2016年12月17日、キヤノンギャラリー S 操神和美展「ロンサム・デイ・ブルース」を記念してアートディレクター葛西薫氏とのトークセッションの模様をお届けします。
操上 撮影は孤独な作業で、渋谷の街で一人撮影していたら、だんだん寂しくなってきました。街を歩いている人も、みんなにこやかな顔はしておらず、下を向いて歩いている。孤独とは、寂しい場所に行くから感じるものではなく、雑踏の中で群衆に紛れ、一人孤立したときにより強く感じるものです。そして、そのときに自分の中にある何かが見えくるんです。
操上 今、ものすごくドラスティックに変わりつつある街だと思うんです。スナップしてみると、外国人と日本人が半々くらいで、ニューヨークで撮っているような不思議な感覚になりました。撮影に行くとき、原宿を通って渋谷に入るのですが、原宿では撮りたいと思わないんです。やはり渋谷の猥雑で寂寥感のある風景に反応していたのでしょう。
葛西 タイトルを聞いてから写真を見たとき、文字をつくる仕事がしたいと思っていた70年代の自分を思い出しました。それで僕の中にあるものに火がつき、当時一番使いたかった書体で組んだのです。写真展だから普通は写真を大きくするものですが、タイトルが素晴らしいと思って文字を目立たせ、作っているうちに操上さんを忘れて自分のことに精一杯になっていました。
操上 初めて見たときは絶句しました、「俺の写真展だろ……」って。期待していたのは写真が大きい普通ものだったけど、写真は小さく、角が丸く切られている。でも、見ているうちによくなり、やはり葛西さんは優れたデザイナーだと思いました。自分の写真なんてどうでもよく、「Lonesome Day Blues」という全体の思いがちゃんと表現されていることに感動しました。
操上 タイトルは葛西さんが付けてくれたんです。僕は「北へ」という思いで撮っていたのですが、デザイン的に「NOTHERN」の方がかっこいいと説得されて。そのときも発想がすごいなって思いました。離れてから一度も撮っていなかった北海道を撮ってみようと思い、故郷を中心に撮影したものですが、撮りきれないほど北海道は面白いとそのときに気付きました。
葛西 操上さんとの初めての仕事は、初めてアートディレクターとして担当した仕事でした。そのときは依存の塊で、特に指示をするわけでもなく、撮影する商品の準備ばかりしていました。打ち上げの席で操上さんから「フットワークが足りない」と言われ、本当にその通りだからショックでしたが、今はその言葉がほかの仕事に役立ち、いろいろな形になったと感じています。
※期間中、展示内容は予告なく変更する場合がございます。ご容赦ください。