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トップ > ヒットのピント [Vol.3] 購買心理 > P1
(Illustration:shoko terata)
マーケティング業界にいる人なら、消費者が広告を見てからの購買心理を分析した「AIDMA(アイドマ)の法則」* はご存じだろう。しかし、買い物客が店に入ってから購買に至るまでの店頭心理は「AIDeCA(アイデカ)の法則」の方が当てはまる。この法則に従い、スーパーでの買い物客の心の動きを見ていくと、次のようになる。
店に入り、目の前に見慣れない光景が広がっていたとする。例えば、通路であるはずの場所に、赤い色の商品ばかりが陳列されていたら「何だろう?」と「注意」(Attention)を向けるはずだ。するとそこに「母の日フェア開催中」と書かれたメッセージと、親子タレントが仲良く料理をしている写真が飾られていたらどうだろう。「興味・関心」(Interest)が生まれ、作ってみたいという「欲求」(Desire)が募るかもしれない。
そして、欲しいと思えばほかの商品と「比較」(Compare)し、買って損はないと思えば、購買という「行動」(Action)に出る。定番ではない季節商品や新ジャンルの商品を販売するには、こうした買い物客の店頭心理を捉えた上で売り場を作る必要がある。
では、どのような仕掛けを施せば、客は"買う気スイッチ"を入れるのか。
まずは五感を刺激する工夫がほしい。特に「視覚」は重要な要素だ。人間が受け取る情報は視覚が70~80%と言われ、視覚情報の中では"色"が真っ先に脳に送られる。立ち止まってほしいコーナーに、赤やショッキングピンクといった目立つ色を大量に並べれば、アイキャッチ効果は絶大である。色で引きつけたら、商品は視線の法則に従って陳列する。人はモノを見るとき、視線を左上、右上、左下、右下と、アルファベットのZをなぞるように移動させるが、視線は右側で止まるので、左側の商品は見落としがち。日本人に右利きが多いことも考慮すると、売りたい商品は右側に置くのが鉄則だ。同一商品を棚一面に並べた場合、左側より右側の商品が1.6~1.9倍ほど売れるというデータもある。
視覚ではなく、他の感覚を刺激する方が効果的な商材もある。入浴剤や柔軟剤なら、刺激すべきは当然「嗅覚」。香りが分かるサンプルを置くだけでも、買う気スイッチは俄然(がぜん)入りやすくなる。
家電量販店のような、目的買いが中心の店では、目的階に移動する一瞬の間が客の気を引くチャンス。例えばホームシアター売り場から映画館で耳にするようなサウンドを流し、「聴覚」を刺激する。目的は別にあっても、音に敏感な客なら足を止めるかもしれない。衝動買いさせるのは難しい高価な商品でも、注目を引き、欲求を募らせることは十分に可能だ。
* 「AIDMA(アイドマ)の法則」とは1920年代にアメリカで提唱された広告宣伝に対する消費者の心理プロセスで、商品を知って購入に至るには「Attention(注意)Interest(関心)Desire(欲求)Memory(記憶)Action(行動)」の段階があるとされる