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サステナビリティがもたらすインパクト

近年、「サステナビリティ」という言葉に注目が集まっている。企業経営においても、この地球規模のメガトレンドを理解し、戦略的に取り組まなければ生き残れない時代がやってきた。社会課題がビジネス課題に直結する今、社会と企業が共に持続的に発展していくにはどのような考えが必要なのか。サステナビリティの視点で取り組みを進める企業の例などからヒントを探る。

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  • 2021.06.01

サステナビリティがもたらすインパクト

ケーススタディ3
「教育」と「関わり」を通じて交通事故をなくす
広沢自動車学校

消費者庁主催の令和元年度「消費者志向経営優良事例表彰・内閣府特命担当大臣表彰」を受賞した、徳島県の広沢自動車学校。自動車学校の枠にとらわれず、継続的に顧客に寄り添う姿勢は、人口減少社会における地域密着企業のサステナビリティ経営として高い評価を得ている。

広沢自動車学校
写真: 祖川嗣朗さん 祖川嗣朗(そがわ しろう)
株式会社広沢自動車学校
代表取締役社長

命を大切にするドライバーの育成を使命と考え、きめ細かなコミュニケーションで顧客との信頼関係の構築に注力する広沢自動車学校。日本一心温かい自動車学校を目指すという「広沢母校」を理念に掲げ、在校中はもちろん、卒業後も関わりを継続し、安全意識の向上に取り組んでいる。代表取締役社長の祖川嗣朗さんは次のように語る。

「本来、自動車学校に求められる役割は、運転免許取得に向けてのサポートでしょう。しかし、広沢自動車学校では、『安全運転教育によって交通事故をなくすことに寄与すべき場所』と捉えています。交通事故のほとんどは、安全不確認や脇見運転などが原因で、運転技能不足というより、心や意識の問題です。私たちの最終目標は、入校者への精神的・人間的成長の支えによる『交通事故ゼロ』の実現です。そのために何ができるのか。その答えを全員で考え、本気で取り組んでいます」

消費者志向経営を進める同校が、この最終目標を実現するために特に大切にしているのは、相手の立場に立ったコミュニケーションだ。教習は「心の共育」の精神で温かなフォローを心掛け、ハンドルを握る責任を自覚してもらう。また、SNSやダイレクトメールで不安なこと、困っていることをヒアリングし、全スタッフで共有して改善に努める。さらに、入校者の多くは十代の若者ゆえ、本人だけでなく保護者も含めて顧客として捉えて交流している。保護者には定期的に電話をして、卒業後も運転状況をヒアリングするなど、関係を維持し続ける。

こうした独自の施策はいずれも体系立てて可視化して、行動へとつなげている。例えば、最重要KPIに"卒業後1年以内の交通事故率の減少"を掲げ、同校の大きな目標としている。

また、スタッフ間でのコミュニケーションも重要視しており、全体会議の開催や、社内ネットワークを活用して対話の機会を充実させるなどしている。

「会社や社会をより良くしていくために何ができるか、個々の立場で考え、大切な想いは伝え合う。またその都度スタッフに顧客の声を届けることで、自らの取り組みがいかに社会に役立っているかを伝えています。小さな組織だからこそ声を届けやすいし、想いを共有しやすい。それがわれわれの強みです」

地域密着企業である広沢自動車学校にとって、経営理念や自社の社会的貢献価値を"揺るがない軸"として持ち続けると同時に、社会の変化に鑑み、時代に即した新たな挑戦も必要だという。

「"変えないもの"と"変えていくもの"を明確にし、社内外に発信し共感してもらうことが重要だと思います。それが、企業と社会の持続性につながると考えているからです」

  • 写真: 広沢自動車学校 イベントの写真「教習所はサービス業」という考えの下、どうしたら顧客の運転スキルが上達し、交通事故ゼロを実現できるかを考えた結果、「顧客に楽しんで教習してもらう」という答えに。「広沢母校」として心に残るイベントも季節ごとに開催(コロナ禍により現在は中止)
  • 表:広沢自動車学校独自の施策例 広沢自動車学校独自の施策例

ビジネスパーソンが今読みたいこの1冊

「本物」の
サステナビリティ経営を指南
画像: SXの時代(書影)

SXの時代
究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営

PwC Japanグループ 坂野俊哉・磯貝友紀 著
日経BP

環境・社会課題解決への貢献によって企業価値の向上を目指すサステナビリティ経営の重要性が一段と高まっている。日本企業は、国際社会や投資家の要請に基づき、これまでもCSR(企業の社会的責任)、CSV(共通価値の創造)、ESG(環境・社会・ガバナンス)などの切り口でサステナビリティに取り組んできたが、利益にあまり結び付かないと考え、競合他社と横並びの活動になる傾向ではなかっただろうか?

本書はそうした、「やらされサステナビリティ経営」を脱し、「本物」のサステナビリティ経営への変革「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」を提唱する。「本物」のサステナビリティ経営がなぜ必要なのか、それをどう実現していくのかなどの解説は、明晰なロジックと豊富な事例に基づいており、納得感がある。

著者は「環境」「社会」「経済」の三要素が今、かつてないほど重なりあっており、「環境」や「社会」が毀損すれば、「経済」も成り立たなくなると指摘する。新しい時代に力強く成長するには、自分たちの意志による未来志向型のSXへの移行が不可欠だとしている。

SXの実現で重要視するのが、経済価値と環境・社会の価値を同時に高める「トレードオン」の発想であるとも語っている。環境・社会課題への取り組みは、経済とのトレードオフになるのではなく、斬新な発想やイノベーションを生む機会になると位置付け、トレードオンを阻む壁に関する分析、トレードオンを実現する企業や事業についての豊富な事例紹介を行っている。

本書は見せ方にも工夫を凝らす。序章ではクイズ形式で、自社のサステナビリティ経営が「本物」かどうか、本物ではない場合に何が足りないのかが分かるようになっている。

第10章は、丸井グループの青井 浩氏(代表取締役社長)、サントリーホールディングスの新浪剛史氏(代表取締役社長)など先進企業8社のトップ・役員インタビューに割かれている。トレードオンについての回答も含まれており、ここから読み始めるのも良いだろう。

著者の坂野俊哉氏と磯貝友紀氏は共にPwC JapanグループのコンサルタントとしてSXの支援を行っている。

(評・日経BP総合研究所 上席研究員 干場一彦)

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