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トップ > ヒットのピント [Vol.2] カラー > P1
(Illustration:shoko terata)
カラーマーケティングの難しさは、色が作り手や消費者の"好き嫌い"で左右されるところにある。車を例に取ると、1リットルで30キロ走る車と5キロ走る車とでは、経済的に優れているのは前者だとすぐに分かるが、赤い車と青い車とでは優劣をつけられない。色の価値は目に見えないから、定量的な判断が下せないのだ。それに、色の好き嫌いという気持ちは、状況によって揺れ動く。例えばグループ調査の場で、誰かが「この色が好き」と言えば、そちらに流されることも大いにあり得る。だから「何色が欲しい」といったアンケート結果を全面的に信用するわけにもいかない。
では、どう判断すればいいのか。企業は「売れ残る色は作らない」という発想でカラーバリエーションをそろえていく。ただし、無難な色ばかりでは存在感に欠ける。だから、確実に利益を上げられる「稼げる色」と「稼げなくてもメッセージを伝えられる色」の両方を選定するのである。そしてこれは、消費者のニーズに応えることにもなる。人の心理には「今のままでいたい願望」と「変わりたい願望」が共存している。だから安心できる色と、変わりたい願望を満たしてくれる色を求める。無難な色だけでは物足りず、インパクトのある色だけでは商品を選べないのである。
「売れ残り」を避けるためには、これらの色をどう配分していくかも重要なポイントだ。一般的に、安定した販売比率は6対3対1とされる。まずシェア6割を稼いでくれるのが、万人向けの色で「定番色」(スタンダードカラー)と呼ばれる。それぞれの業界で、安定して売れ続けている色を押さえておけばいい。白や黒、シルバーなどがその例だ。次にシェア3割を稼ぐのが、「ステイタスカラー」。「人と同じではつまらない」と考える消費者に向け、高級感ある色を選定する。シャンパンゴールドなどがその類だ。最後がシェアは1割ながら、流行を発信する「トレンドカラー」である。
企業のメッセージも、この1割に込めることになる。2002年に日産が女性ユーザー向けに発表した新型マーチでは、カフェのランチを想定したおしゃれな食材の名前の色を採用。当時、車にはまれな「パプリカオレンジ」色の車は、予想を上回る台数を売り上げた。この例のように、企業がメッセージ性を強く打ち出したトレンドカラーが目標販売数を超えれば、それは「売れた色」と評価される。言うなればトレンドカラーはトップスター、企業の利益を支える定番色は陰の功労者と言えるだろう。
おそらく企画担当者は、シェア1割のトレンドカラーのプランニングにやりがいを感じるはずだが、定番色を選び、商品に落とし込むこともまた面白い作業である。一口に"白"といってもさまざまにあり、過去のデータ通りに提案して終わりというわけにはいかない。実際、定番色である白や黒は10年前と比較すると明るく鮮やかに変化している。例えば、10年前のオフィスに並ぶパソコンはクリーム色のものが多かったが、現在は明るい白のパソコンが並ぶ。定番色とはいえ、時代やライフスタイルに合った色を選び取ることが必要なのだ。