作家インタビュー

鈴木 理策

鈴木 理策

Risaku Suzuki

第129回展「知覚の感光板」

知覚の感光板

©Risaku Suzuki, Courtesy of Taka Ishii Gallery

知覚の感光板

カメラという装置を通して見るという行為の意味を問い、
写真表現の可能性を追い求めてきた写真家、鈴木理策。
今回は、撮り下ろしによる新作写真展「知覚の感光板」の中から、作品の一部を紹介する。

「知覚の感光板」セザンヌの言葉に重なるもの

「自分の中にある先入観を忘れ、ただモチーフを見よ。そうすれば、知覚の感光板に全ての風景が刻印されるだろう」。このセザンヌの言葉は、私が写真でやろうとしていることとまさに重なっていて、今回の写真展のタイトルに引用することにしました。

知覚の感光板

©Risaku Suzuki, Courtesy of Taka Ishii Gallery

撮影はセザンヌが晩年に集中して描いたサント・ヴィクトワール山の他、モネ、コロー、ゴッホら近代の画家達が滞在したエトルタやバルビゾン、カマルグ等フランス各地を旅して行いました。アメリカの画家エドワード・ホッパーが住んだマサチューセッツ州ケープコッドも訪れ、絵画が生まれた場所というテーマを基底に、彼らがそこで何を見て、どう表現しようとしたのか、その土地の光や風を感じながら撮影を続けました。

画家は風景を見つめ、必要なものを足したり、引いたりしながら時間を重ねて描いていきます。それに対し、写真家はカメラという光学的な装置を駆使し、決定的な一瞬の出来事や見所のある光景を切り取ろうとします。しかし私はそうしたことには興味がなく、むしろあるがままの世界がいかに創造的かを作為なく伝えたい。写真の中に特定の見所を持ち込むことは避けたいと考えています。

写真撮影では、構図、フォーカス、シャッタータイミングの3過程で選択が必要で、撮影者の多くはそこで工夫を凝らして自らの刻印を画面に残そうとしますが、私は大体の位置で構図をとり、最初に目についたところにピントを合わせ、流れ続ける時間を取り込むつもりでシャッターを切ります。目の前の風景に対して素直に撮ることを心掛けているのです。

  • 知覚の感光板

    ©Risaku Suzuki, Courtesy of Taka Ishii Gallery

  • 知覚の感光板

    ©Risaku Suzuki, Courtesy of Taka Ishii Gallery

人は本来、行動に必要なものしか見ておらず、不要な情報は意識せずにいます。一方、カメラはピント位置以外も多くの情報を写します。それをコントロールして、人が見た印象に近づけるのが写真家の技量とみなされますが、私には同意できません。見せたいものだけを見せたいように見せるためにカメラを操作することよりも、機械的な視覚が、私達の見る行為を浮かび上がらせることに関心があるからです。

写真はイリュージョンを作ること

  • 知覚の感光板

    ©Risaku Suzuki, Courtesy of Taka Ishii Gallery

  • 知覚の感光板

    ©Risaku Suzuki, Courtesy of Taka Ishii Gallery

写真展では、写された風景を今まさにその場所で見ているというような、ある種のイリュージョン(錯覚)が起きてほしいと思っています。例えば、本を読んだ時にある言葉から自身の記憶が立ち上がり、感覚や感情が動くといったことが写真でも成り立つのではないか。情報伝達だけが写真の役割ではないはずです。もの珍しさやインパクトに頼った写真はすぐに見終えてしまいますが、そうした限定的なイメージの受け渡しではなく、見ることそのものを提示したい。大きな写真を額装して展示するのはそのためです。会場で写真の前に立って見えるものは、モニター画面や印刷物で見えるものとは全く異なるはずです。

写真は静止しているが故に、人は記憶を使って見ようとします。そのとき、音とか、匂いとか、質感が立ち上がってくると、自分としてはうまくいったと思います。人の心を揺さぶる仕掛け、装置のようなものとして写真が成立すればいいと、私は強く願っています。

知覚の感光板

©Risaku Suzuki, Courtesy of Taka Ishii Gallery

鈴木 理策「知覚の感光板」

鈴木 理策「知覚の感光板」

2018.11.28 - 2019.1.16

展示情報

鈴木 理策

鈴木 理策(すずき りさく)

1963年和歌山県新宮市生まれ。1987年東京綜合写真専門学校研究科修了。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科教授。地理的移動と時間的推移の可視化を主題に、東京から新宮のお燈祭りに至る63枚の写真をシークエンスで構成した自身初の写真集「KUMANO」(光琳社出版)を1998年に発表。翌年、《Osorezan》と《Izanami》のふたつのシークエンスによる「PILES OF TIME」(同)を出版し、2000年に第25回木村伊兵衛写真賞を受賞。
生地・熊野の他、南仏のサント・ヴィクトワール山やセザンヌのアトリエ、桜、雪、花、ポートレート、水面といったさまざまな対象を撮影し続けているが、そこには写真のメディア性に対する関心と「見ること」への問題意識が貫かれている。 近年の写真集に「Water Mirror」(製作:一般社団法人日本芸術写真協会、発行:Case Publishing、2017年)、「Étude」(SUPER LABO、2017年)、「SAKURA」(edition nord、2017年)、「Atelier of Cézanne」(Nazraeli Press、2013年)などがある。
おもな個展に「意識の流れ」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2015年・東京オペラシティギャラリー、2015年・田辺市立美術館、2016年)、「水鏡」(熊野古道なかへち美術館、2016年)、「Mirror Portrait」(タカ・イシイギャラリー、2016年)、「熊野 雪 桜」(東京都写真美術館、2007年)がある。
作品は、サンフランシスコ現代美術館、ヒューストン美術館、東京国立近代美術館、東京都写真美術館、国際交流基金などに収蔵されている。

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「CANON PHOTO CIRCLE」2018年12月号に掲載されたものです。

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