作家インタビュー

熱田 護

熱田 護

Mamoru Atsuta

第137回展「500GP フォーミュラ1の記憶」

500GP フォーミュラ1の記憶

500GP フォーミュラ1の記憶

四輪モータースポーツの最高峰、フォーミュラ1。その一戦一戦を追い続け、これまで500戦もの熱き戦いを見届けてきた写真家、熱田護。29年の歳月をかけて撮影した作品の数々を紹介する。

速い被写体は誰でも撮れる 課題は瞬間をどう捉えるか

2019年のベルギーグランプリで、F1を撮って500戦を迎えました。実は写真の仕事を始めた頃は二輪のレースを撮っていました。F1の撮影を始めたのは1991年からでしたが、自然と、でも劇的に、伝説のレーサー、アイルトン・セナという存在にのめり込んだのです。モータースポーツは、速い車に乗らなければ勝ち得ません。セナは他のチームの車の性能が上がり、苦戦していた頃。それでも勝ち方が劇的で、強さ、雰囲気、姿にたちまち惹かれました。

500GP フォーミュラ1の記憶

写真1

速い被写体を撮るのは大変ですねと、よく言われるのですが、そんなことはなく、誰でも撮れます。特に最近のデジタル一眼レフのAFはピント精度が高く、急激なスピードの変化にも正確に対応してくれますし、ファインダーに収める技術にしてもレースの経験を重ねていくとすぐ慣れます。むしろ、どんな瞬間を撮りたいのか、そのためにはどう行動したらいいのか。それを考えることの方が何倍も大切です。例えば、次のレースの天気予報は曇り時々、晴れ。雲の切れ目から差し込む光に輝く車を撮りたいと思ったら、サーキットのレイアウト、アップダウンの高低差、太陽の位置、現地特有の気候などを計算し、撮影位置を割り出して行動しなければ、思い描いた一枚を撮ることはできません。

500GP フォーミュラ1の記憶

最高の瞬間を撮るために挑戦と失敗の繰り返し

最高の瞬間を絶えず探し歩いていますが、撮れそうなシチュエーションに行ったのに失敗してしまうことも往々にしてあります。でも、年に一度か二度、車の大きさも、光の方向も、雲の表情も、パツンとハマった最高の瞬間に立ち会うことがあります。

500戦撮ってきた中で、一番印象に残っているのは、1993年のブラジルグランプリ。凄まじい雨の中を疾走するセナの写真を撮影した時です(写真1)。彼はライバルのアラン・プロスト、デイモン・ヒルより遅い車に乗っていたのですが、決勝レースの途中で大雨に見舞われ、トップを走っていたプロストがリタイア。そして地元のヒーロー、セナは前の周にレインタイヤに替えていたこともあり、トップに躍り出たのです。その瞬間、サーキットは熱狂状態。大歓声で甲高いエンジン音も聞こえない。土砂降りの雨が白いカーテンになって視界はゼロに近い中、遠くから徐々に地鳴りのように大歓声が近づいてきた瞬間、セナの車体がなんの前触れもなく、ふわっと雨の中から現れたのです。600㎜の望遠レンズを構えていたのですが、鳥肌状態でシャッターを切ったのを今でも鮮明に覚えています。あれから400戦以上、F1レースを取材していますが、いまだにその瞬間を撮った達成感が一番です。

  • 500GP フォーミュラ1の記憶
  • 500GP フォーミュラ1の記憶

1年に21戦。重い機材を担ぎ、飛行機に乗って世界各国のレースを追いかけていると、時差ボケで苦しいときもあります。同じフィールドで同じような光景を撮っているとマンネリ化もしてきます。思うような一枚が撮れないときは本当に辛い。それでも続けられるのはF1が好きだという気持ちがベースにあり、次回こそ最高の写真が撮れると信じているからです。今日と違う一枚を求め、これからも撮り続けます。

500GP フォーミュラ1の記憶
熱田 護 「500GP フォーミュラ1の記憶」

熱田 護 「500GP フォーミュラ1の記憶」

2019.12.19 - 2020.2.8

展示情報

熱田 護

熱田 護(あつた まもる)

1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1985年、ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。1992年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。広告のほか、雑誌『カーグラフィック』、『Number』、『デジタルカメラマガジン』などに作品を発表している。日本レース写真家協会(JRPA)会員/日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。

●主な写真展
1992年 フォーカシングワン(アクシスギャラリー)
1999年 一瞬の中の永遠(キヤノンサロン)
2003年 イグニッション(キヤノンサロン)

●主な写真集
1992年 「フォーカシングワン」(FREE PRESS)
1994年 アイルトン・セナ写真集「サウダージ」(山海堂)
1996年 CD-ROM写真集「フォーミュラワン」(メディアミューズ)
1999年 「Turn in」(三樹書房)
2002年 「on the limit」パナソニック・トヨタ・レーシング写真集(二玄社)
2003年 「IGNITION」(TOKIMEKIパブリッシング)
2006年 「皇帝ミハエル・シューマッハ フォトドキュメント」(山海堂)
2009年 「The F1 Spirit Takuma SATO」佐藤琢磨ビジュアルブック(二玄社)
2010年 「Time to say goodbye」トヨタF1写真集(三樹書房)

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「CANON PHOTO CIRCLE」2020年1月号に掲載されたものです。

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