108回展「夜の星へ」

夜の星へ

夜の星へ

ベルリンの夜の街を彩る、街灯の明かりや車のライト、ビルの照明。 野口里佳は、いつも乗っているバスの窓から、この星を照らす、さまざまな光の風景をとらえた。 今回は、そうして野口が写した作品が並ぶ写真展『夜の星へ』の中から、その一部を紹介する。

いろんな色の光の風景

自分にしか見えないことを写真でとらえる

私が写真と出合ったのは、大学の写真学科に入ってからのことです。ただ、そこを受けた理由は、芸術学部の中で筆記試験のみで入れるのがたまたま写真学科というだけで、それほど写真に強い思い入れがあったわけではありませんでした。入学した当初は何かを表現したいという意識もあまりなく、それでも写真は面白いと感じながら毎日を過ごしていました。

20歳のとき、ある日突然、私の中で「作品が撮れた」という実感が芽生えました。それは、消防署のレスキュー隊を撮影した「城ヲ」という作品なのですが、そのとき初めて自分の表現が面白いと感じ、同時に、自分にしかできないこと、自分にしか見えないことが、まだまだたくさんあると思ったのです。それ以来、私はずっとその思いを抱きながら、作品を撮り続けています。

夜の星へ

今回の写真展で発表する「夜の星へ」も、自分にしか見えないことがあるという思いから生まれたシリーズです。暗室から自宅に帰る際にいつも乗っているバスから撮ったものですが、普段から、窓の外に流れる景色を見ては、身の回りの日常の中にも違う世界への入り口があるのではないかと感じていました。そして、ある日の帰り道、写真を撮ろうとカメラを窓に近づけると、ファインダーの中にいろんな色の光の風景が次から次へと飛び込んできたのです。どの瞬間もシャッターチャンスに思えた私は、夢中になってシャッターを切り続けていました。

  • 夜の星へ
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気が付くと、バスを降りる前に1本のフィルムを撮り終えていました。そのフィルムからコンタクトシートを作ったとき、色の美しさに目を奪われ、この1本のフィルムから作品を作ってみたいという思いが浮かんだのです。

あえて選ばず、向こうから来る光を受け止める

「夜の星へ」は、過去の作品とは大きく異なる点があります。それは、あえて「選ばない」ということをした点です。写真にとって選ぶことは非常に重要です。しかし、一方で、たとえ選ばなくても、シャッターを切れば何かしら写ります。「写る」とはどういうことだろう。その疑問を、選ばずに撮ることで考えたかったのです。

ファインダーを覗き、次から次へと来る光の風景に反応してシャッターを切る。向こうから来た光を、そのまますべて受け止める感覚で写真に収める。そうして撮った写真に何が「写る」のだろうか。そんなことを考えながら作った作品です。そして、作品を並べると、かすかながらその写真の秘密が垣間見えたような気もします。

  • 夜の星へ
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私は、写真と出合えたことで、豊かな生き方ができていると感じています。今回の作品は日常の中で生まれたものですが、写真を撮るためにどこかに行くことも多くあります。撮影は大変なことも多いけれど、自分から出かけて行くことによって新たなことを知ることができ、自分の生きている世界が変わってきました。これからも私は、自分には見えているのに、ほかの人が気づいていないような出来事を写真に撮り続けたいと思っています。そして、その作品を通し、この世界はもっと豊かであるということを感じていただけたらと願っています。

夜の星へ
夜の星へ

野口 里佳「夜の星へ」

2015.12.17 - 2016.2.8

展示情報

野口 里佳

野口 里佳(のぐち りか)

1971年生まれ。埼玉県出身。
1992年より写真作品の制作をはじめ、以来国内外で展覧会を中心に活動している。1996年写真新世紀年間グランプリを受賞。2002年第52回芸術選奨文部大臣新人賞を受賞。2014年第30回東川町国内作家賞を受賞。
日本での主な個展に「予感 」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、香川、2001)、「飛ぶ夢を見た」(原美術館、東京、2004)、「光は未来に届く」(IZU PHOTO MUSEUM、静岡、2011−2012)などがある。国立近代美術館(東京)、国立国際美術館(大阪)、グッゲンハイム美術館(ニューヨーク)、ポンピドゥセンター(パリ)などに作品が収蔵されている。
2004年よりベルリン在住。

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「CANON PHOTO CIRCLE」2016年1月号に掲載されたものです。

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