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トップ > ヒットのピント [Vol.1] ネーミング > P1
(Illustration:shoko terata)
宮崎駿監督の長編映画引退作となった『風立ちぬ』。このタイトルを見た瞬間、監督の引退を予感した。タイトルに「の」がなく、完了形の「ぬ」で終わっていたからである。『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』『崖の上のポニョ』といった宮崎作品は、タイトルに「の」を入れることで一つのまとまった名詞句に置き換え、作品のエッセンスを分かりやすく伝えてきた。もし引退を決めていなかったら、次の作品も「の」を入れた題名にしたように思う。監督がどんな気持ちで、「の」を封印したのか。タイトルの中のひらがな一文字が、いろいろなことを教えてくれる――。
商品のネーミングで最も重要なことは、「覚えやすさ」である。最近は、インターネットで検索する人が多いことから、一文字間違えただけで、異なる商品にたどり着きかねない。今は「覚えやすい」文字数が好まれ、4~6字が適切だといわれている。
「覚えやすいネーミング」には、音や表記が重要な要素となる。ヒット商品を見ていくとそこに気付くはずだ。例えば女性向け商品には、NやMの音がよく含まれている。雑誌『nonno(ノンノ)』や化粧品『マキアージュ』は代表例。一説には、女性の場合NやMの音を含む名前が多く、自分の名前と同じ音には親しみを持ちやすいからだという。また、20代の女性は「ぱぴぷぺぽ」などの両唇を使う音を好む傾向にある。タレント『きゃりーぱみゅぱみゅ』の若い女性からの絶大な支持は、彼女の名前が持つ音にも関係がありそうだ。
一方、男性はGやZをはじめとする濁音を好む傾向にある。『ギャツビー』『ジェレイド』など男性化粧品に濁音を使った商品名が多いのはそのためだろう。男性が濁音を好むのは、発声するのにエネルギーが必要だから。「じ」や「ぎ」といった濁音は声帯を振動させなければ出ないため、力強い印象を受ける。このことが、男性に"自分向け"商品だとインプットしているようだ。
日本語の表記には、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットなどの選択肢がある。いかにターゲットに合うものを選ぶかが重要。年配者がターゲットなら、カタカナやアルファベット表記は避けた方がいい。『なごみ』『いろどり』などの和語を好み、ひらがなに親しみを覚える傾向があるからだ。タレント『くりぃむしちゅー』は『海砂利水魚』からの改名だが、ひらがな表記によってお笑い芸人らしさも生まれ、身近な存在として受け入れられたのではないだろうか。
音と表記の両要素を備えている好例は、小林製薬の『熱さまシート』『のどぬ~る』『爪ピカッシュ』『キズアワワ』といった商品名だ。駄じゃれ風な造語はユーモアがあり、一度聞いたら忘れない。「覚えやすく」「リズム感があり」「1秒で分かる」3本柱を軸に考えられたネーミングは、競合他社より一歩抜きん出ている。