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AIやIoTの活用が進む一方、人口減による人手不足などの社会課題がいよいよ顕在化してきたのが2017年の日本だった。
そして今年、日本社会はどう変化し、そこにどのようなビジネスチャンスが生まれるのだろうか。
海外事情にも詳しい経営学者の石倉洋子さんに、2018年の社会やビジネスを読み解く視点について語っていただいた。
人口減少によって日本の労働力が確実に足りなくなることは、すでに10年以上前から指摘されていました。しかし、それが多くの企業で本当に深刻な問題として受け止められるようになったのはつい最近のことです。2017年は労働人口減少への対応が本格的にスタートした年と位置付けられると私は考えています。
その中で、最も重要な対応策の一つは、女性や高齢者など「働く力があるのに働いていない人」に働いてもらうことです。そのためには多様な働き方ができる環境を整えていかなければなりません。リモートワークの導入、定年制度の延長もしくは廃止、産後・育児・介護などの休暇制度のさらなる整備、兼業・副業の容認といった仕組みづくりに取り組む企業が増えていますが、この流れは2018年も続いていくでしょう。
しかし、それらの取り組みだけでは十分ではないというのが私の意見です。働き方の抜本的改革には、「労働生産性の向上」という目標を明確に掲げることが欠かせません。労働生産性とは、ご存じの通り、仕事の成果を出すためにどれだけの時間を費やしたかを示す指標です。より大きな成果をより少ない時間で達成することができれば、生産性が上がったということになります。
労働生産性を明確にするには、「職務」「成果」「時間」の三つの要素を定義しなければなりません。一人ひとりの従業員のミッションは何で、期待される成果は何か。そして、それを出すために要した時間はどのくらいか。それらを明らかにしなければ、労働生産性を算出することはできません。欧米諸国では、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)によって仕事のミッションを定義するのが一般的ですが、日本ではそのような考え方はまだ浸透していません。今年以降、職務とその遂行に要した時間を正確に計る仕組みが日本でも求められるようになるのではないでしょうか。
キーワード 1
社員の仕事の細かな内容、期待される成果、責任の範囲などを明確に記述したもの。会社と社員との合意書または契約書のようなもので、アメリカでは求人の時点であらかじめこれを提示する。個々の社員の生産性を計測するためだけでなく、人事評価の基準を明確にするためにも役立つ。日本でも一部の企業で導入が進んでいるが、これによって「職場の助け合い」などの日本特有の企業文化が損なわれるという意見もある。
2017年は、移動手段、宿泊施設、住居などを共有するシェアリングエコノミーが進んだ年でもあります。この動きは今後さらに加速していくでしょう。しかしシェアリングサービスには、「ユーザーの多様性」という視点がまだまだ不足していると私は感じています。
例えば、日本でも自転車シェアリングが始まっていますが、自転車の用途は一様ではありません。小さな子どもがいるお母さんは子ども用のシートが付いた自転車を使いたいと考えるでしょうし、買い物に使う人には大きなかごの付いた自転車が必要でしょう。また、高齢者の中には電動自転車へのニーズも多いはずです。今後、シェアリングサービスには、そんな多様な視点が求められることになると思います。
ユーザーの多様なニーズを掘り起こすためには、「何に困っているのか」「誰が困っているのか」を、サービスや商品の提供者が自ら探しにいかなければなりません。その方法の一つが、近年注目されているエスノグラフィー調査と呼ばれる手法です。これは文化人類学のフィールドワークの方法論をマーケティングに応用したもので、オフィスの中で頭を悩ませるのではなく、外に出て人々の行動を観察することで新しい商品やサービスを生み出そうとする考え方です。エスノグラフィー調査は、今後さまざまな分野で活用されるようになると思います。
キーワード 2
モノを個人で所有せずに複数人で融通し合いながら利用する、あるいは個人所有のモノを他人に貸し出す市場の総称。モノを持つ個人や企業と、モノを利用したい人をインターネットで仲介するサービスがこの市場を支えている。個人住居を宿泊施設として貸し出す「Airbnb(エアビーアンドビー)」、個人の自動車をタクシーとして利用するライドシェアリングサービス「Uber(ウーバー)」がよく知られている。
キーワード 3
「エスノ」は民族を、「グラフィー」は記述することを意味する。生活様式や文化があまり知られていない民族の実態を、共に生活したり長期間にわたって観察したりすることで明らかにしようとする文化人類学の方法。近年、消費者の生活スタイルやニーズなどをトータルに把握する方法としてマーケティングでも活用されるようになっている。「行動観察調査」と同義で使われることも多い。