作家インタビュー

奥山 由之

奥山 由之

Yoshiyuki Okuyaka

第131回展「白い光」

白い光

白い光

広告、エディトリアル、映像とジャンルを超えた活動で、今、最も注目を集める写真家の一人、奥山由之。彼の写真展『白い光』の一部を紹介する。

白い光を注視すると見えてくるもの

今回の作品は、気仙沼で漁の様子を撮影したシリーズで構成されています。漁に向かう船が港を出るのは深夜2時過ぎ。月明かりのない夜、海は漆黒の闇で、聞こえてくるのはエンジンの振動と波の音だけ。小1時間ほど過ぎて漁のポイントに近づくと、遠くに仲間の船の白い小さな明かりが見えてきます。周りが何も見えない状況の中で、1点の光に対して意識を注ぐ。その白い光を注視したときの感覚を、この展示空間で表現したいとまずは思いました。

現代は情報が氾濫していて、見たいものを一生懸命探し当てることのない時代です。視覚的には見て認識しているけれど、しっかり思考していない。いわば広く浅く、深度のないカラフルな大地を眺めている感覚です。だからこそ、「意識的に見る」体験が必要だと思っています。今回の写真展では、会場内は照明を消して真っ暗な状態にし、来場者には入り口で懐中電灯を渡して作品を照らして見てもらうようにしました。何も見えない会場で、光を自ら照らし写真を見る。その能動的な視覚体験は、「見る」という行為において、どこか動物的に懐かしさを感じるのではないでしょうか。

  • 白い光

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また、若い世代はWebで情報収集することが多く、たくさんの写真を目にすることができるだけに、1枚に対して割く時間も短くなっています。その1枚を見ている、という感覚よりは、常に周囲にもさまざまな情報が散乱していることを意識しながら1枚を見ている、という感覚ではないでしょうか。散漫な意識で写真を流し見ているので、物体としての力を写真に感じる経験も少ない。同じ画であっても、プリントで見ることによるそのとらえ方の変容を若い世代の人たちに限らず皆さんに感じてもらいたいと思っています。

写真は、デジタルデバイスで見るのか、写真集で見るのか、写真展で、雑誌で、ポスターで見るのか、によってその写真の持つ意味合いは大きく変わります。普段モニター上で見ている人にとっては、プリント作品ならではのある意味での圧力を感じられるだろうし、1点に集中して見るという行為を通して、流し見るだけは気付けない、写真が持つ表現としての余白や、写っている実像のその奥にまで、想像を膨らませることができるでしょう。

写真家は誰にも譲れない純真な主題を追う

白い光

僕は写真を撮るとき、その仕上がりについてや、作品の個性について、極力考えないようにしています。どう撮ろうかと考えを巡らせると、その意識が当然写真に写ってしまうからです。2015年に写真集『BACON ICE CREAM』を出版したころまでは、撮る段階からアウトプットの状態や人に与える視覚的な影響を考えていました。しかし、その後精神的不調で写真が撮れなくなってしまい、リハビリを兼ねて目の前にあるものにただカメラを向けていきました。その先にあるプリントとしての、印刷としての写真を意識せずに、ただただシャッターを押していく。そういった時期があったのですが、それらの写真をベタ焼きにして見返すと、結果に対しての意識がなく撮った写真ほど自分の作品として冷静であることに気が付きました。あらかじめこうしようと言葉で考えてしまったら、撮った写真もその意図の範疇に収まってしまいます。写っているのは言語圏内の写真、つまり文章で表現できる写真です。けれど、写真として定着された後のことを考えずに撮ると、現像が仕上がってから、なぜ撮ったのか、思考をめぐらせることになり、そこから言語を抽出して初めて気付くことが多々あります。その行為に自分の意図を超えた写真の拡がりがあります。そして、そうした撮影者としての意図を排すれば排するほど、自ずと無意識に生まれる個性や、その人にしか描けない主題が現れます。その譲れない主題をどう展示すれば人に伝わるか、どんな装丁にすれば届くのか。それを追い求めていくのが写真家の仕事であり、写真家としての理想の形だと思います。

  • 白い光

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特に写真展の会場は、空間をも含めてコントロールができて、写真に対しての意思表明が強く伝えられる、唯一の空間で、僕にとって一番大事な場所です。設営するときは自分の思いが伝わるよう何度も微調整を繰り返します。鑑賞者の視線を感じることで、意識を注がれることで、写真はその出で立ちが、変化していきます。今回懐中電灯を当てて見るという初めての試みを行いますが、会期を通して作品はどう変化していくのか。今回の展示では「写真を見る」という行為を、自分の中でも再確認したいと思っています。

奥山 由之「白い光」

奥山 由之「白い光」

2019.3.7 - 2019.4.15

展示情報

奥山 由之

奥山 由之(おくやま よしゆき)

1991年東京生まれ。2011年「Girl」で第34回写真新世紀優秀賞受賞。
2016年には「BACON ICE CREAM」で第47回講談社出版文化賞写真賞受賞。
著作は他に「As the Call, So the Echo」「君の住む街」「POCARI SWEAT」「Los Angeles / San Francisco」「THE NEW STORY」「march」などがある。
主な個展は、「Girl」Raum1F(12年)「BACON ICE CREAM」パルコミュージアム(16年)、「THE NEW STORY」POST(16年)、「Your Choice Knows Your Right」REDOKURO(17年)、「君の住む街」表参道ヒルズ スペースオー(17年)、「As the Call, So the Echo」Gallery 916(17年)など。

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「CANON PHOTO CIRCLE」2019年3月号に掲載されたものです。

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