写真集制作レポート

第1回SHINESに入選した8名が、いよいよ写真集を制作していきます。写真を「撮る」こと、「選ぶ」こと、そして「写真集」という本に仕上げること。それぞれに別の視点が必要です。「写真」から「写真集」へ。その制作過程は自問自答の連続でした。少しずつゴールを見出していく彼らの一部始終をレポートします。

個別ミーティング/
Photographer アバロス村野敦子氏 Vol.2

3rd meeting

アバロス氏は、ダミーブックを繰り返し作成しているときから、学術的視点に寄ったサイエンスアートブックにすべきか、写真家視点の写真集にすべきか悩み、ダミーが作りきれなかったと言います。

打ち合わせを重ね、「フォッサマグナとは何か?」を説明するような学術的視点ではないことを改めて町口氏と共有しました。フォッサマグナの上にある東京での暮らしの一面や、アバロス氏の夫であるカルロさんとの関係性がわかる写真を写真集に差し込むことにより、「写真家」としてのアプローチを考えていきます。

カルロさんの漢字の練習帳を撮影したイメージに着目した両氏。カルロさんの文章を写真集に繰り返し入れるアイデアを思いつきます。そして町口氏から、フォッサマグナの「露頭」が立ち現われるように写真を散りばめ、あいだのスペースに文章を入れてはどうか、と提案されます。アバロス氏も写真集を制作する上でカルロさんとの関係を「アーティストユニット」のようだと考えていることもあり、カルロさんの文章を活かす方向に舵を切りました。

また、写真集を2019年のパリフォトで販売する、という目標を設定。写真集制作は軌道に乗り始めます。

4th/5th meeting

アバロス氏の夫であるカルロさんは、脈絡がないように思えるものも含め72篇におよぶ英語の文章を提出します。それらはフォッサマグナに関連するものだけではなく、2人を俯瞰したものや、今まで気にも留めずにいた、隠された日常など、シークエンスにも捉われていない内容でした。

町口氏は文章を読み込み、写真集に散りばめました。「脈絡がないように感じるが、それは無意味の中に意味がある」と町口氏は言います。タイトルもカルロさんが書き綴った文章の中から拾い上げて、融合することにより「Drifting across the sea, Searching for a place to belong. Finding a new home, And calling it their own. Just like the Fossa Magna, Years gone by, Layer by layer, Unseen, but to be known.」に決定しました。

この時点でパリフォトまであと1ヶ月を切っていたため、現場は迅速に行動。紙の選定、表紙、奥付などを次々に決めていきます。そんな中でも表紙にはこだわりました。地層や地質を表現したいと考え、ざらざらとした手触りの布にシルクスクリーン使った方法を検討。カバーも3色用意して比較しました。時間との戦いの中、急ピッチに制作を進めます。

なんとかパリフォトに持っていくことができた写真集。アバロス氏はbookshop Mのブースで、自分の言葉で作品を説明、それが販売に繋がったことで、「『この本を必要としてくれる人の手元に正しく届けることができたのではないか』と感じている」と言います。

世界最大のマーケットで販売することができたアバロス氏。「写真集は写真家にとってのパスポート」という町口氏の言葉をあらためて噛み締めながら、今後の活動につなげていくことを誓いました。