作家インタビュー

安珠

安珠

Anjyu

第126回展「ビューティフル トゥモロウ ~少年少女の世界~」

ビューティフル トゥモロウ ~少年少女の世界~

2018年『蝶の囁き』より model:Emily

ビューティフル トゥモロウ ~少年少女の世界~

写真家、安珠氏にとって写真を撮る上での重要なテーマの一つ、 「少年少女」。そのテーマのもと、写真を撮り始めたころに制作したシリーズと、写真家としての経験を積みあらためて撮影した新作で構成される写真展『ビューティフル トゥモロウ 少年少女の世界』。 少年少女だから持ち得る、柔らかな心―そこに安珠氏の写真の原点を垣間見る。

一瞬を永遠にする 写真が持つ力

この世に永遠はない―それを知ったのは、大病をして死を受け入れた10歳のときでした。明日自分が消えてしまっても、窓の外は何も変わらず、今日と同じ時間が流れている。病室から窓の外を眺め、命の儚さを感じていました。奇跡的に回復し、今度は新たな疑問が芽生えます。「人はいつか死ぬのに、なんで生まれるんだろう」。もちろん、その答えは見つかるはずもなく、疑問を抱えたまま大人になっていきました。

  • ビューティフル トゥモロウ ~少年少女の世界~

    2018年『Big kids』より

  • ビューティフル トゥモロウ ~少年少女の世界~

    写真1
    2018年『distance』よりHomage to Bernard Faucon

初めてモデルの仕事をしたとき、インスタントカメラで撮られた写真を渡され、写真の力に気付きました。手のひらに乗せられた小さな写真は、自分の命よりも長く生きるのです。坂本龍馬の写真しかり、自分が消えてしまっても写真は一瞬を永遠にするんだと思いました。そうした写真の力をもっと知りたくて、モデルの仕事を続けることにしました。

写真に興味を持った私は、すぐにキヤノンのAE-1を買い、心惹かれるものを撮っていました。暗室も作り、撮影しては現像やプリントに明け暮れていたのです。写真を撮るのは一瞬でも、現像することで永遠を生み出せると思いました。

ビューティフル トゥモロウ ~少年少女の世界~

2018 年『Ribbon』より Homage to Taro Okamoto

モデルの仕事は、創作や写真の英才教育を受けられる最高の場でした。渡仏して、ピーター・リンドバーグ、ウィリアム・クラインなど、尊敬する世界的な写真家たちと接し、彼らがどのように表現を生み出しているのかを間近で見ることができました。彼らを見て分かったのは、その人の生きてきた道が写真に宿るということ。それがオリジナリティーとなり、その人だけにしか表現できない世界が生まれるのです。

モデル時代に写真を撮っていたのを知ったデザイナーから初めて写真の仕事をいただきました。「不思議の国のアリス」をテーマに少女(高橋かおり)を撮影しているときでした。ふと昔の自分とその少女が重なったのです。死を受け入れていた10歳の自分。けれど、カメラの前の少女は今を懸命に生き、笑顔を見せている。そのとき、カメラを構えている私もまた今を楽しんで精一杯生きていることに気付きました。「生きる意味なんて分かるはずがない。だから、過去に囚われず、今を生きよう」。

カメラは自分を映す鏡であり、心にピントを合わせてくれるものです。そのことに気付き、写真に夢中になりました。それを教えてくれた少女の撮影は7年も続け、やがて写真小説『少女の行方』として結実します。

作品で紡ぐ 少年少女の物語

ビューティフル トゥモロウ ~少年少女の世界~

1993年『hoshi no hito』より model:Masatoshi Nagase,Yuki Kuroda

モデルから写真家になった私は、「少年少女の世界」をテーマに撮影を重ね、『サーカスの少年』、『少女の行方』、『星をめぐる少年』、『hoshi no hito』 、『眠らない夢』など、物語のある作品を発表してきました。今回の写真展では、それらの旧作に加え、撮り下ろした新作も展示します。時代とともに写真のあり方は変わり、かつて不可能だったいくつものことが、写真を取り巻くデジタルの進化で加工や合成を自分でコントロールできるようになりました。新作では、EOS 5Dsの繊細なタッチで描かれる少女を間近に感じてほしいのでカラーしか考えていませんでした。過去のモノクロ作品とは明らかに違います。初期の作品は「T-MAX 400」というフィルムを主に使用しています。

また、旧作と新作の大きな違いは物語の紡ぎ方です。旧作では作品を連ねて物語を一冊の本として伝えていたのに対し、新作は一作品ごとに物語をつくり込んだコンセプチュアルな作品です。例えば、フランスの写真家ベルナール・フォコンへのオマージュ作品では、彼の高潔な「少年」の世界に「少女」は存在できないのか試みました。

  • ビューティフル トゥモロウ ~少年少女の世界~

  • ビューティフル トゥモロウ ~少年少女の世界~

    写真2
    2018年『ジャネーの法則/彼の10年は彼の1年』
    model:Yuki Kuroda, Hidenao Kuroda

「少女」は「少年」たちに溶け込もうとし、対の作品では、「少女」はコスプレをして「少年」になりすましています。性の違和感はこの頃から強烈な距離(『distance』〈写真1〉)を持っています。ほかに、フランスの哲学者ジャネの「ジャネーの法則」では、5歳の少年の1年は50歳の10年に値すると言われています。未発表の旧作『ジャネーの法則』(写真2)は、当時、『星をめぐる少年』の合間に撮影したものです。心の不可解なものにピントを合わせるように写真を撮っていくことは、今も変わりません。

『ビューティフル トゥモロウ』。いつかの明日、誰もが必ず消えていく命。過去に囚われず、あの頃のように、美しい世界に気付く今日であってほしいと思います。

安珠「ビューティフル トゥモロウ ~少年少女の世界~」

安珠「ビューティフル トゥモロウ ~少年少女の世界~」

2018.7.11 - 2018.8.28

展示情報

安珠

安珠 (あんじゅ)

東京生まれ。
デザイナーのジバンシーにモデルとしてスカウトされ渡仏。パリを拠点に国際的に活躍。帰国後、写真家に転身。文章を織り交ぜた物語のある独自の写真世界を表現し、1990年にデビュー作「サーカスの少年」を出版。文筆や講演、審査や映像監督まで幅広く活躍。近年の作品展に、子どもの夢を集めた「Dream Linking☆つなぐ夢、千年忘れない」、中国自然遺産・張家界の「仙人の千年、蜻蛉の一時」、平安京に焦点を当てた「Invisible Kyoto-目に見えない平安京-」などがある。

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「CANON PHOTO CIRCLE」2018年7月号に掲載されたものです。

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