カテゴリーを選択

トップ > ITのチカラ [Vol.20] DX推進に不可欠な「データマネジメント」への取り組み > P1

ITのチカラ Vol.20 DX推進に不可欠な「データマネジメント」への取り組み

企業の持続的成長のため、いまや不可欠ともいえるDX(デジタルトランスフォーメーション)。多くの企業では、DXを支える取り組みとして、データの収集や分析などのデータマネジメントにも力を入れる動きが加速している。データマネジメントを推進する上で企業が抱える課題と解消のための施策について、法政大学ビジネススクールの豊田裕貴さんに聞いた。

  • Twitter
  • Facebook
  • ITのチカラ
  • 2021.06.01

[Vol.20]DX推進に不可欠な「データマネジメント」への取り組み

業務の省力化だけがDXの目的ではない。その先にある「変革」を目指す

写真:豊田裕貴 さん 「データを集め、そこからどんな知見を引き出すのか。それを考えるのは、コンピューターではなく人間です。」 法政大学ビジネススクール
イノベーション・マネジメント研究科
教授
豊田裕貴 さん
法政大学大学院博士課程修了。博士(経営学)。リサーチ会社およびシンクタンクでの研究員を経て、多摩大学経営情報学部に助教授として着任。同学部および大学院教授を務め、2015年より現職(法政大学ビジネススクール教授)。専門はマーケティングサイエンス、ビジネスデータ分析。

――日本企業のDXの現状について、どう見ていますか。

新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受け、業務のオンライン化や電子決済の利用など、デジタル化を進めた企業は多いと思います。しかし世界に目を向ければ、コロナ禍に見舞われるよりずっと前からDXに取り組んでいました。日本企業はDXにおいて世界の中で遅れをとっているというのがコンセンサスになっています。「日本企業もデジタル化には積極的に取り組んできた」という声もありますが、DXの本質は「デジタル化」ではなく「トランスフォーメーション(変革)」です。デジタル化により変革を起こしたといえる企業はまだまだ少ないのではないでしょうか。

DXというとよく登場するキーワードに「省力化」があります。確かに省力化を進めることは重要であり、DXの目的の一つではあるでしょう。しかし、省力化だけを目的にするのではなく、その先に「変革」を目指すことが重要です。例えばデジタル技術の活用で、新たな顧客接点や、顧客の声を的確に収集・分析して新たな商品やサービスを創出できれば、それらも「変革」といえるでしょう。

日本企業はコロナ禍の中で「DXを進めざるを得ない」状況に置かれています。「仕方なく取り組んでいるがパンデミックが落ち着けばオンライン会議も減るのでは」などと考えている人も少なくないでしょう。DX化を不可逆なものとする仕組みづくりが重要です。また、その取り組みを単なる省力化で終わらせては、日本企業のDXは世界からさらに遅れをとることになります。DX推進を不可逆かつ自由な発想から取り組むことを認める経営陣の理解も必要です。

データマネジメントはデータ活用によって何を実現するかが重要

――DX推進には、まずデータマネジメントが必要だといわれます。その基本的な考え方について教えてください。

データマネジメントは、料理に例えて考えると分かりやすいと思います。料理は、まず素材を準備し、それを調理することで完成します。データマネジメントでは、素材の準備がデータの収集、調理がデータを適切に管理して活用することだと考えることができます。

大事なのは「誰に向けてどんな料理を完成させるのか」です。それをイメージしないまま、素材の準備や調理をしても意味がありません。どんなに良い素材で料理をつくっても、その素材が嫌いな人には喜んでもらえないでしょう。データマネジメントでも最初に考えるべきは「"誰"の"どんな課題"を解決したいのか」ですが、このことが後付けで考えられてしまうことが少なくありません。

データの活用によって何ができそうかを考えるには、DXで先行する事例などを知ることが必要です。世界にどのような料理があるのかを知らなければ、「こんな料理をつくりたい」とイメージすることは難しく、どんな材料を用意すべきか分からないでしょう。まず他社事例を学ぶことで、データ活用によって実現したいことを具体的にイメージできるようになり、その上で「自社にどのようなデータがあるのか」「足りないデータは何か」「それをどう補うのか」といったことを考えていくのが、データマネジメントの基本といえます。日本はDXにおいて世界から遅れてはいますが、逆に見れば先行事例が多くあるということです。そこから学んで追い付くチャンスだと捉えることもできるでしょう。

適切にデータマネジメントを行ってDX推進につなげていくには、多くの人が持っている「データへの誤解」を解いておくことも必要です。データと聞くと「コンピューターに入力すれば結果を導き出してくれるもの」とイメージする人が多いと思いますが、データを読むには主観が求められるのです。

例えばMBAでケーススタディを学ぶとき、企業の成功事例や失敗事例を読み、より良い結果を導くにはどうすべきだったかを議論して新たなストーリーを考えます。これと同様に、データが示す過去の事実も、主観を持って想像力を働かせ、考えながら活用する必要があるのです。「どのようなデータを集めて、そこからどんな知見を引き出すのかというのは、人間が考えなければならない」という認識がないままデータ活用に取り組むと、「データを集めてみたが期待していた結果が出なかった」ということになりかねませんので、注意が必要です。

日本におけるDXとデータマネジメントの現状と課題

画像:日本におけるDXとデータマネジメントの現状と課題
  • ① 日米でのDXの取り組み状況の違い

    DXを何らかの形で「実践中」と回答した日本企業は20.3%と2017年調査の6.6%よりも増加しているが、アメリカでの28.6%よりも低く、実証実験を行っている企業も7.8%で、アメリカの26.0%とは3倍以上の開きがある。いまだに5.2%の日本企業が「DXを知らない」と回答している(※1)
  • ② DXを推進する際の障壁の変化

    DX推進に対する障壁として2018年、2019年には「投資コスト」が1位だったが、2020年には「スキルや人材の不足」が1位になったほか、「現状の社内マネジメントの体制」や「企業文化」など、既存の社内体制や意識に関する項目が上位に挙がっている(※2)
  • ③ 組織横断的なデータ活用への取り組み

    データを組織横断的に活用できる環境を構築し、さらにユーザーがそうした環境を利用している企業は22.2%だが、一部の事業や組織でデータを活用していたり、データ活用の準備を進めたりするなど、何らかの形でデータ活用への取り組みを行っている企業は8割を超えている(※3)
  • ④ データマネジメントの課題

    「データ統合環境の整備」「データ分析・活用のための体制/組織の整備」「データマネジメントの態勢整備」など、環境や体制の整備に関する項目に加え、「経営層または事業部門の理解・参画」「人材(データサイエンティスト)の育成」「費用対効果の説明」など、人に関する項目が課題の上位に挙がっている(※3)
  • ⑤ 日米のDXを推進する目的の違い

    日本では「業務オペレーションの改善や変革」「既存ビジネスモデルの変革」など業務効率向上をDX推進の目的とする企業が多い。一方アメリカでは、「新規事業/自社の取り組みの外販化」「新製品やサービスの開発/提供」「顧客エンゲージメントの改善や変革」など、新たな価値創造が上位に挙がっている(※1)
  • ※1 一般社団法人電子情報技術産業協会・IDC Japan/「2020年日米企業のDXに関する調査」より作成
  • ※2 株式会社電通デジタル/「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2020年度)」より作成
  • ※3 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会/「企業IT動向調査2020」より作成

キヤノンITソリューションズのデータマネジメントサービス

データマネジメントコンサルティングから、データマネジメントプラットフォームや機械学習・データ分析プラットフォーム、デジタルマーケティングの導入支援、データ分析支援のサービスまで、お客さまのデータマネジメントをワンストップでサポートし、DX推進に貢献します。

キヤノンITソリューションズの
「データマネジメントサービス」

  • 次のページ

    データマネジメントの推進には
    使いやすいシステムに加え「データの価値」の共有が必要
    外部の専門家の活用も一法。
    短期的成果ばかり求めず共に価値創造を目指す

C-magazine サイト トップページに戻る

PDFで閲覧する場合は、デジタルアーカイブスへ

このページのトップへ