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時代をつくった業界イノベーション物語

経済成長を背景に、合成洗剤は本格的な発売から約10年でせっけんの生産量を上回った。一方、河川の発泡などにより安全性を疑問視する声も生まれた。環境や安全への関心が高い消費者を納得させるべく、技術開発に注力した合成洗剤業界の歩みを追った。

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  • 2017.06.01

[Vol.5]洗濯用合成洗剤

近年の主役はコンパクト液体洗剤
エコブームが追い風に

80年代は、粉末合成洗剤の小型化も進んだ。かねてから中身を濃縮し、少量でも十分な洗浄力を発揮するよう性能が高められていたが、「少ない量でも十分汚れが落ちる」という訴求をすることが難しく、小型洗剤を発売するのに二の足を踏んでいた。

この状況を打破したのが、87年に花王が発売したコンパクト洗剤「アタック」である。「バイオテックス」という新たな洗浄成分が実現する「わずかスプーン一杯で驚きの白さに」というベネフィットをキャッチコピーとして全面に打ち出したことで、少量で十分という認識を消費者に浸透させ、小型洗剤の先駆けとして市場に受け入れられた。省エネ・省資源ムードも追い風となり、同品はそれまで圧倒的シェアを占めていた「無りんトップ」を追い抜き、1位の座を獲得。小型化への動きは活発化し、今やコンパクト洗剤は世界の業界標準になった。

2000年代には、部屋干し時の生乾きのニオイを防ぐ「部屋干しトップ」(ライオン)や、洗剤と柔軟剤を一つにした高付加価値商品も登場。そして10年代に入ると、合成洗剤の主流が「粉末」から「液体」へシフトする。それまで、液体は酵素や漂白剤といった配合成分の安定性を確保できず、洗浄力を重視するならば粉末が有利とされていた。そうした欠点を補う技術革新の先鞭をつけたのが、09年発売の超コンパクト液体洗剤「アタックNeo」(花王)だ。

粉末合成洗剤の小型化が進んだ際、業界では少量でも洗浄力を発揮する非イオン系界面活性剤を用いる傾向にあった。花王は液体化に当たり、低温でも固まらない新活性剤「アクアWライザー」を開発。従来の活性剤より水性部が大きく、汚れに素早く吸着し乳化しながらも、活性成分自体は繊維に吸着しにくい。高い洗浄力を維持しつつ泡切れ良く仕上げ、「すすぎ1回」を可能にした。翌年にはライオンが、「トップNANOX」を発売。液体洗剤はエコブームを背景に、市場の主力製品へと成長する。

近年は、香り、除菌、漂白など新たな高付加価値商品が誕生、差別化が難しくなっている。合成洗剤が洗濯機と共に普及したことを思えば、洗濯機の著しい進化にも新たな切り口を見いだすヒントがありそうだ。

  • 写真:部屋干しトップ (ライオン)

    2001年
    部屋干しトップ (ライオン)

    “洗濯物は部屋に干す”という洗濯行動に着目した、生乾きのイヤなニオイを防ぐ高付加価値商品。部屋干し臭の正体を解明し、汚れと菌の両方に効果的な新酵素を活用。
  • 写真:柔軟剤入り洗剤ボールド 粉末(P&G)

    2002年
    柔軟剤入り洗剤 ボールド 粉末 (P&G)

    洗剤と柔軟剤を一つにした画期的な製品として誕生。「白く、柔らかい洗い上がり」を実現させた。男性俳優やスポーツ選手を起用するという斬新なCMも注目を集め、ヒット商品に。
  • 写真:超コンパクト液体洗剤アタックNeo(花王)

    2009年
    超コンパクト液体洗剤 アタックNeo (花王)

    1本400gで、従来の液体洗剤1kgと同じ回数を洗える濃縮液体洗剤。泡切れの良い洗浄成分で、すすぎ1回を可能にした。エコムードの中、節水・省エネできるとして受け入れられた。
  • 写真:MEE配合超コンパクト液体洗剤 トップNANOX (ライオン)

    2010年
    MEE配合超コンパクト液体洗剤 トップNANOX (ライオン)

    高い洗浄力を持つ植物由来原料MEE(メチルエステルエトキシレート)を活用。洗濯後のニオイ残りの原因となる皮脂成分を“ナノレベル”まで落とす「ナノ洗浄」で、新たな液体洗剤を訴求した。
  • 写真:ジェルボール型洗剤アリエール パワージェルボール(P&G)

    2014年
    ジェルボール型洗剤 アリエール パワージェルボール (P&G)

    洗濯1回分のジェル状洗剤が水に溶けるフィルムに密封された洗剤で、第3の洗剤として注目を集める。計量不要で洗濯槽に1粒ポンと入れるだけ。2016年にはさらに進化した「ジェルボールS」を発売。
取材協力 大矢 勝さん
1957年、兵庫県生まれ。横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、学術博士。洗浄と洗剤の科学、環境と安全の消費者情報を専門とする洗剤のエキスパート。洗剤などの環境・安全に関連した消費者教育の活動にも積極的に関わる。著書に『図解入門よくわかる最新洗浄・洗剤の基本と仕組み』などがある。

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