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ITのチカラ Vol.23 大学教育の質向上を支える教学マネジメントの基盤

将来がますます不確実となる時代にあって、学生たちにとっては自らの目標を明確に設定し、主体的に学修に取り組むことが必須となっている。各大学にはその成果を客観的に評価しつつ、より良い学修環境を提供し一人ひとりの成長を支えていくことが求められる。そうした中で多くの大学が実施しているのが教学マネジメントの強化だ。この取り組みの基盤となるIR(Institutional Research)について、同志社大学 社会学部 教授の山田礼子さんに聞いた。

※ IR:教育機関において、さまざまな活動に関するデータや情報を収集し、分析することで、経営戦略・財務計画などの立案を支援する活動

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  • 2022.03.01

[Vol.23]大学教育の質向上を支える教学マネジメントの基盤

研究重視から教育重視へ。大学教育の転換で求められる教育の質的向上と学修成果の可視化

写真:山田礼子 さん 「IRは教学マネジメントの強化に必要不可欠で、大学DX推進のインフラとなりえます。」 同志社大学
社会学部教育文化学科
博士後期課程教授
山田礼子 さん
同志社大学文学部社会学科卒業後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教育学大学院博士課程(Ph.D)を修了し、プール学院大学国際文化学部助教授などを経て現職。

――日本における大学教育の現状についてお聞かせください。

かつての日本の大学は、どちらかといえば教員の研究を重視する傾向があったように思います。それが現在、政策的には教育重視の方向へと変わってきています。

きっかけとなったのは、2008年に文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会から出された学士課程答申です。この答申は、学士課程教育の構築が日本の将来にとって喫緊の課題であるとし、「グローバルな知識基盤社会、学習社会において、我が国の学士課程教育は、未来の社会を支え、より良いものとする『21世紀型市民』を幅広く育成するという公共的な使命を果たし、社会からの信頼に応えていく必要がある」と変革を促しました。

これにともない各大学には、時代を生き抜く力を学生が確実に身に付けるための教育改革の必要性が叫ばれるようになり、学士課程全体を通じて学生が到達すべき目標を示すことが求められています。さらに、そこで行われる教育の質を保証するための具体策として、学修成果を可視化することが重要なポイントとなっています。

20年には中央教育審議会大学分科会から「教学マネジメント指針」というガイドラインも示されています。教学マネジメントとは「大学がその教育目的を達成するために行う管理運営」と定義されるもので、具体的には学長のリーダーシップの下、「卒業認定・学位授与」「教育課程編成・実施」「入学者受入れ」の3つの方針に基づいた体系的かつ組織的な教育を展開するとともに、その成果の点検・評価を行い、教育の質および学修成果の向上に向けた改善を図るPDCAサイクルを回していくことです。

この方策にしっかり対応できているかどうかが、大学の評価を大きく左右する時代となっているのです。

教学マネジメントを支え大学DXを推進していくインフラとなるIR

――教学マネジメントを推進するためにはどんな取り組みが必要ですか。

教学マネジメントを最大限に機能させ、さらに推進していくためには、データを収集、蓄積、科学的に分析し、解決や改善につなげていくIRの開発が非常に有効です。

IRは必ずしも教育だけを対象としているわけではありません。大学内に散在している財務や施設なども含めたあらゆるデータを統合し、一元的に管理します。この基盤上に学修成果を測定するために必要な客観的なデータを集めて分析し、結果を可視化して示すことで、学生の学修効果を高めるより良い教育環境の整備へとつなげていきます。

たとえば施設に注目してみましょう。現在の大学ではアクティブラーニングを促す手法として注目されているPBLと呼ばれる問題解決型の授業が増えていますが、既存の教室の中にはこうした新しいタイプの授業にとって決して使い勝手が良いとはいえないものが数多く存在します。また、広いキャンパス内や遠隔地のキャンパス間を、学生たちが長時間かけて移動しているケースも散見されます。学習効果向上のためにも、施設の面からの管理・分析が必要となります。

さらにコロナ禍を契機に大学でも広がったオンライン授業のメリットを高く評価する教員や学生も増えており、コロナ収束後もリアルの対面授業とオンライン授業を適材適所で融合したハイブリッド型の授業が定着していくと考えられることから、今後の授業の在り方を今から模索しておかなければなりません。

こういった教育現場における多くの課題を解決するために必要となってくるのが、IRです。前述した教学マネジメントのPDCAを回していくエビデンスとなるものであり、さらにいえば大学のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するためのインフラがIRであると私は考えています。

※PBL:プロブレム・ベースド・ラーニング、プロジェクト・ベースド・ラーニング

日本の大学の現状とIRの進捗状況

画像:日本の大学の現状とIRの進捗状況
  • ① 2000年度~2040年度の18歳人口・進学者数・進学率

    日本の18歳人口の減少にともない、進学者数も減少すると予想される。高等教育を受けた人が減ることによって、日本の持続的な成長や発展が停滞することが不安視されている(※1)
  • ② オンライン授業について / ③ オンライン授業の評価アンケート

    2021年3月に行われた調査では、昨今のコロナ禍の影響もあり大学の授業に関して約6割が「オンライン授業がほとんど・すべてだった」と回答。また半数以上が「満足」と評価しており、オンライン授業の定着など授業の在り方が変わってきている(※2)
  • ④ 全学的なIRを専門で担当する部署の設置状況 / ⑤ IRを専門で担当する部署に、専任の教員を置く大学

    大学のさまざまな成果や課題を可視化し、分析するための全学的な組織として、IRを専門で担当する部署を設けている大学は2015年度から2019年度にかけて15%ほど増えている。しかしIRを専任とする教員を置く大学は2019年度でも2割に届かず人材不足が危惧される(※3)
  • ※1 文部科学省/「大学への進学者数の将来推計について」より作成
  • ※2 文部科学省/「新型コロナウイルス感染症の影響による学生等の学生生活に関する調査(結果)」より作成
  • ※3 文部科学省/「令和元年度の大学における教育内容等の改革状況について(概要)」

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主体的な学びを促進するため全学的な教学マネジメントの構築を支援する教育機関向けソリューションです。
「基本導入サービス」をはじめ、「データ連携サービス」、「ダッシュボード作成サービス」、「業務支援・コンサルティングサービス」といった各種サービスを用意し、各大学の環境や用途に合わせ導入が可能。「教育の質保証」と「学修者本位の教育」の実現に貢献します。

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    日本の大学におけるIRに対する取り組みの現状と課題とは
    数学や統計学のスキルだけでは足りない。IR人材育成の困難
    単独でIRに臨むのは困難。複数の大学組織が共にパートナーと
    組む方法も有力な選択肢に

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