作家インタビュー

永坂 嘉光

永坂 嘉光

Yoshimitsu Nagasaka

第132回展「空海 永坂嘉光の世界」

空海 永坂嘉光の世界

写真1

空海 永坂嘉光の世界

弘法大師空海によって開かれた、高野山。この地に生まれ、半世紀にわたって空海の軌跡を撮り続けてきた写真家、永坂嘉光。写真展の中からその一部を紹介する。

目には見えない空海の足跡を写す

私は和歌山県高野山の山内、壇上伽藍近くの家に生まれ育ちました。高野山は金剛峯寺の境内につくられた一つの宗教都市で、町には保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、大学院まであり、多いときは9000人近くの人々が住んでいました。昔は女人禁制だったので、私の世代より前に高野山で生まれた人はいないのではないかと思います。写真を撮り始めた50年ほど前は、小さな池や土の道が多く残り、どこも鬱蒼としていて、静寂な空気に包まれ、厳かな佇まいを見せていました。密教の秘宝が守り続けられているのを知ったのもその時期でした。

最初のうちは山の中を歩き廻り、見えるものとの対話を意識して高野山の風景を撮っていたのですが、やがて高野山を開き日本に壮大な密教文化をもたらした空海に興味がわき、五大を意識するようになりました。五大とは宇宙を構成する、地、水、火、空、風の五元素の意味で、空海の思想の根源です。高野山には大師によって造形化された五輪塔が数えきれないほど立てられています。私は空海の思想、軌跡を写真で残すことを決意し、日本や中国に足跡を求める撮影行脚を始めました。

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    写真2

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    写真3

高野山は、若き空海が遣唐使として中国の西安に行く前に発見した場所で、「吉野から南に一日、さらに西に二日行ったところに高野山がある」と記しています。写真1の作品は、熊野道につながるろくろ峠から見た眺望。霧に包まれていた高野山の町に朝日が射し、朱塗りの根本大塔がくっきり浮かび上がった瞬間、シャッターを切った一枚です。湿潤な高野山では冷え込んだ早朝には朝霧がよく見られたのですが、最近は地球環境の変化が高野山にも及んだせいか、この絶景もなかなか見ることができなくなりました。

写真2は高野山の金剛三昧院。国宝の多宝塔と春になると咲き競うシャクナゲが重なる風景に惹かれ、毎年撮影しています。新芽から満開に至る光景に、自然の息吹と時間の流れの不思議を感じます。写真3は室戸岬の海岸の岩肌に掘られた御蔵洞。空海が一心に虚空蔵求聞持法を修した霊場で、空海を偲んで多くの巡礼者が訪れ、祈りを捧げています。そして、写真4は秋の終わり、杉木立ちの間を駆け抜ける専修学院の僧侶たちを狙った作品です。シャッター速度を遅くし過ぎると僧侶たちの姿が全部流れてしまって面白くありません。足が止まって見えるようにシャッター速度を何度も調整し、ようやく撮れた一枚です。

写真の本質を決めるのは撮影者の感性

空海 永坂嘉光の世界

写真4

写真5は壇上伽藍にある御影堂。猛吹雪の日、私は伽藍に駆けつけました。突風で三脚を立てる暇もなく、空海が修行したと伝えられる壇上伽藍の御影堂から、猛吹雪に襲われる伽藍境内を御影堂の柱にカメラをあてがって撮影しました。高野山は海抜約1000mにあるため、このように風雪は激しいときがあるのです。

フィルムで撮影していた時代は、薄暗い木立や本堂の薄明かりの中では露出計は動かず、ほとんどヤマ勘で撮影していました。やがて、デジタルの時代に入り、スピーディな撮影、暗い環境での撮影が可能になり、私もデジタルカメラで撮影するようになりました。しかし、例えカメラ機材がどうであれ、被写体との一期一会の出会いに変わることはなく、写真の本質を決めるのは作者が持つ感性だと思います。創作においてデジタルカメラとフィルムカメラの違いはまったくないのです。

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    写真5

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高野山の風景は、どんな風景でも一木一草が生き生きし、空海の法燈は永々と守られ、不滅の光は今も多くの人の心の糧になっています。高野山の大地から湧き出る清水は森を潤し、何千年もの間、広大な森林を育んできました。倒れた樹々もやがて土となり、風によってさまざまな種子が遠くまで運ばれ、新しい生命が宿る。この自然の営みが美しい高野山を保っています。自然と人の関わり合いにより、火や水も神格化され、火の行、水の行が行われています。私は高野山の撮影を続ける中で、人は自然の一部であることを痛感し、万物の生命の神秘性や偉大さを再確認してきました。

私は空海の足跡を写真で映像化することをテーマに、そこに自分のスタイルを出していくことを目指してきました。撮影したときの現実感や感動を伝えられるのは、大画面でしかないと思い、個展をするときはできるだけ大きくするようにしています。撮影現場で感じたことが大きな画面から直接、リアリティを持って立ち昇ると思うからです。写真展の作品を通して、空海の思想やその息吹を感じていただけたら幸いです。

永坂 嘉光「空海 永坂嘉光の世界」

永坂 嘉光「空海 永坂嘉光の世界」

2019.4.18 - 2019.6.3

展示情報

永坂 嘉光

永坂 嘉光(ながさか よしみつ)

1948年、和歌山県高野山生まれ。大阪芸術大学卒業。1970年ころから高野山の撮影を始め、密教の源流を辿ってインド、中国、ブータンなどアジア各国を取材。日本の霊山や秘仏も数多く取材し、宗教と文化をテーマにしたスピリチュアルな映像表現で知られる。主な写真集に、『永遠の宇宙 ― 高野山』、『天界の道 ― 吉野・大峯 山岳の霊場』、『空海 千二百年の輝き』ほか多数。最新刊に『空海 五大の響き』。日本写真協会作家賞、地域功労者文部科学大臣表彰など受賞多数。

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「CANON PHOTO CIRCLE」2019年5月号に掲載されたものです。

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