作家インタビュー

操上 和美

操上 和美

Kazumi Kurigami

第114回展「ロンサム・デイ・ブルース」

ロンサム・デイ・ブルース

EOS 5Ds・EF24-105㎜ F4L IS USM・F6.3・1/200秒・ISO400

ロンサム・デイ・ブルース

凄まじい勢いで変化し動き続ける都市、渋谷。2016年夏、操上和美は、休日に渋谷に集まる多くの人たちに混ざり、カメラを片手に当てもなくさまよい続けた。そこで撮られた一枚一枚には、操上が五感で何かを感じ取った刹那が写し出されている。今回は、写真展『Lonesome Day Blues』の中から、その一部を紹介する。

被写体を通してさまざまな発見を楽しむ

写真の面白さは、被写体を通してさまざまな発見ができることです。写真家は常に被写体を探し求め、出会いを写し止めていますが、そういった発見のほかにも、撮ったときと現像したときのギャップから生まれる驚きや気付き、現像した写真を改めて見返して初めて理解することなど、多くのものを発見することができます。さらに、無意識に選んだ被写体から、自分の中に埋没している未知数の才能を知ることも可能なのです。

ロンサム・デイ・ブルース

EOS 5Ds・EF24-105㎜ F4L IS USM・F8・1/500秒・ISO400

写真をはじめるために学校に通い、半年くらいが過ぎたころ、そうした写真の面白さに気付きました。学校では、毎週撮ってきた写真を提出する課題があったのですが、私は毎週異なるテーマで撮影していました。中には自分の好きなテーマをひたすら追い続けている人もいましたが、私は一つのものを掘り下げるのではなく、その時々で違ったテーマを探し、ターゲットを定めなかったのです。ただ、そうしてあらゆるものに目を向けることで、今まで知らなかった自分自身を知ることになり、その結果、自分の世界がどんどん広がっていったと感じています。

自分も含め、何かを発見するという写真の面白さ。それは何十年と写真を続けていても失われることはありません。今回掲載した作品を撮影しているときも、さまざまな驚きや発見がありました。

  • ロンサム・デイ・ブルース

    EOS 5Ds・EF24-105㎜ F4L IS USM・F8・1/500秒・ISO400

  • ロンサム・デイ・ブルース

    EOS 5Ds・EF24-105㎜ F4L IS USM・F5.6・1/5000秒・ISO400

そもそも今回渋谷を撮ると決めたのは、普段よく行く場所でありながら、凄まじい勢いで変化し続け、動き続ける都市というイメージのある渋谷で、どのような発見があるか興味があったからです。そして、ひと夏の間、毎週休日になると渋谷に向かい、カメラを携え歩き回っていました。

その中で気付いたことは、まず外国人がとても多いということ。街を歩きながら私がシャッターを切りたいと思う瞬間の多くは、街ゆく人の存在感が感じられるときです。街に埋没することなく、何かが光っている。ファッションなのか、仕草なのか、色気なのか、それは人によってまちまちですが、何かしら自己主張が感じられる人に目が行くのです。そして、そうした人たちの中には、たくさんの外国人が含まれていました。

また、渋谷を歩きながら少し奇妙に感じたのが、みんなスマートフォンを見て、下を向きながら歩いている光景です。ただ、それは渋谷だけでなく、新宿や池袋、銀座でも同じでしょう。ひょっとしたら、多くの人が下を向きながら歩く光景は、現代を象徴する都市の姿なのかもしれません。

偶然の出会いを求め街をさまよい歩く

休日になると渋谷に向かい、街に集まる多くの人に混ざりながらさまよい続けた、この夏。特にターゲットを決めず、五感をすべてオープンにして、何かに反射するようにシャッターを切り続けました。それはある意味写真家の本能を研ぎ澄ますようなトレーニングでもあり、孤独な戦いのように感じたこともあります。そうした写真家の孤独な作業を表す意味で、『Lonesome Day Blues』というタイトルを付けました。

  • ロンサム・デイ・ブルース

    EOS5Ds・EF24-105㎜ F4L IS USM・F5.6・1/1600秒・ISO400

  • ロンサム・デイ・ブルース

    EOS-1D X・EF16-35㎜ F2.8L II USM・F8・1/125秒・ISO400

しかし、孤独な戦いであっても、撮れた写真はすべて人や街の光景との出会いの結晶です。街をさまよう中で、偶然私の琴線に触れる人や光景とすれ違う。それは、どこか恋に落ちる瞬間に似ているのかもしれません。頭ではなく、感覚が反応した瞬間にシャッターを切り、それが写真として記録される。ターゲットを決めていないとはいえ、街をさまようときは常に出会いを期待しています。そして、時に予想もしていなかった瞬間と遭遇します。そうして撮られた今回の作品群には、孤独な写真家が、渋谷という街で、このひと夏を通して出会ったすべての瞬間が写し出されています。

ロンサム・デイ・ブルース

操上 和美「ロンサム・デイ・ブルース」

2016.11.25 - 2017.1.16

展示情報

操上 和美

操上 和美(くりがみ かずみ)

1936年 北海道富良野生まれ。1961年 東京綜合写真専門学校卒業。現在ピラミッドフィルム名誉会長、およびキャメル代表。
http://www.kurigami.net

写真集
『Alternates』『泳ぐ人』『陽と骨』『Kazumi Kurigami Photographs-crush』
『Possession 首藤康之』『Northern』『Diary1970-2005』『陽と骨ii』『Portrait』
『SelfPortrait』『Dedicated』など

受賞歴
毎日デザイン賞、ADC会員最高賞、講談社出版文化賞、NY ADC賞など

個展
「陽と骨」(パルコギャラリー)、「Kazumi Kurigami Photographs-crush」
(原美術館)、「Diary」(ライカ銀座店サロン)、「操上和美 時のポートレイト
ノスクルジックな存在になりかけた時間。」(東京都写真美術館)、「荒木経惟×操上和美 うつせみの鏡 時空の舟 ‐我・夢・影‐」(奈良 ‐ 万葉文化館)、「Portrait」(Gallery 916)、「操上和美×コシノヒロコ」(Kh ギャラリー銀座)、「操上和美写真展 Dedicated」(Art Space Am)など

映画
2008年『ゼラチンシルバーLOVE』監督作品

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「CANON PHOTO CIRCLE」2016年12月号に掲載されたものです。

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