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サステナビリティがもたらすインパクト

近年、「サステナビリティ」という言葉に注目が集まっている。企業経営においても、この地球規模のメガトレンドを理解し、戦略的に取り組まなければ生き残れない時代がやってきた。社会課題がビジネス課題に直結する今、社会と企業が共に持続的に発展していくにはどのような考えが必要なのか。サステナビリティの視点で取り組みを進める企業の例などからヒントを探る。

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  • 2021.06.01

サステナビリティがもたらすインパクト

general remarks長期的視点と存在意義の再定義でサステナビリティ経営を実現

過去20年ほど、日本企業ではCSR※1(企業の社会的責任)の重要性が語られてきた。しかし近年、経営におけるCSRの位置付けが大きく変わり、「サステナビリティ経営※2」という考え方が主流になりつつある。この新しい取り組みの目的と手法について、野村総合研究所の伊吹英子さんに聞いた。

※1 CSR:企業活動において社会的公正や環境などへの配慮を組み込み、従業員、投資家、地域社会などの利害関係者に対して責任ある行動を取り説明責任を果たすこと

※2 サステナビリティ:持続可能性。サステナビリティ経営とは社会の持続可能性に配慮した経営のこと

なぜ、サステナビリティ経営への取り組みが急務なのか

写真: 伊吹 英子さん 伊吹 英子(いぶき えいこ)
野村総合研究所(NRI)、経営DXコンサルティング部 サステナビリティ経営・組織変革グループ グループマネージャー。1998年にNRI入社。2000年以降、サステナビリティ(CSR/ESG/CSV)経営に関する戦略構築と実行支援、財務・非財務を統合した経営管理制度構築、ESG情報開示支援などのコンサルティングに従事。

「サステナビリティ経営」とは、経営戦略に「長期性」「社会価値」という二つの観点を組み込み、企業の持続的な成長を目指そうというものです。

事業展開をする上では、どうしても目先の売り上げや利益などの短期的な目標を掲げて回していく方向にベクトルが向きがちです。しかし、急激に外部環境の変化が進む中、短期的利益を追求する過度な資本主義への懐疑性も高まっており、今一度、もともと日本企業が持っていた"三方よし"という高い志や長期志向の企業風土に立ち返る必要があるでしょう。

従来のCSRは、財務的な成果を強く意図すれば、その結果として社会的な価値も表れてくるという考えが主流でした。しかし、企業を取り巻くステークホルダー、とりわけ投資家や株主、ミレニアル世代の社会的貢献価値への意識が高まっている現在、企業には経済価値と社会価値を同時に追求していく姿勢が問われています。そのためには、社会価値の創出をビジョンや理念として掲げ、それを具体的に経営の仕組みに落とし込んでいくプロセスが欠かせません。

今、多くの企業がサステナビリティ経営を目指している背景には、社会課題に対する国際的な規制の強まりや枠組みの整備が進展し、世界規模での外部環境の変化が否応なしに変革を求めているという実情があります。きれいごとではなく、「やらないと生き残れない」のです。一方で、成長に向けた戦略の一つとしてモチベーションを上げるためにやるという、ポジティブな意味にも捉えられるでしょう。

「時間軸のズレ」を乗り越えるのが成功の鍵

サステナビリティといっても、一企業で世界の全ての課題を解決できるわけではありません。いわゆる「マテリアリティ※3」を特定しておく必要があります。

サステナビリティ経営を実現するプロセスとして、現在、多くの日本企業が共通して取り組んでいる、1枚目の図のようなアプローチがあります。

マテリアリティの特定は、将来における持続的成長を実現するための事業の戦略的視点から重要な要素であり、まさに経営や事業そのものとなるため、経営層が議論していくべきです。このとき、事業部門と人事や総務などの機能部門を巻き込んで、業界周りの未来予測を含む社会動向を見据え、自社でやらなければいけないこと、やりたいこと、できることを洗い出します。自分たちの強みを見直しながら対話を重ねるうちに、価値創造ストーリーが見えてくるはずです。そして、特定したマテリアリティを10年、20年越しのビジョンや経営計画に組み入れ、財務・非財務一体となったPDCAを回すべく、KPIも財務・非財務の双方で設定し、それを内外でコミュニケーションしていきます。このサイクルが循環すれば、サステナビリティの概念が経営の根幹に組み込まれ、持続的に成長できるでしょう。

しかし、ここで問題になるのが「時間軸のズレ」です。社会価値を経営に組み込む際に、短期的にはコストとなる場合でも、長期的には社会にとっても自社の事業の成長にとっても必要だという視点に立ち、取り組みを維持・継続していく体制を構築しなくてはなりません。この、時間軸のズレを乗り越えられるかどうかが、最も難しい点といえるでしょう。

サステナビリティ経営の進化のステップを順調に上っている企業の特徴は、経営層のリーダーシップがはっきりしているという点です。日本では、理想像としてはあるものの、実際に成功している企業はあまりなく、意志を持って進めるようになるには、まだ数年かかるでしょう。

もっとも日本は、ボトムアップ型の企業が多いため、情報共有したり外部環境の変化について討議を重ねたりしていくうちに、経営層の意識が変わっていくケースも珍しくありません。一度腹落ちすれば経営層も「この状況なのでやるしかない」というモードになり、経営や事業に落とし込むフェーズに移行できます。経営層の理解が得られない場合でも、諦めずに取り組む姿勢が重要です。経営・事業とサステナビリティの一体化のアプローチは、半年そこそこで実現できるものではありません。数年かけてステップを上っていく覚悟が必要になります。

※3 マテリアリティ:社会課題に対し、企業が優先して取り組むべき重要課題

サステナビリティ経営の進化のステップ

図:サステナビリティ経営の進化のステップ

社員一人ひとりとの「対話」が欠かせない

サステナビリティ経営を推進するには、事業を通じて社会価値を生み出していく「攻め」の機能と、人権尊重やコンプライアンスといった「守り」の機能を切り分けて考えるのもポイントです。

従来は、両者を一緒に考えるケースも多くありましたが、前者は将来に向けた課題として事業部門が考え、後者は機能部門が考えるといった切り分けを行えば、サステナビリティと経営・事業のスムーズな融合が可能です。

「攻め」と「守り」のバランスは、大手企業と中小企業では変わってきます。中小企業は企業体そのものが社会性を帯びていて、大手企業にはない「攻め」の強さを持っています。半面、「守り」が順守されていないケースも見られるため、この点には注意が必要です。

また、今後は自社だけで解決しようとせず、同じ目標に向かって競合他社と連携するという観点も必要になってくるでしょう。そういう点でも、中小企業はスピーディーに対応でき、外部と連携しやすいというアドバンテージがあります。

経営の仕組みづくりと並行して、社員の意識浸透に対する取り組みも必要です。その際に重要なのが「パーパス※4」という考え方です。一人ひとりが自分の仕事の意義について考え、何らかの形で社会に貢献しているという具体的なイメージを持つことができれば、組織的な展開もよりスムーズに進むでしょう。

人が仕事で成し遂げたいと思うことと、生きていく中でやりたいことは、必ずしも同じではありません。しかし、両者の重なる部分が大きいほど、仕事へのモチベーションは上がります。現状は、仕事とプライベートを分けて考えるケースが一般的ですが、両者の接点を見いだすことができれば、企業にとっても従業員にとっても大きくプラスに働きます。

ある企業では、従業員との1on1で「あなたが人生で成し遂げたいことは何か」「それを、この会社での仕事を通じてどのように実現できそうか」と、定期的に問い掛けているといいます。このように積極的に「対話」の場を設けることも、サステナビリティ経営の実現に向けて欠かせないステップといえるでしょう。

※4 パーパス:その企業や組織が何のために存在するのかという社会における確固たる存在意義

「攻め」と「守り」を切り分ける

図:「攻め」と「守り」を切り分ける

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