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時代をつくった業界イノベーション物語

業界や市場に革新をもたらした製品などを取り上げ、世の中に受け入れられた背景などを紹介します。そこには、新たなイノベーションにつながるヒントがあるかもしれません。
初回は小学生の間で話題となった文房具に注目しました。

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  • 時代をつくった業界“イノベーション”物語
  • 2016.03.01

[Vol.1] 小学生の文房具

アーム筆入、多機能筆箱…… 筆箱は子どものステータスだった!

かつて車が大人のステータスだったように、筆箱が子どもたちのステータスになっていた時代がある。1965年に発売された「アーム筆入」(サンスター文具)は、その代表例だろう。「象が踏んでも壊れない」をキャッチフレーズに、筆箱を象に踏ませて“魅せた”CMは多くの人に衝撃を与えた。大ヒットの要因はCMだけでなく、それを裏付ける素材にもあった。それまでプラスチック筆箱に使われていたスチロール樹脂ではなく、強度の高いポリカーボネートを使ったのである。実はこの素材、信号機に使われているもので、開発担当者は、暴走族が石を投げても壊れない信号機を見て、筆箱に使うことを思いついたのだという。子どもが筆箱を机から落とすたびに買い替えを迫られていた親たちは、アーム筆入が救世主に見えたに違いない。

冒頭で触れたクルトガのように、子どもが初の“指名買い”に走ったのも、筆箱だった。1975年頃に登場した多機能筆箱がそれだ。片面開きからスタートしたマグネット式がその後、両面、3面、果ては9面までエスカレートし、さらにはボタンまで加わったりと、変化の連続。ボタンをタッチした途端、四方八方から収納スペースが飛び出す姿は、筆箱というより“ロボット”のようで、男児の心をわしづかみにした。

一大ブームを築いた筆箱だが、ファミコンの席巻により、1980年代以降は子どもたちのステータスがファミコンへと移行する。そして筆箱は、かつて木箱や缶箱を筆入れにしていたときのように、缶や布製のアナログ路線へ戻っていく。しかし最近は、“立てて置ける”という付加価値付きの布製ペンケースが大うけ。アナログなどと侮るわけにはいかない。行きつ戻りつしながらも、文房具は確実に進化を続けている。

  • 写真:布製ペンケース

    1990年代 布製ペンケース

    子どもの関心がファミコンに移ると、筆箱は手頃な価格でシンプルな、缶や布製のものに戻っていく。特に大容量の布タイプは、多色ペンなど筆記具が増えた当時の子どもには重宝され、各社、大きさ、形、柄などで差別化を図った。
  • 写真:コクヨ 「カドケシ」

    2003年 コクヨ 「カドケシ」

    四角四面が一般的だった消しゴム界に旋風を巻き起こしたのが、このカドケシ。「角を使うと消しやすい」といった人の潜在的欲求に応える形で開発された。これ以降、角の使い方を研究し尽くした新製品が続々登場、“角戦争“が勃発した。
  • 写真:コクヨ 「ネオクリッツ」

    2006年 コクヨ 「ネオクリッツ」

    大ヒットの兆しを見せているのが、ネオクリッツを代表とする立つペンケース。筆記具を入れたまま立てて置ける簡便さが大人の目に留まり、子どもに波及した。「何を入れるか」ではなく「どう使いたいか」に思いを寄せながら、筆箱は進化を続けている。
  • 写真:三菱鉛筆「クルトガ」

    2008年 三菱鉛筆「クルトガ」

    グリップの握り方や芯の出し方でなく、芯自体に着目したシャープペンシル。その着眼点やメカニズムの新しさから、クルトガは小学生の7割が持つほどの大ヒットとなった。他社はこれに対抗する製品を次々と開発、今のシャープペンシルブームにつながった。
取材協力 高畑正幸さん
1974年、香川県丸亀市生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」全国文房具通選手権に3連続で優勝し「文具王」の座につく。文具メーカーのサンスター文具にて10年間の商品企画を経て、マーケティング部に所属。2012年にサンスター文具を退社後、同社とプロ契約を結ぶ。文具研究サイト「B-LABO」主宰。

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