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トップ > Cのキセキ Episode.24 「CMOS SENSOR」 > P3
デジタルカメラの分野で長年高い支持を得ているキヤノンは、そのキーデバイスである撮像素子「CMOSセンサー」のメーカーでもある。これまで自社製品のために開発・生産してきたキヤノンだが、その販売をついにスタートさせた。その狙いはどこにあるのだろうか。
デバイス開発本部の井上と小泉は、そうした問いに対し、現在キヤノンが注力している三つの方向性を挙げた。
その一つ目は「超多画素」だ。キヤノンはすでに産業用に約1億2000万画素のセンサーを製品化しているが、その先には約2億5000万画素の商品化も見据えている。
「『EOS 5Ds』には約5060万画素のCMOSセンサーを搭載していますが、その実現には一つひとつの画素が微細化しても光を十分に捉え、その大量の信号を高速に処理する技術が詰め込まれています。それらをもう一段進化させたことで超多画素センサーが実現し、さらにその先を見据えた開発を続けています」
二つ目の方向性は「超高感度」だ。最近のデジタルカメラもISO感度が向上して、暗い所でもきれいな写真が撮れるようになっているが、産業用ではISO感度が400万相当にもなる超高感度センサーを販売している。
「人間の目では暗闇としか思えないほど光の少ない環境でもカラーで撮影できる超高感度センサーは、天体観測用の巨大CMOSセンサーで培ってきた技術があるからこそ実現した製品です。取り込む光の量を増やすだけでなく、フォトダイオードの構造も工夫して光から変換した電子を流れやすくするなど、生産工程も含めて最適化したことで実現しました」
三つ目の方向性は、一般的なCMOSセンサーで高速で動く被写体を撮影すると生じてしまう歪みを防ぐ「グローバルシャッター」機能だ。CMOSセンサーは通常、格子状に並んでいるフォトダイオードからの信号を一行ずつ順番に読み出す。上下の行で信号を読み出すタイミングに差が生じるため、走行中の電車や飛行機のプロペラなど高速で動いているものを撮影すると画像が歪んでしまう。
「そこで、CMOSセンサーの中に光を受けるフォトダイオードからの信号(電子)情報を収める、光が遮られた控室のようなスペースを作り、いったん全ての信号を同時にそこに収めてから読み出す構造にしました。実際に読み出すのは一行ずつですが、同じタイミングで控室に収めた信号ですから、光を受けている時刻の差は生じません。こうすることで歪みのない画像が撮影できるようになるのです」
どの製品においても、開発から製造まで、全ての工程を長年にわたって自社で行ってきたからこそ実現できたものだと、井上と小泉は口をそろえる。
「CMOSセンサーの販売においては、われわれはチャレンジャー。ライバルと同じことをしてもその先に道はありません。"突き抜けた技術"でこそ、新しい市場を切り拓いていけると考えています」
CMOSセンサーの性能を向上させる手法-1
多画素化・高感度化には、画素間の幅を狭くする、回路を微細化して取り込む光の量を増やす、回路の構造を工夫してマイクロレンズからフォトダイオードまでの距離を短くするなどの方法があるが、いずれも実現には設計だけでなく高い生産技術が求められる。
CMOSセンサーの性能を向上させる手法-2
超高感度センサーでは、フォトダイオード内に階段状の構造を作り込むことで光から変換された電子を流れやすくし、大きな画素でも効率よく情報を読み出せるようにしている。段の数や形状、角度などの組み合わせを膨大なシミュレーションを経て最適化した。