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トップ > ITのチカラ [Vol.23] 大学教育の質向上を支える教学マネジメントの基盤 > P2
将来がますます不確実となる時代にあって、学生たちにとっては自らの目標を明確に設定し、主体的に学修に取り組むことが必須となっている。各大学にはその成果を客観的に評価しつつ、より良い学修環境を提供し一人ひとりの成長を支えていくことが求められる。そうした中で多くの大学が実施しているのが教学マネジメントの強化だ。この取り組みの基盤となるIR(Institutional Research)※について、同志社大学 社会学部 教授の山田礼子さんに聞いた。
※ IR:教育機関において、さまざまな活動に関するデータや情報を収集し、分析することで、経営戦略・財務計画などの立案を支援する活動
今回のポイント
ソリューションレポート
――すでに多くの大学でIRの導入は進んでいるのでしょうか。
法人評価でIRの充実が求められている国公立大学はもとより、私立大学においてもIRを整備する大学は確実に増えています。
とはいえ、まだまだ課題は山積しています。18年度以降の私立大学等改革総合支援事業では、IRの企画や実施方法に関する高等教育プログラムを受けた教員、またはIR研修を定期的に受講する担当者を配置することを求めていますが、各大学の人的リソースには限りがあるため対応に苦慮しているのが実情です。
大学教育学会や日本高等教育学会の会員が所属している大学院の教育を通じてIR人材を育成しており、修士や博士の学位を持つ人が大学のIR担当者として赴任するケースもありますが、ほとんどの場合が有期契約で、任期を満了するとほかに移ってしまいます。その短い期間内でIRの知見を伝承することは困難で、継続的に人材を供給できるスキームを確立しなければ、今以上に多くの大学にIRを普及させることはできません。
――IR人材には具体的にどんな知識やスキルが求められるのですか。
IR人材はさまざまなデータを専門的に扱い分析を主導することから、データサイエンスに関する高度なスキルが求められます。
しかし、各大学が目指している高等教育の方策や学生の多様なニーズなど、大学という組織そのものの運営に関する知識と勘所を備えていないと、IRの職務を担っていくことはできません。
そこで既存の教員に対する研修やリカレント教育※を通じて、IR人材の採用とともに組織内でもIR人材の育成を図っていく両面作戦を展開していくことが必要なのですが、先にも述べたようになかなか手が回りきらないのが現実です。
※リカレント教育:生涯にわたって、教育と就労のサイクルを繰り返し、仕事で求められる能力を磨き続けること
――足りない人材やスキルを外部から調達する手もありそうです。
教学マネジメントやIRに関する高い知見を有する外部企業のパートナーと組むという方法は、実は私がかつて代表会員を務めていた大学IRコンソーシアムでも議論したことがあります。
大学IRコンソーシアムは、現在では50以上の大学が参加していますが、設立当初は同志社大学、北海道大学、大阪府立大学、甲南大学などの8大学から出発した任意団体でした。これらの大学間で共同利用しているクラウド型IRシステムの開発を委託したITベンダーに、システム面だけでなくIR業務のサポートまで任せられないかと考えたのです。
この時点では機が熟しておらず結果として実現には至りませんでしたが、世の中を見渡せば、たとえば大学とITベンダーが手を携えてLMS(学習管理システム)の開発や運用に当たっているケースはいくらでもあります。
そういった意味では今後、IRの運用や人材育成、スキルトランスファーに関しても、大学がITベンダーとタッグを組む価値はあるのではないでしょうか。
そもそもIRを実践するためには巨額なIT投資が必要になることが多く、いわゆるマンモス大学といわれる大学以外の比較的小さな私立大学などが単独で臨むのは非常に難しいでしょう。大学IRコンソーシアムと同様に、複数の大学組織の連携による課題解決は不可欠であり、チームの一員としてITベンダーを加えることは、非常に有力な選択肢になると思います。