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トップ > 特集 「売れない時代」の処方箋 “買う”と決める、そのココロ > P2
人が商品やサービスを「買いたい!」と思うとき、そこにはどのようなメカニズムが働いているのだろうか。 売り手はどのようにしてそれに働き掛けていけばいいのだろうか。「モノが売れない」といわれるこの時代に人々の購買意欲を促す方法を探る!
「商品が売れない」といわれるこの時代。消費者の心をつかみ、購買行動を促すにはどうすればよいのだろうか。脳科学、デザイン、若者研究のそれぞれを専門とする3名に集まってもらい、現在の消費者の心理を読み解く視点や、マーケティングに求められることについて語り合っていただいた。
──多くの業界で「商品が売れない」というのが合言葉のようになっています。その本質的な理由とは何なのでしょうか。
原田
シンプルに、製品が飽和しているということですよね。成熟社会の一つの特徴ということに尽きると思います。このような時代には、モノ以外の方が差別化しやすくなります。それゆえに、コトの体験価値が重視されているということではないでしょうか。
例えば、最近は映画館に行く若者が以前よりも増えています。もちろん面白い作品が増えているということもありますが、3Dや4DX、あるいは、登場人物に声援を送ったりコスプレをしたりしながら鑑賞できる「応援上映」など、映画館でしか体験できない工夫が凝らされているという要因が大きいと思います。
加藤
購買とは、「満たされていないものを手に入れる」ということです。かつてその対象の多くはモノでしたが、原田さんがおっしゃるように、日本が成熟社会を迎えたことで、それがコトに変わってきたということなのだと思います。
売り手の立場に立つと、コトを提供する場合は、常に新しい刺激を加えていかなければなりません。人間の脳は、同じ刺激に対しては反応が小さくなるからです。同じことの繰り返しでは飽きてしまうわけです。いかに新鮮な刺激を与え続けられるか。それがコトを提供する場合のポイントになると思います。
──先ほどのUSJの話ともつながるご指摘ですね。デザイン面ではコトをどう演出できるのでしょうか。
色部
デザイナーの立場から言うと、「どこにも手を抜かない」ということが何より大切だと思います。体験とはトータルなものだからです。例えば、旅館をリニューアルする場合は、内装などの見た目だけでなく、部屋の清潔感、シーツや布団の触感、のれんの色、あるいは館内の匂いなど、あらゆる要素に目を行き届かせなければなりません。要素の重要性に強弱はあったとしても、どの要素にも手を抜かないことが体験の質を上げることにつながる。そう考えています。
──それぞれの専門分野から、消費者の購買心理をつかむためのアドバイスをいただけますでしょうか。
原田
若者は人口上のボリュームゾーンではなくなっているので、若者をターゲットにしている商品自体が非常に減っています。その結果、現代の若者たちは「自分たちは世の中の中心にはいない」という一種のマイノリティー意識を持つようになっています。
これはマーケティングの観点から見れば、実はチャンスだともいえます。本気で若者をターゲットにした商品やサービスをつくれば、若者も本気でそれを受け入れてくれるからです。こんな時代だからこそ、実は「若者狙い」には大きな商機がある。そう私は思っています。
加藤
マーケティング戦略を立案する場合、いろいろなデータを見たり、個別のヒアリングをしたりするわけですが、そこから表面的な事象だけでなく、消費者の無意識を読み取る作業が今後はますます重要になると思います。そこから、いかに無意識に届くプランニングや商品開発ができるか。無意識に届くということは、感情や感覚を刺激するということです。やはり「エモーション」がこれからのマーケティングの一つのキーワードになるのではないでしょうか。
色部
その商品やサービスや場所にどれだけ独自の「存在理由」があるか。そんな視点が大切だと思います。消費者は存在理由があるものとの出合いを求めているし、売り手や作り手の側も、確かな存在理由のあるものを届けることで、自分たちの仕事に誇りを持てるようになります。売る側の「誇り」が購買する側の「憧れ」と結び付いて、そこにそれまでになかった体験が生まれる。そんな関係がつくれたら素晴らしいと思います。