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トップ > ITのチカラ [Vol.16] 食品ロス削減のためにITが果たす役割 > P2
食料自給率の低さと食品ロスの大量発生は大きな社会課題だ。世界の人口が増加し食料需要が高まる中、食料の確保が困難になることも予想される。SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みという観点でも食品ロス削減は必須だ。そこでITが果たす役割について、みずほ総合研究所の堀 千珠さんに話を聞いた。
今回のポイント
ソリューションレポート
――事業系食品ロスの削減に向けた取り組みについて教えてください。
政策面では、2001年に施行された「食品リサイクル法」に基づき、政府が事業者に対して食品ロス削減に向けた努力や報告を求めてきました。事業者側も、例えば食品メーカーが商品を食べ切りやすいサイズにするといった工夫を重ねてきています。
事業系食品ロスの削減に向けては、食品業界の商慣習の見直しが少しずつ進んでいます。特に注目されているのは「3分の1ルール」の見直しや賞味期限の年月表示化です。
3分の1ルールとは、主に常温で流通する加工食品について、「賞味期間の3分の1を過ぎたものは食品小売業者が仕入れない」という商慣習で、主に大手チェーンが採用しています。この商慣習があることで、賞味期間の3分の1を過ぎた商品の販売先が限られてしまいます。
食品小売業者は賞味期限に近い商品を販売することに抵抗を感じ、ルールの見直しに消極的なケースが多いといえます。しかし、大手チェーンがこのルールを見直し、より長く店頭で販売できるようにすれば、食品メーカーや卸売業者による廃棄が減るでしょう。
賞味期限の年月表示化とは、食品メーカーが商品の賞味期限の表示を、「年月日」から「年月」に切り替えることを指します。賞味期限が異なる商品を店頭に並べると新しい商品ばかりが先に売れ、期限がより早く到来する商品が残って食品ロスが発生しやすくなるという問題点があります。年月表示化はこのような問題を解消できるだけでなく、小売業者が商品を管理しやすくなるというメリットもあるのです。一方、食品メーカーにとっては賞味期限を印字する機械の変更にともなう設備投資が必要であり、パッケージ変更にともなうコスト負担が生じるというデメリットがあります。
政府も2012年にワーキングチームを設けて、商慣習見直しを後押ししており、食品メーカー・小売業者による今後の対応拡大が期待されます。
――食品ロス削減に向けてITはどのような役割を担うことが期待されているのでしょうか。
小規模なIT活用の事例は増えてきています。例えば飲食店で急にキャンセルが発生した場合、その料理を飲食店がアプリ経由で販売できるサービスがあります。消費者は安く料理を買えますし、食品ロス削減にもなるわけです。この他、飲食店や小売店と農水畜産業者の適時・適量取引を仲介するオンラインサービスを手掛けるベンチャー企業もあります。飲食店で食材が足りなくなったときなどに、卸売市場を経由することなく農水畜産業者と直接マッチングさせるのです。適時・適量取引もまた、食品ロス削減につながります。
こういった課題解決型の小さく立ち上げるビジネスはユーザーニーズに対応した設計にしやすく、ITの強みが生かしやすいといえます。さらに今後は、中小規模のチェーン店や個人経営の飲食店・小売店などが、新たな顧客開拓、生産者とのコミュニケーションに基づくメニュー・商品開発の実現、決済の簡便化などでITを活用する段階に入っていくでしょう。低コストで使いやすいサービスの登場や、政府による実証実験の機会提供などにも期待したいところです。
今後の食品流通全般についていえば、売れ行きの分析や需要予測をベースにした生産・配送の計画にITが活用できるのはもちろん、加工食品なら原料の供給状況と製品需要のデータを突き合わせた上で無駄のない生産計画を立てるといったことも可能です。
農産物の流通効率化に向けては、生産・流通・販売段階のデータを食品関連事業者や農水畜産業者の間で共有する「スマートフードチェーン」の構築に向け、IT企業、関係省庁、大学・研究機関等を交えて検討が進められています。もっとも、現状では食品メーカー、卸売業者、小売業者、農水畜産業者それぞれが異なるシステムを利用しており、システムごとにデータ形式も異なるため、データを共有してスマートフードチェーンを実現するにはいくつもハードルがありそうです。まずは主要取引先同士で情報共有を進めることが、食品ロス削減に向けたステップになるでしょう。
食品ロス削減の取り組みを進めると、ビジネスモデル効率化のために必要な対応が浮き彫りになることが少なくありません。食品ロス削減そのものを目的にするのではなく、ITによる効率化を進めることが食品ロス削減につながるという視点を持つことが重要です。経営者も頭の切り替えを求められているといえます。