作家インタビュー

藤井 保

藤井 保

Tamotsu Fujii

第125回展「私が見たもの、出会った人」

私が見たもの、出会った人

写真1

私が見たもの、出会った人

広告写真、自身の作品、映像と、幅広いジャンルで活躍している写真家、藤井保。
今回は、40年を超える自身の活動を俯瞰する写真展『私が見たもの、出会った人』の中からその一部を紹介する。

眼前の現象ではなく 背後に潜むものを撮る

今回の写真展は、40年間の写真家人生を振り返り、私が見たもの、出会った人、その記憶をまとめたものです。振り返りながら、これまでの仕事や、仕事で出会った人を思い出し、人とのつながりの中で仕事をしてきたことを実感しています。

広告の仕事は、クライアントをはじめ、広告代理店、アートディレクター、タレントなど大勢の人がいて、その中で私は写真を撮っています。しかし、撮るという行為において、自身の作品を撮るときと気持ちに変わりはありません。どんなに大勢の人がいても、いい写真が撮れるときには、最後一人の感覚になっています。

撮影するときに大事にしているのは、説明的にしない、ストーリーを固定化しないということ。写真を見た人がいろいろなことを想像しながら完成する表現があっていいと思うのです。文学の世界で、よく行間を読むといいますが、その感覚に近いでしょう。被写体は、風景、人、物と多岐に渡りますが、見えている現象だけを記録するのではなく、被写体の中にあるもの、光や背後に潜んでいるものを写し撮ろうと意識しています。

  • 私が見たもの、出会った人

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もちろん、風景も、自然現象や季節、一日の時間帯によって表情はまったく違いますから、そのどこを見るかが重要です。私は、朝と夕方のドラマチックに変わっていく光の中で撮るのが好きです。朝、暗いうちにセッティングしながら、明るくなるとどんな雲が出て、風がどう吹いていくのかとなんとなく想像して、撮りたい写真のイメージが出来上がります。しかし、写真の面白さは、自分が想像した以上の現実が、目の前に現れることです。そして、同じ場所に何度行っても、いろんな人が撮っても、その日、撮った写真と同じ一枚は決して撮れない。そこが写真の面白いところだと思います。

写真1の写真は、1月の札幌で、イサム・ノグチのコンセプトを元に造成されたモエレ沼公園で撮影したものです。富士山や、あるいは古代のピラミッドを連想させる、シンメトリーの山。そして、真っ白な雪、静かに流れる空の雲。それらを意識し、朝の光が差す前の微妙な時間に、淡く美しいブルーの色調で写し撮りました。

私が見たもの、出会った人

写真家は風景を作ることはできません。けれど、人が作ったものと自然界の接点を見つめ、その姿と在り方を問うことはできます。そこを見極めながらシャッターを切ることが、写真家の大事な仕事だと思っています。

表現者には、ブラックボックスが必要

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私は、いまだにフィルムと印画紙を大切にしています。スピードや経済性はデジタルの方が優れていますが、「暗室」という言葉があるように、フィルムや印画紙には、表現者に必要なブラックボックスの部分があるからです。一人で暗室に入り、陰影や質感に神経を注ぎつつ現像し、初めてプリントを見る。その仕組みは、私にとって精神的にもとても大事なことです。デジタルの撮影では現場で最終型に近いものをモニターで見ることができ、その場で決定することができます。同時に、ブラックボックスの部分がどんどん消えているのです。プロフェッショナルがディテールの違いまで判断し、見切っていくことが表現の仕事には必要だと考えています。

現代では、表現のオリジナリティを問われることが多くなっていますが、膨大な情報に囲まれている中で、自分がいいと感じたものは必ず心のどこかに残ります。私も昔、海外の写真家の作品を雑誌で見て学んでいた時期もありましたが、自分が日本人であることのアイデンティティを感じたときから、その考えが変わりました。ヨーロッパの生活感覚が、自分の体質の中にあるはずがない。写真から影響を受けるより、文学や絵画など、違うジャンルの芸術作品から啓示を受けた方が、オリジナリティが生まれるのではないかと気付き、意識的に写真は見ないようにしたのです。

広告の世界はいつも斬新な表現を求めています。しかし、私は今までにない新しいことをやろうと思ったことはありません。同じことをしようと意識しても、できないと感じているからです。天候によって、スタジオの空気も変わります。自分の体の細胞も日々、入れ替わり、自分自身も昨日と同じではありません。あえて新しいことをしようと身構えなくても、人は自然に変わっていくのです。時代の空気を吸いながら生きることで新しい自分になり、それが新しい表現につながると思っています。

藤井 保「私が見たもの、出会った人」

藤井 保「私が見たもの、出会った人」

2018.5.31 - 2018.7.7

展示情報

藤井 保

藤井 保 (ふじい たもつ)

1949年生まれ。
●おもな写真集
「ESUMI」「ニライカナイ」「カムイミンタラ」「AKARI」(すべてリトルモア)、深澤直人氏との共著「THE OUTLINE」(ハースト婦人画報社)、「藤井保の仕事と周辺」(六耀社)など。
●おもな写真展
「月下海地空」(チューリッヒ)、「タイムトンネル・藤井保・旅する写真」「カムイミンタラ」「THE OUTLINE」「BIRD SONG」(東京)、「MEDIUM」(台北)など。
毎日デザイン賞、朝日広告賞、ADC賞他多数。

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「CANON PHOTO CIRCLE」2018年6月号に掲載されたものです。

[ 著作権について ]
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