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時代をつくった業界イノベーション物語

経済成長を背景に、合成洗剤は本格的な発売から約10年でせっけんの生産量を上回った。一方、河川の発泡などにより安全性を疑問視する声も生まれた。環境や安全への関心が高い消費者を納得させるべく、技術開発に注力した合成洗剤業界の歩みを追った。

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  • 時代をつくった業界“イノベーション”物語
  • 2017.06.01

[Vol.5]洗濯用合成洗剤

合成洗剤は1950年代半ば、電気洗濯機と共に家庭に普及した。それまで洗濯には主に粉せっけんが使われてきたが、30年ごろから高級アルコール系洗剤の製造が始まり、50年に初の石油系合成洗剤「ニューレックス」(当時、日本油脂)が発売される。水に溶けやすい合成洗剤は日本の噴流式洗濯機と相性が良く、瞬く間に市場が形成されるものの、多くの試練が待ち受けていた。

合成洗剤の主成分は界面活性剤だが、当時、主に使用されていたのが、30年代にドイツで開発された、石油を原料とするアルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)だ。40年代初頭、アメリカがABSの洗剤化に成功。ABS系合成洗剤は石油化学の発展に伴い、先進国で普及するが、50年代半ばからABSの環境負荷が問題視されていく。

日本では、河川や下水処理場で発泡現象が出始めた61年から、合成洗剤の安全性が疑問視されていく。発泡の原因はABSが土中や水中の微生物に分解されにくいという性質にあった。人体への毒性も取り沙汰され、学者の間では大論争が巻き起こる。消費者運動が活発化し、「賢い消費者なら粉せっけんを使う」といった風潮が生まれるほど、合成洗剤はダメージを受けた。

海外では60年代後半に新たな動きが活発化。界面活性剤を、ABSから微生物に分解されやすい直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)へと切り替えを図ったのだ。日本もそれに追従するが、次なる問題が浮上する。洗浄力を高める助剤、トリポリリン酸ナトリウム(リン)による水質汚染が発生し、日本の洗剤メーカーはリンの低減や削除への対応を余儀なくされた。

やがてライオンが、洗浄力を高めるためのアルファオレフィンスルホン酸塩(AOS)と酵素の活用に成功。79年にリンを低減した「酵素パワーの『トップ』」、翌年に洗浄促進剤ゼオライトを用いリンを除いた「無りんトップ」を発売する。大ヒットを生むと他社も追随。80年代には世界に先駆け、全てのメーカーでほぼ100%の無リン化を達成、合成洗剤は家庭用洗濯洗剤として定着する。

  • 写真:ニューレックス(日油 当時:日本油脂)

    1950年
    ニューレックス (日油 当時:日本油脂)

    日本初、石油系の弱アルカリ性合成洗剤。ABSを主体とし、従来のせっけんや高級アルコール系洗剤に比べて表面活性、浸透性に優れており、繊維工業や染色工業など広い分野で使用された。
  • 写真:ハイトップ(ライオン)

    1962年
    ハイトップ (ライオン)

    洗剤の泡が多ければ効果が高いと思われる一方、すすぎの泡がなかなか消えないという不満もあった時代に、泡コントロール洗剤「すすぎ時には泡が消える」という特性を打ち出した。
  • 写真:酵素パワーのトップ 無りんトップ(ライオン)

    1979年 酵素パワーのトップ (ライオン)

    1980年 無りんトップ (ライオン)

    環境への影響が問題視されていた当時、2製品を立て続けに発表。タンパク汚れを分解する“酵素”を配合することで洗浄力を高め、無リン化を実現した。各社、ABSからLASへと切り替えを図る中、独自路線を追求。界面活性剤にAOSを活用したことも画期的な試みだった。
  • 写真:コンパクト洗剤 アタック(花王)

    1987年
    コンパクト洗剤 アタック (花王)

    「1回の使用料を減らす=洗浄力が落ちる」というイメージを払拭(ふっしょく)するために、「バイオテックス」という独自開発の洗浄成分を強調。「バイオの力により、スプーン1杯で驚きの白さに」。これが当たり、合成洗剤の小型化が進む。
  • 写真:超コンパクト洗剤ハイトップ(ライオン)

    1988年
    超コンパクト洗剤 ハイトップ (ライオン)

    「トップ」が売りにしていたタンパク分解酵素に加え、脂質分解酵素を配合し、この酵素を「ハイテク酵素」と命名。従来製品とも他社製品とも差別化を果たし、小型化の波に乗った。
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    近年の主役はコンパクト液体洗剤
    エコブームが追い風に

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