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時代をつくった業界イノベーション物語

今や雑誌に付録が付いてくるのは当たり前。2001年に付録の基準が大幅に緩和されたことで付録のクオリティーが上がり、雑誌業界は付録競争を強いられてきた。しかし近年は「付ければ売れる」段階は過ぎ去った感もある。雑誌付録の過去と現在を追った。

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  • 時代をつくった業界“イノベーション”物語
  • 2016.09.01

[Vol.3] 雑誌の付録

付録の基準緩和を機に付録付き雑誌が増加

2001年に付録の基準が緩和され、サイズ、重量など従来の細かい規定が削除される。付録付きの雑誌は増加し、多種多様なアイテムが生まれた。2002年、ホビー誌『電撃ホビーマガジン』(現電撃ホビーウェブ)が付録にしたのは、バンダイ「ガンダム」のプラモデル用改造パーツだ。これ以降、マニア向けの付録が作られていく。数年後、『てれびくん』は、仮面ライダーの変身ベルトとコラボし、挿入するオリジナルメモリを添付。市販のおもちゃと組み合わせて使う“本物付録”は、子どものマニア魂をくすぐり雑誌は完売した。

雑誌業界に多大な影響を与えた付録といえば、宝島社の「ブランドアイテム」だ。有名ブランドとコラボレーションする形で、女性誌にポーチやトートバッグなどの付録を同梱。ブランドショップでは買えないレアものが、雑誌発売期間の1カ月限定で手に入ることから人気に火が付いた。2007年半ばには値下げを敢行。雑誌価格よりも価値あるクオリティーの高い付録で、2010年には『sweet』が100万部突破という記録を打ち立てた。

このころから各誌が宝島社を追随。毎号付録を付け、付録戦争が勃発する。女性誌の付録には、バッグ、衣類、アクセサリー、化粧品など、豪華な物品が増え、競争は過熱していく。だが、付録が常態化すれば読者の選択眼も厳しくなる。苦戦を強いられるなか、最近では、『なかよし』のステンシル、修正ペン、原稿用紙といった漫画家仕様の文具セットや、『週刊アスキー』のスマートフォンと近距離でデータ通信を行える液晶クリーナー付きNFCディスクなど、アイデア勝負の付録が生まれている。

情報が容易に手に入る今の時代、“ネット世代”には、付録が雑誌の重要な販促ツールであることは間違いない。だが、誌面の充実を願う“紙媒体”で情報を得る世代を置き去りにすることはマイナスだ。近年は、付録あり・なしの2バージョンを発行する雑誌も出てきている。次の一手をどう打つか――。各社の試行錯誤は続きそうだ。

  • 写真:てれびくん (小学館)「仮面ライダーW ガイアメモリ」

    2010年
    てれびくん (小学館)「仮面ライダーW ガイアメモリ」

    人気玩具、仮面ライダーの変身ベルトに挿入すると、サウンドが楽しめるガイアメモリのオリジナルバージョン。市販のおもちゃと組み合わせて使える“本物付録”と話題に。雑誌完売後も、ネット上でプレミアが付くほどの反響を生んだ。
  • 写真:なかよし (講談社)「まんが家セット」

    2013年
    なかよし (講談社)「まんが家セット」

    1954年創刊当初から、別冊付録のほか、カレンダーやしおりなどの付録を付けていた同誌。2013年には、ステンシル、修正ペン、原稿用紙、スクリーントーンといった実際に漫画家が使うような本格的な道具を同梱し、今年はさらにパワーアップ。
  • 写真:週刊アスキー (KADOKAWA アスキー・メディアワークス)「NFCディスク」

    2013年
    週刊アスキー (KADOKAWA アスキー・メディアワークス)「NFCディスク」

    画面クリーナーとしても使える、NFCチップ搭載のディスク。NFC機能搭載スマートフォンに近づけると、カメラが起動したり、好みのホームページが開いたりなど、事前に設定した通りにスマートフォンを動かすことができる。
取材協力 柴田 恭平さん
1984年、神奈川県生まれ。大学卒業後、図書館司書資格を取得し、慶應義塾大学図書館にて書庫管理業務に携わる。その後、本を作る側の世界に興味を持ち退職。公益社団法人全国出版協会 出版科学研究所にて出版物を調査・研究し統計などを掲載する業界誌『出版月報』の編集を行う。

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