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どこでも手軽に写真プリントが楽しめるミニフォトプリンター「iNSPiC」が、若い世代の間で話題になっている。昨年9月に発売されたスマホ専用ミニフォトプリンターに続き、今年6月にはカメラ機能を追加した製品も順次発売される。この小さなプリンターは、写真をプリントする習慣のないSNS世代のどのようなニーズをいかにしてつかまえたのだろうか。

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  • 2019.06.01

Episode.25 「iNSPiC」

アメリカのロッカーにあった新しいプリンターのヒント

写真:小林伊三夫(右)と鈴木勇次 Canon U.S.A., Inc.でコンシューマ向けプリンターとカメラのビジネスプランニングを担当する小林伊三夫(右)とキヤノン電産香港有限公司で社長を務める鈴木勇次

昨年4月にアメリカで先行発売し、9月に「iNSPiC」の名で日本でも発売された、スマホ専用ミニフォトプリンターの企画をスタートさせたのは、Canon U.S.A.でコンシューマ向けプリンターとカメラのビジネスプランニングを担当する小林伊三夫だ。小林は、「ジェネレーションZ」と呼ばれる、1990年代後半から2000年代に生まれた若い世代に向け、新しい製品を打ち出す必要性を以前から強く感じていたと話す。

「私たちが展開するコンシューマ向け製品には、スマートフォンやSNSを使いこなす世代にアピールできる製品が少なかった。それは"今"だけでなく、キヤノンの"将来"にも大きな影響を及ぼします。だからこそ、彼らにとっての"My First Canon Experience"、初めてのキヤノンとして手を伸ばしたくなるような製品が不可欠だと考えていました」

では、スマートフォンで写真を撮ってSNSでシェアする若い世代に、どのような製品なら受け入れられるのだろうか。小林は学校の「ロッカー」に着目したという。アメリカの学校では1人に一つロッカーのスペースが用意されており、そのロッカーの中を飾り付けて自分らしくアレンジする学生も多い。パブリックな場におけるパーソナルな空間という使い方に、ヒントがないかと考えたのだ。

「ピンときたのが、小型プリンターです。スマートフォンで撮影した写真をプリントしてロッカーに貼り付ける。そんな提案なら、手に取ってもらえると思いました」

画像:コミュニケーションツールとして写真を活用する人が増えている

コミュニケーションツールとして写真を活用する人が増えている
写真をめぐる変化のうち見逃せないのは、写真をメーンとしたSNSであるInstagramのユーザーの増加だ。総務省の調査によると、中でも20代は約半数がInstagramを利用している。写真を撮るだけでなくコミュニケーションのためのツールとして積極的に活用する人が増えているといえる。

大胆な決断が生み出した革新的な製品

この小林のアイデアに共鳴したのが、電卓やレーザーポインターといったコンシューマ向け製品の企画から製品化までを手掛ける、キヤノン電産香港 社長の鈴木勇次だ。

「一昨年、キヤノン本社での会議の後、以前一緒に仕事をしていた小林から声を掛けられ、『子供たちも手に取るような新しいキヤノン製品を作りたい。今後市場が伸びると思われる小型プリンターを作れませんか』と相談されました」

驚いた鈴木だったが、即座に「できる」と答えたという。

「その少し前に、小型プリンターの市場や技術を調査していました。ですから、小林が相談してきた製品の狙いや完成形もすぐにイメージできました。Canon U.S.A.の企画チームとの協業は初めてでしたが、目指すゴールは共有できていました。どちらもユーザー層に近い、若いスタッフが中心になってプロジェクトを進めました」

とはいえ、鈴木の想像を超えていたこともあった。小林は小型プリンターをこれまでにないスピードとリーズナブルな価格で世に送り出したいと考えていたのだ。そのために、大胆な「決断」も必要になった。それは、Zink Holdings LLC(以下、ZINK社)のZero Ink® Technology(※)の採用だ。

「高画質なプリントを目指すなら、キヤノンのインクジェット技術を採用したでしょう。しかし、今回の狙いは違います。気軽に楽しめる製品を、変化が激しい市場へスピーディーかつ低価格で届けることです。ZINK社の技術を採用したのは、お客さまが最も求めているものは何か、何を優先すべきかを考えた結果です」

一方、小林はZINK社のプリント用紙がシール紙だということを知り、ヒットを確信したという。

「ユニークな自分でありたいと考える若者たちが、写真などをプリントしてロッカーや持ち物に貼り、オリジナリティーを表現して楽しんでいる様子が目に浮かびました」

そんな小林の狙いは当たった。100ドルを切る価格と「IVY」の名前で発売されたスマホ専用ミニフォトプリンター「PV-123」は、ユーザーを振り向かせるスマッシュヒットとなった。

※Zero Ink® Technology:Zink Holdings LLCが開発した、インクカートリッジを使わずにフルカラープリントを可能にする印刷技術です。Zero Ink® Technologyは、Zink Holdings LLCの商標または登録商標です

画像:"自分の作品を作る"ニーズに応えてヒットにつなげた「iNSPiC」

"自分の作品を作る"ニーズに応えてヒットにつなげた「iNSPiC」
日本では、"プリントしたものを使って自分の作品を作る"ことを目的に使うユーザーが多い。SNSでは、「iNSPiC」でプリントした写真を手帳に切り貼りして、毎日を記録するという活用法が話題になった。写真をアクセントとして、さらには情報の補完として使用している。スマートフォンの中にたまった写真の新しい楽しみ方として、「iNSPiC」のヒットにつながった。

iNSPiC 【 インスピック 】

写真:iNSPiC

手のひらサイズのミニフォトプリンター「iNSPiC」シリーズには、昨年発売したスマートフォンと接続してプリントができる「PV-123」と、今年6月以降に順次発売する新製品800万画素のカメラが付いた「ZV-123」、500万画素のカメラが付いた「CV-123」の3機種がラインアップされている。「ZV-123」はスマートフォンとの接続も可能。いずれも小型・軽量ボディーで内蔵バッテリーを採用しているため、手軽に持ち運べ、いつでも気軽にプリントできる。紙とインクが一体となった専用の「ZINK™ フォトペーパー」はシールになっているため、手帳やノートに貼って作品作りを楽しむことができる。

iNSPiC 製品情報

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    徹底したユーザー調査から見つけたヒットのヒント

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